公爵令嬢、ブチ切れる
事故は、起こるべくして起きた。
学期末試験も終わり
学生達にとって、もうすぐ長期休暇に入ると言う楽しいある日、王女が食堂にやって来た。
相変わらず豪華なドレスを着ていて、大勢が集う食堂には相応しく無い装いである。
王女の侍女二人と食堂を見まわし、アルベルトを探していたが、アルベルトはまだ食堂には来ていなかった。
生徒達は、関わり合わない様に遠巻きに見ていたが
いきなり踵を返した王女の豪華なドレスが、一人の女子学生に当たり、女子生徒がつまずき、王女のドレスにスープを掛けてしまったのだ。
「キャア!」
「 王女様、王女様、大丈夫でございますか? 」
侍女達の慌てた声が食堂に響く………
「 スミマセン、申し訳ございません 」
土下座をし、謝る女子生徒は庶民棟の生徒で、赤色の棒タイをしてるので1年生だ。
「 無礼者! お前はただでは済まさないわよ 」
ざわざわと騒然とする中で、王女のキイキイ声が鳴り響いた。
そこへ、アルベルト達がやって来た。
食堂がざわつき、女性達のキイキイ声が響いていた。
騒いでるのが王女だと気付くと、アルベルトは慌てて王女に駆け寄った。
「 何時ここに来たのですか? 」
「 アルベルトさまぁ……そこの平民がワタクシにスープを引っ掛けたのよ 」
「 違います、王女様のドレスが私に当たり、その拍子にスープが王女様に掛かったのです………申し訳ございません 」
土下座をした女子生徒が、泣きながらアルベルトに訴え、何度も何度も謝罪を繰り返した。
「 アルベルトさまぁ、その者を処罰して下さいませ! ワタクシ、火傷をしたかも知れませんのよ 」
涙も出てないのに、泣く王女。
周りは、ざわざわしながらも成り行きをしっかりと見ていた。
アルベルトはどうにかして治めようと考えた。
王女を皆の前で戒める事は出来ない………
ここは………
我が校の女性徒に引いて貰おうと、アルベルトが口を開きかけた時………
「 処罰って何の処罰? 」
レティが凄い剣幕で王女とアルベルトの前に立った。
「 どう考えても悪いのは王女様、貴女よ! 学園はドレスを着てシャナリシャナリ歩く所じゃ無いわ! それなのにそんな豪華なドレスを着て食堂に来るなんて、迷惑も甚だしい……被害者はこの子の方ですわ! 」
落ち着いた澄んだ声で一気に捲し立てる。
「 ましてや、こんなに謝罪してるのに……仮にもこの国の皇太子妃になりたいと考えてるのなら、国民に好かれる人でいなさいよ! 」
レティの怒りは凄まじかった。
自分が蔑まれるのはスルー出来たが、弱者をより痛め付ける行為は断じて許す事は出来なかったのだ。
王族と皇族と平民………
レティは、唇を噛みしめながら土下座をする女生徒を立たせた。
「 不敬罪よ、王族に楯突くなんて………」
レティに正論を言われた王女は、真っ赤な顔をしてキイキイ叫んだ。
すると、学園の生徒達の怒りが爆発した。
自国に帰れ!と帰れコールが起こり、収拾がつかなくなった。
「 皇太子殿下! 処罰はワタクシのみにお願いします、責任は自分で取ります 」
レティの声で食堂がシーンと静まった……
レティの冷たい目がアルベルトに向けられた。
ぞっとする程綺麗だったが、レティにこんなに冷たい目で見られるのは初めてだった。
アルベルトはズキリと胸が傷んだ。
そして、まだ、王女を庇おうとした事を恥じ、言うべき時は、王族にだって怯まないレティに感服したのだった。
「 処罰はしない 」
アルベルトはそう言って、王女を連れてこの場を離れた。
とたんに、帰れコールが爆発した。
特に女子生徒達の怒りの声は凄まじかったのだ。
そんな中、庇われた女生徒は、何度も何度もレティにお礼を言った。
「 火傷をしなかった? 」
「 少し、手に火傷を…… 」
手の甲が赤くなっていた。
レティは女生徒を手洗い場に連れていき、冷やしきってしまう様に指示し、どの軟膏を塗れば良いかの指示もした。
医師レティが出てきていた。
ラウル達がレティの側に行き、よく言ってくれたと頭を撫でた。
あの時、アルベルトが王女を庇い、庶民棟の生徒を嗜めたら、それこそアルベルト皇子に不信感が向けられる所だったのだ。
学園は小さな国。
アルベルト達が身をもって体験した貴重な出来事だった。
ラウル達はレティを連れて食堂を出ていったが、食堂は、まだ帰れコールで沸き立っていた。
我が国の公爵令嬢が、他国の王女をとっちめたぞ!
流石、リティエラ様だと、何時までも騒いでいた。




