王女と公爵令嬢
ジラルド学園の試験が終わり
王女は学園に後学の為としてやって来た。
学園長が園内の案内をすると言っても、アルベルトに案内をして欲しいと駄々をこね、朝からアルベルトが案内をする事になった。
「 アルベルト様、エスコートをして下さらないの? 」
手を差し出す王女。
「 ここは学園です。社交場ではありません 」
アルベルトはピシャリと言い、踵を返し歩きだそうとしたところ、王女はアルベルトの腕を強引に掴んだ。
「 ワタクシ、ドレスなんですから、階段は怖いですわ 」
王女は17歳。
学園長は、学園に来るならジラルド学園の制服を着用する様に勧めたが、彼女は受け入れず、豪華なドレス姿で学園に来ていたのだった。
ふう………
仕方無いと、アルベルトは王女の手を取り、歩き出した。
 
アルベルトと王女、その後ろから王女の侍女が付いて歩いていき、学園内なので、護衛騎士達は遠巻きにいた。
 
「 王女だわ」
「 また、我が国の皇子様を独占してる」
学園の女子学生達の視線は何処までも冷ややかだった。
 
アルベルトが王女に学園の案内をしてる時に、学期末試験の発表があり、張り出された紙を見る。
 
4学年
1位 アルベルト・フォン・ラ・シルフィード 500点
それを見て、
「 まあ、満点………アルベルト様はとても優秀なのですね 」
「 それは、どうも……」
アルベルトは、2学年の結果を見ながら答えた。
 
2学年
1位 リティエラ・ラ・ウォリウォール 700点
 
ブッ……アルベルトは思わず吹き出した。
増えてる………
 
今度はどんな理由なんだろうか……
レティの困った顔が思い出され、可笑しくてクックッと笑った。
 
公爵令嬢が700点ですって?
何かの間違いじゃなくて?
 
アルベルト様より成績が良いなんて………
身分をわきまえない不届き者だわ!
王女は、アルベルトが素っ気なくなったのは、公爵令嬢が横恋慕してるからだと思い込んでいた。
 
ちょっと綺麗だからと思い上がって………
自分の立場を分からせなければならないわね。
王女は爪をギリリと噛んだ。
 
 
王女の案内が終わり、王女を学園長の応接間に連れていき、アルベルトは自分のクラスに戻った。
その時も、王女はアルベルトのクラスに行くとゴネたが、流石に授業中だから、他の生徒達に迷惑を掛けてはならないと、アルベルトは嗜めた。
 
昼休みになり
アルベルト生徒会長は、生徒会メンバーに久しぶりに集合をかけた。
………と言っても、4人は何時もつるんでいるのだから、アルベルトはレティに会いたかっただけである………
 
レティが生徒会室のドアをカラリと開けた………
アルベルトとレティが直接会うのは久し振りだった。
「 レティ、おめでとう、今回は700点満点だったね 」
「 えっ!? 700点……本当に?」
「 さっき張り出されてるのを見たんだ 」
考え込むレティ………
全く……ふざけてるわ……と、レティが片手で口を押さえながらブツブツ言っている。
因みに、ジラルド学園は、試験の答案用紙は本人達に返さないのである。
劇場での事、騎士団の訓練での事……
言いたい事や聞きたい事があったが……
何時しか
二人の間には微妙な空気が流れていたのだった。
 
「 あれ? お前ら喧嘩でもした? 」
目ざといラウルが、生徒会室に入るなり言った。
「 いや……… 」
アルベルトが何かを言おうとした時………
ドアが開いてアリアドネ王女が入ってきた。
「 あら、アルベルト様、ここにいらしてたのですね 」
「 これから、生徒会の会議があるから遠慮してくれないか? 」
アルベルトが怪訝な顔をして王女に言った。
「 あら、ワタクシの事なら気にしなくても宜しくてよ 」
王女はソファーに座り、レティをジロジロと見ていた。
「 そこの貴女、お茶をいれて下さる? 」
全員がレティを見た……
レティは我が国の公爵令嬢だ。
アルベルトが王女を嗜めようとした時……
 
「 かしこまりました、でも……私……ちょっと下手ですよ 」
レティが可愛らしくモジモジした。
 
「 構わなくてよ 」
王女が顎を上げ、レティを蔑む様に言う。
 
凄い………これが悪役令嬢だ!
見習いたい。
習得しなければ………
レティは目をキラキラと輝かせていた。
 
そんなレティと裏腹に
アルベルトが王女に何かを言おうとした時、ラウルが制してニヤリとしていた。
レティがお茶室に消えた。
「 アルベルト様が生徒会長だなんて素敵ですわ 」
王女は一人で喋り続けている。
 
うんざり顔の3人を余所にラウルはニヤニヤしていた。
 
「 お待たせしました 」
レティがワゴンに乗せてお茶を用意してきた。
お茶をいれる所作は完璧で、誰よりも綺麗だった。
「 さあ、どうぞ、上手く出来たと思います 」
レティが自信たっぷりに、胸を張る。
ああ……可愛い………
アルベルトはレティを見ながらお茶を飲むと………
少し噴いた。
全員が噴き出した。
ゴホっ、ゴホっ………
「 ちょっと!何なの……こんな不味いお茶は初めてよ!」
王女は口を拭いながら、凄い形相でレティを睨み付ける。
「 不味かったですか?……だからちょっと下手だと言ったのに………」
 
「 ちょっとどころじゃ無いわ! これじゃあ、頭が良くてもどうしようも無いわね………残念な人ね……」
捲し立てる王女。
そして………
ドレスが汚れたと、王女は怒りながら生徒会室から出ていった。
するとラウルが
「 レティのいれるお茶の不味さは筋金入りだ 」
………とニヤリと笑った。
レティは、昔からお茶をいれるのが下手だったが、最近は薬草を作る事から、更にエグい味を出す様になったらしい。
 
皆が、王女に貶され、ションボリとしているだろうと
レティを見ると………
レティは目をキラキラさせていた。
これが本当の悪役令嬢だわ………
私なんてダメダメだわ………
「 お兄様! 今年の文化祭は貰ったわ 」
レティがニヤリと悪い顔をした。
 
そして………
凄い形相で
「 残念な人ね………オーホほほ……」
これでどう? 完璧な悪役令嬢でしょ?
うわっ!?………王女の真似をしたよ………
か………可愛い……
 
突然の悪役令嬢に、エドガーとレオナルドは可愛い可愛いとレティの頭を撫でた。
可愛いんじゃ駄目なんですけど……
レティは、まだまだだと反省したのだった。
 
アルベルトがラウルに、この方法は不味かったんじゃないか?………と目配せした。
 
ラウルは頷いた。
ごめんな、レティ………
苦手なお茶なんかいれさせて………
良く我慢したな………と、レティの頭を優しく撫でたのだった。
 
 
 
 




