学園祭の熱い夜
レティは、『 悪役令嬢 』の休憩時間を、アルベルトと過ごそうと4年A組までやって来た。
そして……
ちゃんと並んで順番を待つピンクの頭の悪役令嬢は、良い令嬢だと皆がクスリと笑った。
レティが来てる事をラウル達から知らされていたアルベルトは、今か今かと、レティがクラスに入って来るのを逸る気持ちを押さえて待っていたのであった。
抜け出す事に成功した二人が最初に行く所は、勿論料理クラブである。
料理クラブでは、ケーキやクッキーなど部員達の手作りスイーツをラッピングして販売していて、去年はレティの悪役令嬢販売で、特別賞を貰ったのであった。
二人で正門の前を横切ると………
あの時の門番が敬礼をして、警備はバッチリだと親指を立てる。
そう……昨年は酔っぱらい達が学園に侵入し、レティとアルベルトが戦闘をして捕らえたと言う事件があったのだった。
「 お疲れ様でーす 」
レティが手を振ると、その他の門番達も帽子を取りお辞儀をした。
「 今年の警備はバッチリみたいね 」
「 当たり前だ! 失態は二度目は無いよ 」
皇太子殿下は手厳しいらしい。
並木道の木々が紅葉し、色とりどりの落ち葉が地面に広がる 一番綺麗な季節を、手を繋いで歩く二人に、すれ違う生徒達が頭をさげたり、レティに小さく手を振る生徒達もいた。
料理クラブの教室まで行くと、突然の皇子様の訪問に部員達はキャアキャアと大騒ぎになる。
今回は2年生はスイーツを習っているので、勿論レティもお菓子作りに参加した。
「 レティが作ったのはどれ? 」
「 これ…… 」
アルベルトは、レティが作ったクッキーと、一口大のケーキを買い、二人で皇子様のベンチに座って食べる事にした。
このベンチに……
一瞬固まってしまったのは、まだ王女を引きずっているのであるからだ。
そう……悲しい記憶は容易には消せない……
ごめん……レティ……
アルベルトもここに来る度に、心の中でずっと謝り続けていたのであった。
「 レティ、食べさせて…… 」
アルベルトがドカッと座ると、いきなりあーんと口を開けた。
レティはクッキーをつまんで口へ運ぶ。
アルベルトは、クッキーをレティの指ごとパクりとしてニヤリと悪い顔をする。
「 …………!? 」
……レティは目を真ん丸くして固まっている。
「 じゃあ、次はレティ…… 」
アルベルトが一口大のケーキをレティの口に運ぶ。
パクりと食べたレティに嬉しそうに訪ねる。
「 美味しい? 」
「 うん……美味しい 」
二人の大切な場所である皇子様のベンチの悲しい記憶は、楽しい想い出として塗り替えられたのであった。
そして……
それを見ていたギャラリーは萌え死にした。
***
「 去年もこうして二人で学祭を歩いたね 」
「 うん 」
去年は……
こんな風に手を繋いで歩く様な間柄では無かったのよね。
そんな事を思い出しながら歩いていると……
「 僕は……あの時もこうして君と手を繋ぎたかったんだ 」
本当に……
この皇子様はどうしてこんなに私の事を好きなんだろうか?
はにかむ様に言う殿下に胸がキュンとなる。
『 誰も居ないお化け屋敷 』は今年もやっていた。
やはり、誰も居なかった……だけのクラスだった。
今年もやってるのが可笑しくて、殿下と二人でお腹を抱えて笑った。
輪投げゲームをしたり、的当てゲームをしたり……
二人であちこちのクラスを巡って楽しんだ。
そして、楽しい祭りはフィナーレに近付く。
講堂に全校生徒が集合し結果発表がある。
優勝は『 皇子様のご奉仕喫茶 』
4年A組がハイタッチをして喜びを爆発している。
ああああ………
項垂れる2年生軍団。
「 今年は趣向を凝らしてあんなに頑張ったのに……」
「 所詮は皇子様には勝てないってわけよ 」
お兄様が勝ち誇った様な顔をしてるのが憎たらしい。
そして……
次なる挑戦が出来無い事がもっと切なかった。
因みに特別賞は、庶民棟の『 誰も居ないお化け屋敷 』だった。
何で?
誰も居ないクラスだったのに、わらわらと賞品を受け取りに来ている事に皆が大ウケした。
例年なら後片付けをしてお開きになるのだが……
そこは今年の生徒会で、この後、後夜祭があるのである。
廃材を集めて、校庭の中心でファイヤーストームが焚かれる。
アルベルト生徒会長が点火式を行い、後夜祭の開催の挨拶をした。
「 有意義な時間を大切な人と過ごしてくれ 」
楽器を弾ける者を前もって募集を掛けていた為、各々の楽器を持って生徒達数人が集まった。
音楽が奏でられる中、皆、祭りの最後を楽しんでいる。
肩を組んで歌ったり、踊ったり………
2年生の皆で焚き火を見ていたら、ふわっと後ろから抱き締められた。
「 レティ……ここにいたんだ 」
殿下だ……
キャッと言いながら皆はそそくさと離れていき、レティとアルベルトの周りは疎らになる。
周りを見渡すと……
恋人達は、手を繋ぎ、肩を寄せ会い、腰に手を回し、其々が寄り添いながら焚き火を見つめていた。
「 寒くない? 」
「 うん……アルがいるから寒く無い 」
11月の夜はかなり寒い。
アルベルトはレティの後ろからハグをしていたので、レティはアルベルトの腕の中にスッポリと収まっていた。
暫く、お互いに黙ったままで焚き火の美しさと音楽に酔いしれていた。
「 レティ、新しい婚約指輪は本当に要らないの? 」
「 うん、要らない……もう貰ったでしょ? 」
アルベルトはレティにプロポーズする時に、ローランド国の小さな宝石店で指輪を買った。
しかし、その指輪はレティの細い指には少し大きく、アルベルトは帰国したらちゃんとしたものを贈るつもりでいたのである。
レティは、昨年のクリスマスプレゼントにアルベルトから贈られたネックレスに指輪を通して、何時も付けていたのであった。
「 アルが選んでくれて、アルがプロポーズの時に、私の指に嵌めてくれたと言うプロセスが大事なのよ」
アルベルトが、何度も、もっとちゃんとしたものを贈ると言ってもレティは要らないと言った。
「 もし、あの時に、地面に落ちてる針金を指に巻かれたなら、もうそれでも良いんだからね 」
レティはそう言うとネックレスをブラウスの襟から取り出し、指輪にキスをした。
すると、アルベルトがレティの手を持ち、レティのキスをした指輪にアルベルトもキスをした。
アルベルト達の学年の4年生は18歳である。
18歳にもなると、もう結婚してる生徒もいるし、妊娠して学園を辞めた生徒もいる。
卒業したら、ラウルとレオナルドは文官養成所に入り、エドガーは騎士養成所に入る事になり、アルベルトは皇太子として本格的に公務が始まる。
焚き火を見詰めながら
各々が不確かな未来を見つめているのだった。
アルベルトはレティを後ろからギュッと抱き締める。
「 レティ 」
「 ん? 」
顔をアルベルトの方に向けたレティの頬に手を添え、アルベルトはレティにそっと口付けをした。
未来に大きな物を抱えてるレティと、婚約をしても二人の未来が見えて来ないアルベルト……
二人の未来はどんな未来なのだろうか……
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