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4度めの人生は 皇太子殿下をお慕いするのを止めようと思います  作者: 桜井 更紗
第2章

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唯一無二の皇子




「 王子殿下、ようこそ我が国の虎の穴へ 」


ローランド国の第一王子のウィリアム王子が、シルフィード帝国の重要機関である虎の穴に視察に来たのである。

またの名を、皇立特別総合研究所と言う。(←違う!反対だ)



虎の穴所長のルーピンが、久し振りに本来の仕事をしている。

ルーピンは水の魔力の持ち主で、虎の穴の所長と言う名誉ある輝かしい職に就いていたが、水の魔力は消防団で発揮して、役に立つ事をしろとレティから言われてからは、もっぱら消防士として活躍をしていたのであった。



王子の視察と言う事もあって、虎の穴の職員や研究員全てが勢揃いし、王子を出迎えた。

ただ、物理学研究室の赤のローブの爺達10人は、王子のローランド国に特使として視察に行っている為に留守であった。



薬学研究室の前では、白のローブを着たレティ達が並んでいる。


「 へぇ、君……ちゃんとここの研究員だったんだね 」

「 王子殿下、視察に来て頂きまして有り難うございます」


レティがお礼を言うには理由があった。


ローランド国とシルフィード帝国は、お互いに特使を送りあったり、学生の交換留学も毎年行っている。

なのに、お互いの良い所、学ぶべき所の情報が、うまく交換出来ていないのが現状だった。


王子はしっかりと視察をして、お互いの国が発展できる仕組みを作る為に、国の重鎮達に特使を送る様に進言して欲しい。

そして、今、シルフィード帝国から特使として送られている爺達に、王立図書館への入館をさせないなんてあり得ないと、王子に説教をしたのである。



そして……

同じ事を、シルフィード帝国の皇子、アルベルトにも説教をした。


「 殿下達は、1年もローランド国に留学していたのに、一体何をしていたの? まさか一度も、王立図書館に足を運ぶ事は無かったと言う事かしら? 」

「 いや……他国の者は駄目だと聞いていたから…… 」

それを何とかするのが皇子でしょ!

……と、皇子の役割をこんこんと説教したのだった。


アルベルトはレティの、ど正論にタジタジだった。

本を読むのを好きなアルベルトだけど、他国の者は駄目だと言われている図書館に、何がなんでも行くと言う必要性は感じなかったのである。


「 それで、ローランド国の虎の穴への視察は? 」

「 いや……王宮には何度か行ったが…… 」

レティの容赦の無い追及に、しどろもどろの言い訳をするアルベルトだった。



「 全く……1年間何をしに行ったの? 」


──遊んで来ただけであった。

ラウルもエドガーもレオナルドも、とばっちりを受けない様に存在を隠した。




そんな事があっての、ウィリアム王子の虎の穴の視察だった。


勿論、全部が全部をさらけ出す必要は無いが、医療だけはお互いの国の為にも、情報交換をして欲しいと思うのがレティの考えだった。



流行り病の薬。

何としてでも発見しなければならない。

今日はそれの第一歩だ!



そして、王子がルーピン所長に案内されながら通り過ぎると、アルベルトと文部大臣達、その他の関係者達が後を続く。


アルベルトは、今日は魔力使いとしてでは無く、皇太子殿下として、王子のホスト役の公務で虎の穴に来ていた。


薬学研究室の前で、薬師達と並んで立っているレティの前を通り過ぎながら、アルベルトはレティの手をちょんと触って来た。

誰にも見られない様に……


もう……殿下ったら……



青のローブを着た錬金術の部屋を通りすぎる。

錬金術はやはり国家機密であったが為に、開示する事は出来ないと判断された。



そして、黒のローブを着た魔力使い達が並ぶ。


レティは、アルベルトとルーピン以外では魔力使いに会うのは初めてだった。

この国の魔力は錬金術と関係してる事から、呼ばれた時にその能力を発揮するだけであった事から、自分の魔力のコントロールをする事の為にしか虎の穴には来ることはあまり無かったのである。



魔力使いは、シルフィード帝国ではアルベルトを含めた12名しかいない特別な存在であった。

正確には、12名しかいないのではなく、12名しか発見されていないのである。


魔力が、どの様にしてその者に宿るのかは謎だが、ある日突然開花する者もあれば、一生開花されずに眠ったままの者もいる。


アルベルトが良い例で、幼い頃から魔力を秘めてると言われ、開花の為に虎の穴に来る様に誘われていたが、本人には自覚も無くそのままであった。


レティの3度のどの人生でも開花はしておらず、4度目の人生でレティが虎の穴の研究員になる事で、開花させる事となったのである。



魔力の持ち主は何処の国でも宝であるが故に、この12名は帝国で特別待遇を受け、その存在は厳重に管理されていた。


魔力の属性は、光、雷、水、火、風、の5種類がある。

光と水の魔力の持ち主は各々3名、火は4名で、風と雷の魔力の持ち主は、各々たったの1名しかいなかった。


よって、アルベルトはシルフィード帝国で唯一の雷の魔力の持ち主である事になる。

いや、皇子が魔力の持ち主である事が前代未聞であった。



軍事式典の時に、アルベルトの聖剣を使ってのデモンストレーションは、魔力を持った皇太子殿下をアピールする為であった。

それも、魔力の中でも最強の強さを誇る雷の魔力の持ち主である。

世界中に、強いシルフィード帝国を知らしめる為の、皇帝陛下の策略であった事は言うまでもない。



そして、そのニュースは瞬く間に世界中に駆け巡った。

元々、アルベルトが美丈夫である事から婚姻の打診は多かったのだが……

魔力を持った皇太子殿下のいる強いシルフィード帝国と、婚姻関係を結び、後ろ楯になって貰おうとする政治的な思惑の為に、今や、遠く離れた国からも、皇女や王女との婚姻の申し込みが殺到している状態であった。


だから、婚約式を盛大にする必要があったのだが、皇太子殿下の婚約者が公爵令嬢という、皇族や王族にとっては身分が低い相手だったが為に、どの国も諦める事は無かった。



そして………

どの国の皇族や王族にも側室制度があった。

身分の低い正室は他国から舐められる原因にもなりうる。


今回、大臣や議員達が、あんな性格の悪い王女に拘ったのも、そんな懸念があったからである。


やがて皇太子殿下の公爵令嬢への熱は冷めるだろうから、その時に、皇女か王女を正室に迎え入れれば良いだろうと言う考えが、大臣や議員達には少なからず今でもあるのであった。




そんな、どす黒い大人達の思惑とは裏腹に

世界中から欲せられている、唯一無二の皇子であるシルフィード帝国の皇太子殿下は、大好きな婚約者の手をちょんと触って喜んでいた。


皇太子殿下の公務なので、付いて来ていた側近であるクラウドは、そんな殿下に呆れながらも

恥ずかしそうに……そして嬉しそうな顔をする公爵令嬢を守りたいと思うのであった。



諦めない恋。

それが……

前途多難であるが故の二人の恋のあり方だった。







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