王女と王子と皇子と……
ローランド国のウィリアム王子は、学園では何時も女生徒達に囲まれていた。
レティと王子は同じクラスだった。
「 俺とキスしたいなら、もっと俺に尽くしなよ 」
レティは固まった。
そして………
レティは忘れかけていた1度目の人生の自分を思い出していた。
入学式にアルベルト皇子に一目惚れをしたレティは、休み時間の度に、3年生のアルベルトのクラスに通い、少しでも振り向いて欲しくて厚化粧をし、皆に負けまいと強い香水を振り掛けて過ごしていたのである。
一度目の人生でのレティは、アルベルト皇太子殿下の大勢の取り巻きの1人であったのだ。
レティとアルベルトは2歳違い……そんな状態を2年間続けた結果、アルベルト皇太子殿下は卒業し、王女と婚約をし、レティの淡い恋は終わったのだった。
それからは、他の人を綺麗にする事に目覚め、化粧やドレスのデザインに没頭し、学園を卒業してから自分のブランド店を立ち上げ、デザイナーとして成功をし、アルベルト皇太子殿下と結婚するアリアドネ王女の、ウェディングドレスの注文をされるまでになったのだった。
愚かだったわ………
でも………
あの時も、純粋に殿下に恋していたのよ………
なのに………
「 俺とキスしたいなら、もっと俺に尽くしなよ 」
何じゃ!?このぼやけた王子は?
殿下は迷惑そうな顔をした事もあったけど、何時も優しく笑い、一度もそんな下品な言葉を発した事は無いわよ!!
大体、王子様ってもっとキラキラしてるもんじゃ無いの?
女性を蔓延らせて、王子だからと言っていい気になってるんじゃ無いわよ!
同じ王子でも、殿下とは大違い!
多分、アルベルトも周りから見たらそう思われていたのだろう………
1度目の人生では自分が当事者で、2度目の人生では勉強に没頭し、3度目の人生では騎士の訓練に没頭し、4度目の人生の今は、魔除けになっているのだから、レティは、アルベルトが女子生徒達に囲まれて、ハーレム状態になってる所は見たことがなかったのである。
もう、イライラするわね。
レティは荷物を持って、図書室に移動をした。
王子がニヤリと笑いながらレティを見ていた。
「 君は……医学書を読んでるの? 」
図書室にいるレティの前に王子が座った。
レティは、医師の試験を受けるつもりだった。
その為に、少し勉強しようと思ったのである。
ジロリと睨み、無視していた。
「 ねぇ、君はアルベルト皇太子殿下と付き合っていたんだって? 」
どこで調べたのか……王子がニヤニヤしている。
「 まあ、君みたいに綺麗な子なら皇太子殿下も唾を付けるよね、君は公爵令嬢だし………でも、皇太子殿下は王女に乗り換えた……まあ、それは仕方無いよ、王族の政略結婚は国の為にしなきゃならない事だからね 」
王子は軽く笑いながら、ベラベラとレティの触れられたく無い傷を、深く深くえぐって来た。
「 それで………何が言いたいのですか? 」
レティが医学書をバンと閉じて、王子を睨み付けながら言った。
「 だから、邪魔をしちゃいけないよ、静かに身を引くことだね、それとも君は側室になるの? ローランド国には無いけど、シルフィード帝国には側室制度が認められているからね 」
レティの何かが切れた。
「 何にも知らないくせに……」
不本意にも涙がボロボロと溢れた………
レティは、アルベルトと王女の婚姻が決まったと父親から聞かされても泣く事は無かった。
父が諭してくれた事が全てだと、ちゃんと受け入れたからだった。
「 邪魔……邪魔って、どいつもこいつも………私が何時邪魔をしたって言うのよ! 」
王女も王子もムカつく………
涙が止まらない………
くそぉぉ………こんなぼやけ王子の前で泣くなんて………
「 ……そんなつもりは……」
王子がオロオロしている。
涙を腕でゴシゴシと拭きながら、レティは医学書を元あった場所にしまい、荷物をバンバンと音をたてながら片付け、図書室を出ていった。
もう、たくさん!
王女も王子も………皇子も……
皆、勝手な事ばかり言う……
********
翌日が
ローランド国に来て、初めての休日だった。
レティは、いそいそとデートへ出掛けた。
赤のローブの爺達に会うためだった。
休日は大体この辺にいると、手紙に書いてたけど………分かるかな?
あっ、居た……
赤い塊は目立った。
ちゃんと10人居るかを数えた……
よし、ちゃんと10人居るわ。
少し安心した。
「 爺ちゃん達、お久し振りです 」
「 おお、妃様、よくわかりましたな?」
「 あっ、もう妃は駄目よ、レティと呼んでね 」
「 妃様………」
「 それでも我々は妃様とお呼びしますぞ 」
爺達も、殿下と王女の婚姻のニュースを知ってるんだわ……
それでも聞かないでいてくれる………有り難うね……
レティは涙を堪えた……
「 爺ちゃん達好き~ 」
レティは適当にその辺の赤のローブの爺に抱きついた。
「 殿下がいたら叱られ……」
あっ………と言う顔をする爺ちゃん……の顔が皆同じ様で誰が誰だか分からなかった……
「 さあ、行きましょう 」
レティも、持ってきていた白のローブを着用した。
これから、ローランド国の虎の穴(仮)に行くのである。
馬車でぎゅうぎゅう詰めで乗って行くのは楽しかった。
「 皆、妃様に触ったら、殿下に申し訳ないぞ 」
………と、レティの周りに隙間を必死で作る爺ちゃん達は面白かった。
もう、そんなに気を使わなくてもよくなったんだからね……
レティは、悲しそうな顔をしていた。
「 うわ~!!これよ、これが虎の穴よ 」
ローランド国の虎の穴(仮)は、建物が古く、中に入ると廊下が奥まで続いていて、その先は見えなかった。
「 奥には何があるのですか? 」
「 ここから先は、国の秘密です、お入りにならない様にお願いします 」
案内の綺麗なお姉さんがつんと澄ました顔で答えた。
これ、絶対に殿下がいたら、こんなつんけんした態度は取らないよね。
うちの虎の穴のお姉さん達みたいに、頬を赤くしながら色目を使うんだから………
………って………何で殿下の事を考えるのよ!
レティは自分の頭をポカポカと叩いていた。
特使として来ている赤のローブの爺ちゃん達が、拠点として、このローランド国の虎の穴(仮)の1部屋を使わせてもらっていた。
部屋に入り、爺ちゃん達の話を聞いた。
私は知りたい事や、調べて貰いたいことをノートに書いて渡していたのだった。
う~ん……収穫無しね……
爺ちゃん達に王立図書館に入れないかと聞くと、他国のものは入れないと言う。
だから爺ちゃん達の調べ物が調べられないと言う。
「 妃様、この国の王子が学園におるので、利用しては? 」
「あの、アホそうな、顔の薄い王子じゃ、我が国の皇子とは大違いじゃのう………」
やはり、王子は顔が薄かったのか………
「 我が国の皇子は惚れ惚れする程、良い男じゃ 」
「 あの逞しい胸………」
「 殿下にはワシの手管を………」
抱き付き爺と手管教えたがり爺の顔が判明した。
レティは爺達の顔が中々覚えられなくて苦労していたのだ。
あの……爺ちゃん……止めませんか?
会った時は話さない様にしてくれてたのに……
もしかして、ボケてる?
皇子自慢を止めない爺達なのであった。




