閑話━ある侯爵令嬢の話
小話その2です
アルベルト皇子様に、初めてお会いしたのは8歳の頃。
母に連れられ、皇后様のお茶会に参加する為に、皇宮までやって来た。
「 お行儀よくするのよ 」
母に言われ、緊張しながらも椅子にチョコンとお行儀よく座っていた。
周りを見ると、子供は私だけだった。
退屈………
すると皇后様の後ろから男の子が現れた。
金色の髪に少し薄い青い瞳。
皇子様の服を着ていなければ、女の子だと思う程に綺麗な顔をしていた。
お茶会が始まり、お母様達はお話しに夢中だった。
私は、皇子様が気になり、チラチラと何度も見ていた。
すると、皇子様が私の方に近寄ってきて
「 おいで、僕と遊ぼうよ 」
皇子様が私の手を取り、引っ張って行った。
「 あらあら、遠くへ行っちゃいけませんよ 」
………と、皇后様とお母様がニコニコしていた。
皇子様は私と同じ位の背だった。
ブランコのある広場まで二人で手を繋ぎ歩いて行った。
ドキドキした。
こんなにドキドキしたのは初めてだった。
「 君、何歳? 」
「 9歳 」
「 ふ~ん、僕より一つ年上なんだね 」
二人でブランコに乗った。
「 どっちが高くこげるか競争だよ 」
ブランコが揺れた。
楽しかった。
皇子様はブランコに立ってこいでいた。
「 おーい、アル 」
「 あっ、ラウル達が来た 」
皇子様は立ったままブランコから飛び降りた。
綺麗なブロンドの髪が日の光でキラキラとしていた。
「 じゃあね、遊んでくれて有り難う 」
皇子様はそう言って、男の子達の方に駆けて行った。
私は恋に落ちた。
初恋だった。
「 お母様、私、皇子様のお嫁さんになる 」
「 まあ、皇子様に恋しちゃったのね 」
皇子様に釣り合うためには、一生懸命お勉強して、マナーも完璧にならなくちゃね。
………と、母が言った。
家庭教師を付けて貰い、マナーの先生とダンスの先生から、お妃教育なるものに心血を注いだ。
それからは、母が皇宮に呼ばれる度に付いて行ったが、皇子様が来る事は無かった。
時折、皇宮で見掛ける皇子様は、背がどんどん伸び、騎士団で訓練をしてる事もあって、体つきも立派になって行った。
それでも、お顔は誰よりも綺麗で、皇子様は何時もキラキラ輝いていた。
私が学園の2年生になった時に、皇子様は入学してきた。
入学式は、新入生だけの式典なので在校生は入れないが、皇子様に一目会いたくて、私は講堂の外から見ていた。
そんな女生徒が何人もいて、講堂の周りは混雑していた。
演説をする皇子様の声は、私の記憶する声より低くなっていた。
背の高い私の皇子様。
私は、2度目の恋に落ちた。
休み時間になると皇子様のクラスに通った。
ライバルは沢山いた。
でも、私は侯爵令嬢。
ここにいる誰よりも身分は高いのよと、皇子様の側を独占しようとした。
だけど、私は1学年上。
何故、同じ歳に産んでくれなかったのかと親を恨んだ。
少しでも皇子様に近付く令嬢は許さなかった。
廊下に呼び出し、注意をした。
皇子様に会いたくて会いたくて、待ち伏せは日常茶飯事だった。
1年が過ぎた頃、皇子様が留学する事になった。
1年を掛けて、皇子様とかなり親しくなったと思った矢先の事だった。
悲しかったけれども、待ってる間に女を磨き上げる事にした。
皇子様の居ないつまらない1年がようやく過ぎ、皇子様が帰国した。
皇子様は更にたくましく、その上色気も出て、立派な成人となって帰って来た。
私は、侯爵令嬢。
誰よりも身分が高かった筈なのに…………
彼の側には
公爵令嬢である、リティエラ・ラ・ウォリウォール様がいた。
公爵令嬢?
ラウル様に妹がいたなんて…………
私は10年も皇子様をお慕いし、血が滲む様なお妃教育をして来たのに………
公爵令嬢で、皇子様のご学友の妹で、少し綺麗だと言うだけで皇子様の横にいる彼女が憎かった。
彼女がいるから皇子様に近付け無かった。
そんな頃に、皇后陛下主催の夕食会があった。
皇太子殿下のお妃候補選びだと噂がたった。
リティエラ様はいなかった。
ホッとした。
リティエラ様はお妃候補では無かったのだわ。
秋になり、皇后陛下から皇太子殿下と、二人でデートをする企画の通達が私の元に来た。
あの夕食会に、参加した令嬢達だけの企画だそうだ。
じゃあ、リティエラ様は参加する資格は無いんだわ………
学園内では、『 皇太子殿下と公爵令嬢との恋 』なんて言う噂で持ちきりだった。
毎日が不愉快だった。
皇太子殿下とのデートは、私は2番目だった。
やっと、殿下と二人だけになるチャンスが来たのだ。
私は自信があった。
この日の為に磨き上げて来たと言っても過言ではない。
ドレスを選び、宝石を選び、ワクワクしてその日を首を長くして待っていたら、あの女とデートしただけでこの企画は中止になった。
泣いた……
皇太子殿下の意中の人はあの女。
そんな噂が立った。
あの女は皇子様と同級生で、何時も私の邪魔をした女だった。
そしてあの女は、こともあろうことか食堂で皇子様とのデートを自慢をした。
心底腹が立った。
そんな大切な想い出を、こんな所で自慢する神経がわからなかった。
そうすると、リティエラ様がやっつけてくれた。
スカッとした。
リティエラ様は悪役令嬢になっていた。
私から見ても、お可愛らしい女性だと思った。
私は意を決して
噂になっている『 皇子様のベンチ 』に座って、リティエラ様を待っている皇太子殿下をこっそり見に行った。
認めたく無かったけれども
受け入れたく無かったけれども
皇太子殿下の
リティエラ様を見つめる目が、熱く、甘く、蕩けている事を目の当たりにした時には、認め、受け入れるしか無かった。
私の初恋は終わった。
私は10年も殿下を想い続けて来たのです。
そして、その努力はとうとう報われ無かった………
『鳶に油揚げをさらわれる』とは、この事ね。
レティの皇太子殿下への想いは16年。
レティがした命懸けの努力は、この令嬢の努力の比では無い事は、誰も知らない事であった。
本編には全く出て来ないキャラです。
ちょっと腹黒ですが………
大好きな人に彼女が出来た。(まだ、彼女ではありませんが……)
こんな風に泣いた女性が沢山居たんだろうな……と言う思いで書いてみました。
読んで頂き有り難うございます。




