未来の呪縛からの解放
その夜
アルベルトは公爵邸を訪問し、レティを呼び出した。
公爵邸の庭をアルベルトが先に歩き、レティが後から付いていく………
長い沈黙が続く………
明るい東屋に着くと、アルベルトはレティと向き合い、静かに優しい声で話し出した。
「 レティ、ごめん……… 僕の事、嫌いになった? 」
レティは、首を横に振った。
「 僕はレティを好きだよ 」
「 王女様は?………殿下は王女様を好きじゃ無いの? 」
「 僕が好きなのはレティだ! レティには僕の気持ちは伝わって無いの? 」
「 じゃあ、何故そんなにも一緒にいるの? 何時も手を繋ぎ、腕を組んで………好きだからじゃ無いの? 」
「 違う、公務だから………仕方な……く………」
皇宮では王女を出来るだけ避けたつもりだった。
だけどレティの前では………
アルベルトは唇を噛んだ。
「 私……殿下が分からない…… 」
「 ごめんレティ………ごめん 」
アルベルトは声を荒げ、一心に謝罪の言葉を叫んだ。
もう、泣きそうな程に必死だった……
アルベルトが、こんなにも感情を露にするのは初めてだった。
「 悪かった………嫌な思いをさせたね……」
レティが勘違いするのも当然だ……
「 レティ、大好きだよ……僕はレティじゃ無いと駄目なんだ 」
未来は変わったの?
4度目の人生は………
殿下は私を選んでくれたの?
アルベルトが自分の事を好きだと知っていながら……
また、告白もされてるにも関わらず、受け入れる事が出来ずに、レティがこんなにも王女に拘ったのも仕方の無い事だった。
レティはループして4度も人生を生きているが、どの人生も違った道を歩いているのに………
3度の人生全てで、アルベルト皇太子殿下は王女と婚姻を結んだのだから………
王女様より私を選んでくれたの?
涙がボロボロと零れ落ちた。
レティは、やっと未来の呪縛から解き放たれたのだった。
「 レティは、僕の事を好き? 」
「 好きよ、大好きよ、殿下が大好き 」
レティがアルベルトに抱き付いた。
「 やっと言ってくれた……… 」
アルベルトはレティを抱き締め、コツンとレティの肩に頭を付けながら、震える声で言った。
やっと言えた………
死の恐怖から救ってくれたのは殿下だった。
あの日、領地に殿下が来てくれなかったら、心が壊れていたかも知れない……
死と向き合い、抗おうと思ったのも殿下がいたから。
死を回避出来るかも知れないと、未来への希望を持てたのも殿下がいるから………
次から次へと涙が零れ落ちる………
「 殿下、ずっと………私を………好きでいて……くれて有り難う………」
涙がポロポロと溢れ落ちる……
「 ずっとずっと……ずっと殿下が………好きだったの、殿下……だけが好き……だったの……」
言葉を詰まらせながらも、懸命に3度の人生の想いを伝えるレティは、涙と鼻水でぐちゃくちゃだった。
そんなレティを愛おしそうに見つめ………
ハンカチを取り出し
涙を拭い、鼻水を拭いてあげて、せっせとレティの世話をしているアルベルトの顔は、何処までも優しく甘く蕩けそうだった。
「 泣かないで、レティ…… 」
アルベルトはレティの顎に手をやり、上を向かせ唇を落とした。
レティを恐がらせ無いように……
驚かせ無いように……
そっと唇に触れるだけの優しいキスをした。
おでこに、目に、頬に………
愛しくてたまらない様に優しいキスを繰り返す………
「 殿下……くすぐったい……」
涙が止まったレティが、真っ赤になっている。
可愛い………
アルベルトの瞳に熱がこもり、妖しく揺れ、レティの唇を見つめる………
そして………
もう一度レティの唇に口付けをしようとした時………
「 もう、駄目……もう限界! 」
………と、レティに突き飛ばされた。
「 ……………えっ!? 」
後ろにヨロっと下がり、アルベルトは固まった………
すると………
真っ赤な顔をしたレティは、踵を返しスタスタと歩きだした。
「 酷いよレティ、突き飛ばすなんて………」
アルベルトはクックッと笑いだし、レティに駆け寄り、レティと手を繋いだ。
「 レティ、好きだよ…… 」
「 …………… 」
「 レティは僕の事が大好きなんだよね…… 」
歩きながら、レティの顔を覗き込むアルベルトは幸せそうだ。
「 もう、限界って言ったでしょ! 」
レティが、赤い顔をして、アルベルトをキッと睨んだ。
「 じゃあ、続きはいつしようか? 」
アルベルトは、レティの耳元に顔を寄せ甘い声で囁いた。
耳を押さえ、涙目になって、そんなもん聞くんじゃない!と、レティはプンプンと怒る怒る。
ごめん、ごめんと嬉しそうに謝るアルベルト………
二人はやっと恋人同士になったのだった。
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アルベルトとレティが手を繋ぎ、居間に入って行くと
ラウルが、にやにやとしていた。
アルベルトは、父親ルーカスと母のローズの前で、レティと想いが通じ合い恋人同士になった事、どんな事になろうともレティを愛し抜き、必ず幸せにすると誓った。
母親であるローズは涙を流し、良かったと喜んだが………
この国の宰相であるルーカスは素直には喜べなかった。
恥ずかしそうに頬を染め、皇太子殿下と見つめ合い、幸せそうな娘を見ながら……
必ず来るであろう二人に降り掛かる困難に、胸が痛くなるのであった。
読んで頂き有り難うございます。




