閑話─皇帝陛下と宰相
小話その2です。
「 アルベルトは行ったか? 」
「 はい 」
アルベルトがレティの元へ発ったその夜、ラウルと別れ、深夜にも拘わらずルーカスは皇帝陛下の元へ参上した。
皇帝陛下は酒の用意をして待っていた。
「 それにしても、面白かったのぉ 」
「 陛下、もっと早く助け船をお出ししてもよろしかったのでは? 」
皇帝陛下と宰相ルーカスが、皇帝陛下の居間で酒を酌み交わしていた。
「 大臣や議員も纏められないのなら、アルベルトもそれだけのものと言うだけじゃ 」
「 しかし……… 」
「 それにしても、アルがあんな事を言うとは…… 」
陛下が思い出しながらクックッと笑い出した。
「 爺達も、面白い物を送って来たものだ 」
「 あの書簡が無ければ、どうなっていたのでしょうか? 」
「 そちの娘と、駆け落ちでもするつもりだったんだろう 」
皇帝陛下は嬉しそうに酒を一口飲んだ。
「その様な事は…… 」
帝国の宝である殿下に、そんな事をさせてはいけないのである。
宰相として……
だから直ちにレティに身を引かせたのだ……
「 しかし、そちの娘は実に興味深い 」
「 はあ、あれは……少々自由に育て過ぎました…… 」
ルーカスがバツの悪そうな顔をした。
「 アルがこれ程好いてるとは……片時も離れたく無いようじゃ 」
「 娘の側に殿下がいて下さる事が本当に有難い事でございます、最近では……とても我々の手には負えませんので…… 」
ルーカスは首を左右に振り、こめかみを押さえた。
「 騎士クラブに虎の穴だったか? そちの娘が虎の穴に入館した事で、爺達も活気付いておったぞ 」
そう言って皇帝陛下は大笑いした。
「 アルが魔力を開花させたのも、そちの娘が虎の穴に入館したからだと聞く 」
「 痛み入ります 」
皇帝陛下は、何時も自分を押さえ、あまり感情を出すことも無く、皇太子として公務をそつなくこなすアルベルトに、常日頃から物足りなさを感じていたのであった。
彼女に出逢ってからのアルベルトは、どんどん変わっていっている。
父である皇帝陛下は、その変化を喜んでいたのである。
「 リティエラ嬢が皇宮に来るのが楽しみじゃ、取り分け皇后は楽しみにしておるみたいじゃぞ 」
「 有り難き事にございます 」
アルベルトとレティの婚姻はレティの学園生活が終わってからになるだろうから、今すぐにレティが皇宮に上がる事はないのだが……
ルーカスは少し寂しくなるのだった。
酒の酌み交わしは早朝まで続いた。
楽しい時間であった。
「 おお、そう言えば、そちの息子のラウルとレオナルドとエドガーも随分立派になったのぉ 」
「 はい、最近では殿下と4人で未来の政治の話なんかもよくしております 」
「 あの……悪がき達が……」
「 本当に……ゆっくり大人になって欲しいものですな…… 」
ルーカスがしみじみそう言うと、皇帝陛下は目を細めた。
「 次は、イザークとデニスも呼ぶとするか…… 」
「 御意 」
イザークとデニスは、レオナルドとエドガーの父親である。
外相と国防相で、親子2代で主君に仕える事となるのであった。
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