未来への伏線
失敗したわ………
虎の穴の名を出せば、殿下が一緒に来るに決まってるじゃんか………
 
何故言ってしまったのか………
殿下は絶対に怪しんでいるよね………
………と、手を繋いで歩いている殿下をチラリと見上げると
殿下と目があった…………
殿下は私を見ている…………見ている………
私が自白するのを待っている…………
よし、どうせ虎の穴に着いたらバレるんだから、今、言ってしまおう!
 
 
「 弓矢の開発がちょっと前進したって………シエルさんから連絡を貰いまして………」
殿下は溜め息をつきながら
「 レティは、事後報告にするつもりだったの? 」
 
うっ………怒ってるわ………そりゃあ、怒るわよね………
 
「 僕が一緒じゃ無いと駄目だと言ったよね? 」
「 はい、」
耳が垂れてシュンとする……
虎の穴に急遽行く事にしたのは、本当は別の理由もあるのだ………
 
皇太子殿下専用馬車に乗せられて、皇宮にある虎の穴に向かう。
「 実は……殿下に内緒の別の理由がありまして………」
向かいあって座っていた殿下の耳がシュン垂れて、悲しそうな顔をした。
もう、………仕方ないなあ………
馬車から下りて、私は殿下の手を引っ張って虎の穴に入館した。
錬金術の部屋でシエルさんに、頼んでいた物を貰う。
「 お誕生日おめでとうございます、ちょっと遅くなっちゃったけれども……」
殿下の誕生日は、4月の初めだ。
殿下に裸のままのプレゼントを渡した。
格好つかないけれども仕方無い………
プレゼントは万年筆。
シエルさんに頼んで、インクをインク壺に浸さずに使える魔道具を特別に作って貰ったのだ。
 
これは、試作品なのだが、後々、商品化するそうだ。
「 殿下、スミマセン、納期までに間に合わなくて……」
シエルさんが申し訳無さそうに殿下に詫びた。
「 レティ………有り難う、嬉しいよ……… 」
殿下が私を抱き締めようと両手を広げた時に、
ワラワラと出て来た赤のローブが殿下の腕の中にスッポリと 収まった。
 
「 うわっ?! 何だ!?」
殿下が両手を上げた。
赤のローブの爺は殿下の胸に手をあてうっとりしている。
「 殿下、ここで発情してはいけませぬぞ 」
別の赤のローブの爺が殿下を戒める。
殿下は、殿下の腕の中で、頬を赤く染めている爺を押しやりながら
「 ここは、発情しても良い瞬間だ 、おいでレティ、ギュッとさせて…… 」
「 妃様、いけませぬぞ、直ぐに子種が…………」
「 いやいや、殿下の子種は………」
「 殿下には是非ワシの手管を………」
 
「 お前達、いい加減にしないか! 」
殿下が叱るが、10人の赤のローブの爺達は論ずる事を止めない。
  
「 こんなに四六時中年発情していては………」
「 いやいや、これも国の安泰の為に………」
「 ワシの手管を教えれば………」
 
そんな爺達も、もう直ぐ他国に旅立つのだ。
爺達は他国に行くのを楽しみにしている。
 
外に出て働けと進言した私は、少し後ろ髪を引かれたが………
頑張って貰わねばならない。
爺達の任務は重要なのだ。
そして、論じてる10人の赤のローブの爺達を後にし、
弓矢の強化を見る為に、シエルさんの案内で、殿下とある場所に行った。
そこはかなり遠くに標的が設置されていた。
 
「リティエラ嬢は弓を射てますか? 」
「 はい、射ってみたいです 」
私は、渡された弓矢に胸が高鳴った。
 
弓を構える。
標的を静かに狙う。
シュッ!!
矢が放たれた。
 
驚く程、遠くには飛んだ。
だけど、たどり着く頃には失速して、威力なんて皆無だった。
とてもじゃないが、ガーゴイルを射る事は出来ないだろう。
 
でも、一歩前には進んだかな………
ガーゴイルとの接近戦は危険だ。
どうしても、遠くまで飛ばせる矢が必要なのだ。
後は、威力だ。
 
そんな風に思い耽っていると………
殿下が弓を持ち、矢を放った。
すると………
矢が凄い破壊力で標的に命中した。
私は、身体中に血が駆け巡った。
シエルさんも目を見張った………
 
「 もしかして、百発百中の雷の魔力を使った? 」
「 ちょっとね 」
殿下がウィンクをした。
 
やっぱり凄いわ…………
殿下がいると敗ける気がしない。
だけど………
肝心の殿下にやる気も危機感も無いのよね………
 
まあ、仕方無いんだけどね………
「 ここまでの威力は必要無いと思うが……… 」
「 いや、殿下の雷の魔力との融合があれば、弓矢に多少は威力は増しますが………この威力は殿下だけにしか出来ないものですねぇ…… 」
殿下とシエルさんが話し込んでいる。
 
私の記憶にある3度目の人生の殿下より、遥かに今の殿下が逞しく感じる。
未来の22歳の殿下に想いを馳せる………
私が20歳の時に起こるであろう数々の出来事………
全ては未来の我が国の為に………
頑張らずにはいられない。
そして………
私は、未来の為に
殿下に、ある事をおねだりしなければならない。
これが………
どうしても言えずにいたのだった………
 
読んで頂き有り難うございます
 




