レティとリティーシャ
皇太子殿下から一途に思われ、婚約式では歴史に残る程のラブシーンを披露した公爵令嬢。
皇后陛下からはティアラを授けられ、何よりも、皇帝陛下とダンスを踊った公爵令嬢。
 
そんな公爵令嬢の絵姿に目と目が離れた少女の絵姿が多くなっていた頃……
小さな洋裁店『 パティオ 』がオープンした。
オーナーはデザイナーレディ・リティーシャ、若干20歳の見目麗しき女性オーナーである。
1度目の人生でのレティは
学園を卒業してから、19歳でリティーシャとしての名で店を持ち、若干20歳でデザイナーとして名を馳せ、皇太子殿下と結婚をするアリアドネ王女のウェディングドレスを、イニエスタ王国からオーダーされた程の実力者である。
4度目の人生でのリティーシャは16歳。
16歳ではどうしても舐められてしまうので、20歳である必要があったのだ。
僅か16歳で店を持つ事が出来た理由は、一度目の人生での経験……そして、成功があったからなのである。
「 マーサ……どう? 20歳に見える? 」
「 そうですねぇ……うーん……うーん…… 」
「 やっぱり見えないわよねぇ…… 」
 
レティは、頭は小さく手足はスラリと伸びてスタイルは良い。
しかし、細身で小柄だからかどんなに化粧を濃くしても20歳には見えないのである。
 
「 これ以上は化粧を濃くは出来ないわ……ケバくなるだけだもの……胸がねぇ……もう少しあれば…… 」
「 大丈夫ですよ、お嬢様も20歳位になればもっと大きくなりますよ 」
「 今、欲しいのよ、今! 」
 
もう、こうなったらインパクト大のピンクのカツラを被って、見た目ではよく分からない年齢にしちゃおう!
そうして洋裁店『 パティオ 』店のオーナーレディ・リティーシャは、ピンクのウェーブの髪が特徴の女性となった。
学生であるレティはそれ程店には行けない。
だから店は代理の店長に任せるつもりであるので、年齢詐称はそれ程問題にはならないだろうと言うのがレティの考えなのである。
 
オープンの日には、劇場のお姉さん達が花束を持って駆け付けて来てくれた。
 
「 あら? 随分と変身しちゃったわね? 」
「 あんた本当の歳はいくつなのよ? 」
お姉さん達との最初の出会いは、魔道具であるスポットライトの設置に劇場に出向いた時だ。
そう、皇太子殿下が王女とオペラ観劇に来ていた日である。
その時のレティは虎の穴の研究員として行っていたので、勿論スッピンだった。
「 あんた……化粧が上手だねぇ…… 」
お姉さん達が、どんな化粧品を使ってるのかとレティの化粧に興味を持ったので、化粧の手解きと化粧品の宣伝もした。
『 パティオ 』は、女性の頭の先から、爪の先まで最高の物が揃うと言うコンセプトの店である。
 
「 へぇ……お店を持ってるって嘘じゃ無かったんだ 」
このお店に似つかわしく無い野太い声の主は……
「 ジャック・ハルビン!? 」
「 久し振りだな……良い店じゃないか……」
「 来てくれたの? 」
「 ほれ、祝いだ! 」
そう言ってポイっと投げた物は、小さなビンだった。
中には青い液体が入っていた。
「 これ何? 」
ジャック・ハルビンはレティに耳打ちをした。
「 ドラゴンの血…… 」
「 !? 」
「 あんた、欲しがっていただろ? 」
  
ローランド国の王立図書館で見た本でドラゴンの血が万能薬だと記載されていた事から、帰国する直前にジャック・ハルビンの店に行き、ドラゴンの血は入手出来ないのかと聞いていたのである。
 
ジャック・ハルビンの母国はサハルーン帝国である。
そして、サハルーン帝国が昨年魔獣に襲撃された事を知り、帰国した時にアルベルトから、その襲撃した魔獣はドラゴンだと教えられて、余計にドラゴンの血に興味を持ったのだった。
「 まさか………それ、帝国から盗んで来たんじゃ無いでしょうね? 」
「 おいおい、物騒な事を言うね? サハルーンではドラゴンの血からポーションと言う薬を開発したらしいぜ、この血は……とあるルートから捻出した代物なんだけどサ 」
ポーション……
レティは衝撃を覚えた。
サハルーン帝国は医学が発展している。
人類の医学の進歩は、被害があって……沢山の犠牲があって発展して来たんだと、医師だった2度目の人生の時にユーリ先輩から教えて貰った……
 
ドラゴンの襲撃。
胸が痛む……
しかし、それだからこそ情報は共有する必要があるのだ。
その沢山の犠牲を無駄にしてはならない。
国なんか関係無い!
それが医師として、また、薬学研究員としてのレティの想いであった。
「 ………で? そのポーションは? 」
「 えっ!? そんなの持ってねぇよ 」
「 使えないわね! 次はポーションをお願い 」
「 おい! そのドラゴンの血だって、持ち出すのは大変だったんだぜ、ポーションなんか国家機密に違いないぞ 」
そのポーションと言う薬の情報はなんとしても欲しい。
レティは、意を決しておねだりポーズをした。
目をぱちぱちさせ、ね?お願いと言い、唇を尖らせた。
無症状のまま固まっているジャック・ハルビン。
私を大好きな殿下には成功したけど……流石に無理か……
「 ………次に持って来てやるよ 」
ジャック・ハルビンは耳を赤くして頭を掻きながら言った。
うわっ!?効き目あり……何で?
「 ジャック・ハルビン……本当に有り難うございます 」
レティはドレスの裾を持ち、丁寧にお辞儀をした。
「 まあ、国家機密の代物だからな、あまり期待はしないでくれよ 」
そう言ってクシャッと笑った。
笑った顔はノア君に似ている……
しかし……
ジャック・ハルビンの裏の顔って何だろう?
気になるわ……
「 リティーシャちゃん! おねだりポーズが上手いじゃ無いか! 」
「 ねぇ……その男性があんたの婚約者かい? 」
「 中々渋い男だねぇ…… 」
「 えっ!? 」
慌てて後ろを振り返ると、お姉さん達の目がギラギラしている。
劇場にドレスを納品に行った時、話の流れでレティに婚約者がいると知ったお姉様達が、女は貢がせてこそなんぼのもんだと、恋人におねだりをする仕方を、聞いてもいないのに無理やり教えてくれたのだった。
それが……
騎士クラブでウィリアム王子と手合わせをする事をアルベルトに了解させた、あの、おねだりだったのである。
『 おねだりする時は、目をぱちぱちさせ、甘えた声で……ね?お願いと言い、唇を尖らせ人差し指を加える 』
こうおねだりすれば、宝石を必ずプレゼントしてくれると教わったのである。
ただ……唇を尖らせ人差し指を加える……の人差し指を加えるは、ハードルが高かくて出来なかったレティなのであった。
「 違います! この人じゃありません! 」
「 あんた婚約してんの? もしかしてあの時の彼氏か? 」
慌てて否定するレティを訝しげに見ながら、ジャック・ハルビンは思い出した様に言った。
「 なんだ、この人じゃ無いのか…… 」
「 でも、この娘の彼氏を見たんだね? 」
「 どう? どう? どんな男? 」
お姉様達の目のギラギラが更にギラつく。
「 ああ、物凄いイケメンだったぜ 」
そうだったわ……
殿下がジャック・ハルビンの店に入った時には、暑いからとレオナルドに変装するカツラを取っていたんだったわ……
「 背が高くて、金…… 」
「 キャーー」パチン!
……と叫びながら、ジャック・ハルビンの頬をぶっ叩いた。
「 いてーな! 何するんだよ! 」
頬を押さえながら凄むジャック・ハルビンに
「 あっ、ご免なさいね、虫が頬に止まっていたものだから…… 」
そして、すかさず耳打ちをする。
「 お姉様達には内緒にして欲しいのよ、あのギラギラした目が見えないの? 」
この百戦錬磨の色気ムンムンのお姉様達に、私の大事な婚約者を狙われたく無いのよと言うと、成る程と納得をしてくれた。
皇太子殿下がお忍びでローランド国に入国し、そこで傷付いた公爵令嬢にプロポーズしたと言う話が公表されてる以上は、ローランド国での皇太子殿下の行動については、あらぬ詮索をされ無い様に気を付けなければならないのである。
 
「 うんうん……背が高くて……それから? 」
お姉様達の目はギラギラしている。
「 えっと……目と目の間が……離れてるイケメン 」
な!?……こいつ……
何で目と目が離れてるなんて言うかな?
しかし、とたんにお姉様達の目のギラつきが消えた。
背の高い目と目の間が離れたリティーシャの婚約者に、興味が失せた瞬間だった。
 
そして……
お姉様達は、
「 そう言えば、皇太子の婚約者も目と目の間が離れてるらしいよ 」
皇太子はあれ程の美丈夫なのにね。
それでもその婚約者を寵愛してるらしいよ。
まあ、人の趣味は色々だからね~
お姉様達の噂話が続く……
 
殿下……ご免なさい……
私も殿下も、目と目の間が離れた人物になってしまったわ……
 
レティの婚約者も、アルベルトの婚約者も、奇しくも目と目の間が離れている人となってしまったのだった。
   
読んで頂き有り難うございます。
 




