赤のローブの爺達、異国の地へ
ある春の暖かい日に、レティは港に居た。
虎の穴の赤のローブの爺達10人が、異国の地に旅立つので、見送りに来ていた。
あの、エロい事しか言わない爺達は
実は、先のシルフィード帝国の重鎮達であった。
先帝と、現帝の2代に渡って教育係を勤めた輩もいるのだ。
それもそうだろう、皇立特別総合研究所の研究員なのだから………
レティが、『虎の穴』なんて言う軽い名前を付けてしまったが為に、随分と軽く感じる場所になってしまったが、虎の穴は、国の将来を担う重要な機関なのである。
皇宮では、皇帝陛下から任命され、正式なシルフィード帝国の特使としての任命式を得て、異国へ旅立つのである。
皇太子殿下が公務として正装をし、正式に港まで見送りに来た程である。
「 あっ、殿下がいる………」
船の甲板で、出立の式典をしている……
ルーピン所長が居て、船長らしき人も居る。
殿下の公務なので、クラウドも来ていた。
正装をした殿下は………もう、言葉が出てこないわ……
あれは、誰もが惚れるわよ………格好良すぎる……
………と、レティは皇太子殿下に見惚れていた。
港街は、出立する爺達では無く、一目、皇太子殿下を見ようとごった返していた。
キャアキャアと黄色い声が飛び交う。
すると
殿下がレティに、おいでおいでと手招きをした。
えっ?!私?
公務中でしょ?
周りは騒然となっていた。
皇太子殿下は誰を手招きしたのかと、ざわざわと探している……
これは………不味い事になった………
直ぐに、見知った殿下の護衛騎士がやって来た。
「 殿下がお呼びです 」
ニコニコ顔で、レティの手を取った。
皆からの視線が痛い。
お供をしてくれた、侍女のマーサに、ちょっと待っててと言って、顔を隠す様にしてタラップを上る。
「 足元にお気をつけ下さい 」
タラップは不安定で、ゆらゆらしていた。
「 キャァ!」
よろけそうになると、アルベルトが来ていてレティを抱き抱えた。
勿論、民衆は黄色い歓声で騒然となっていた。
いや、殿下、ご無体な………
私………もう、街を歩けないかも知れない………
慌てて、赤のローブの爺達の中に隠れた。
「 こんな群衆の前で………」
「 殿下、ご自重を……… 」
「 全く、何処でも発情しなさる………」
「 してないから! レティ、こっちにおいで!」
横にいたクラウドが、クックッと口を押さえて笑いを堪えていた。
レティは、アルベルトの影に隠れる様に立った。
「 爺ちゃん達、気をつけて行って来てね 」
レティが、リボンをした包みを1人ずつ手渡す。
レティが手作りしたクッキーだ。
渡せる機会があればと用意して来たのだった。
渡せて良かった………
すると、赤のローブの爺達が、レティをハグした。
いや、しようとしたら、アルベルトに阻まれた。
殿下と爺達が睨み合う。
「 殿下、オスの嫉妬はみっともないですぞ…… 」
「 全く、なんと、お心の狭い……… 」
「 妃様は、苦労しますぞ………」
「 何とでも言え! レティには触らせない 」
クラウドは、肩を震わせ笑っている。
レティは、アルベルトに抱え込まれたまま、赤いローブの爺達に言った。
「 爺ちゃん達、あのノートを宜しくね 」
「 何のノートだ? 」
殿下が訝しげに聞く………
「 秘密よ……… 」
「 そうじゃ、秘密じゃ! ワシらと妃様の秘密じゃ! 」
爺達は勝ち誇った様に言った。
「 行こう、レティ 」
ムッとしたアルベルトがレティの手を取った。
船がもうすぐ出港すると、船員が殿下に伝えに来ていたのだ。
「 いえ、殿下、ここは別々で……」
殿下と手を繋いで船から下りるなんてとんでもない………
ましてや、公務中でしょ?
そう言うと………
殿下はまたもやムッとしていたが
ここは仕方ない。
私はただの一般人なのだ。
私は、ルーピン所長や関係者達に紛れて、こっそりとタラップを下りた。
ルーピン所長は私の手を取った。
「 ルーピン所長、手袋を有り難うございました 」
「 使い心地はどうだい? 」
「 剣を振っても、豆が出来ませんのよ 」
「 驚いたよ、君が騎士クラブに入っているとは………」
私は、ウフフ……と、笑った。
タラップから下りて、護衛騎士達が人垣の整理をしてるのを見ていた。
「 そう言えば、私が学園に在籍していた頃は、あいつ……クラウドが騎士クラブの部長だったよ 」
驚いた………
聞くと、クラウド様とルーピン所長は同い年で、同じクラスだったらしい………
「 私達は仲が悪かったけどね 」
いや、それよりも、貴方………かなり老けてますよ。
クラウド様は、もっと若々しいです。
そして、今は消防団で火消しの仕事をしてるらしい。
だから、最近は虎の穴で見掛けなかったのね………
「 素晴らしいです 」
私は思わず、ルーピン所長の手を取った。
ちょっと赤くなったルーピン所長に
稲妻が飛んできた………
「い………!!」
尻を押さえるルーピン所長。
殿下だった。
殿下を睨むと、甲板の上でニヤリと悪い顔をしていた。
ギャラリーがザワザワしていた。
クラウドは可笑しくて仕方無かった………
殿下が、こんなに面白いやり取りをしてるのが、新鮮だった。
リティエラ嬢との、関係も良好の様だ………
これは、皇后陛下がお喜びになるぞ!と心が踊った。
クラウドは、殿下と公爵令嬢の会瀬を、両陛下に報告をしているのである。
その後、人垣が整備された空間に、皇太子殿下がタラップを下りてきた。
キャア~と黄色い歓声が皇太子殿下に投げ掛けられた。
ううっ………一緒に下りなくて良かった~
………と、胸を撫で下ろした。
タラップが外され、出港の汽笛が鳴った。
船上を見ると、手すりに居る1人の人に目が釘付けになった。
うそっ…………
記憶が甦る……
11年前の、私の1度目の人生の時の記憶だ。
私に、何かを渡した人だ………
待って、待って!!
私は、護衛騎士が止めるのを振り切り、前に走り出た………
「 待って!! 貴方は誰なの? 」
その人は、私の方を見ていた。
異国の人みたいだった。
赤毛に金色の目が、やけに印象に残った。
覚えたての共通語で叫んでみた………
だけど……
もう、声は届かなかった。
船はどんどん小さくなって行った。
続きます
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