未来に向かって
嘘だろ
もう寝てるよ………
寝る事を気にしていたが
まさか、こんなに早く寝るとは………
オペラはまだレティには早かったか………
しかし、男の横で寝るとは……無防備にも程がある。
もしかして、俺の事をラウルと同じ様にみてるのかも………
うわ~っ、それは困るなあ………
レティ、襲われちゃうぞ、おいで………
………と、 向こうの肘掛けに凭れて寝てるレティを、俺の肩に凭れる様に引き寄せた。
「 起きてます 」
レティが真顔で体制を立て直した。
暫くすると、また、うつらうつらし出した。
そして、俺の肩に凭れて来た。
可愛いなあ………
こんなに可愛いくて綺麗な令嬢なのに、レティは普通の令嬢では無い事は確かだ。
彼女は、料理を習い、剣や弓を持ちたがるのだ。
薬草を作る時の楽しそうな顔………
弁が立つし、知識も抱負だ。
驚いたのは、医療行為が出来ると言う事である。
あれ程の出血を見たら、誰でもショックで躊躇するのが普通だ。
女性ならば尚更だ。
だけど、彼女は一切の迷い無く、医療行為を完璧にやり遂げたのだ。
モーリスが、彼女は天才だと言うが、確かに、あれは天才と言う以外の何者でも無かった。
医師会の薦める様に、彼女を医師とするのが良いに決まっている。
見よう見まねであれならば、本気で医師になれば、どれだけ我が国の為になるか………
レティは医師の道に行くかも知れない。
いつの間にかそんな不安が過る様になった。
レティは周りが何と言おうが、我が道を突き進む力と能力を持っている女性だ。
騎士、薬師、医師………
外交官にもなりたいとも言っていたな………
そこに皇太子妃と言う選択は無いのだろうか………
俺は、彼女が16歳の成人になった時に、正式に婚約を申し込むつもりだ。
レティ以上の女性はもう現れない。
もう、レティ以外の女性では駄目なのだ。
しかし、
これ程までに一人の女性に入れ込むのは、君主としては失格なのも分かっている。
俺は、軍事規約違反を、彼女の為にもう既に犯してしまっている………
弓矢の開発がそうだ。
軍事関係の研究には、然るべき手順を踏んで、国防相の承認が必要だ。
承認どころか、まだ進言も出来ずにいる。
何故なら、開発をする明確な理由が無いからだ。
レティにいくら聞いても、将来に備える為だとしか答えないのだから、どうしょうも無い。
戦時中でも無い昨今、弓矢は、狩り程度にしか必要が無い。
たまに越境近くに出現する魔物には、今の部隊の力で十二分に対処出来ている。
だけど………
俺は、彼女の言うなりに開発を許した。
俺は、立太子の礼で皇帝陛下に聖剣を賜り、我が国の最高指揮官になった。
皇帝陛下の名代として、軍事の際には直接軍に指令を出せる権限を得たのである。
皇帝が聖杯を持って国を守り、皇太子が聖剣を振るい敵と戦う。
二頭のライオンは皇帝と皇太子である。
それが我が国の皇族としての代々の伝承である。
シルフィード帝国の皇族史で、一人の女に狂わされた皇帝が、国を滅ぼしかけた事がいくつかある事を習った。
それ故に、皇后の他に皇妃、側室を置く制度も、単なる世継ぎの為だけでは無く、政治的に牽制し合う目的があるからだとの話もある。
まあ、その妃達による争いで、国が滅びそうになった事例もあるらしいが………
だけど、俺はもう、完全にレティにいかれている。
この軍事規約の罪は、俺一人で背負う事になるだろう。
「 もう、食べれましぇん 」
レティがフニャリと笑い、寝言を言った。
こら、一人で美味しい物を食べるでない。
………とレティの頬をつついた。
「 起きてます 」
一瞬目が開いて真面目な顔をすると………
また、目がトロンとなり、頭を寝やすい位置にする為に俺の肩でモゾモゾした。
「 いや、寝てるって 」
可愛かった。
心底愛しいと思った。
俺だけがこんなに好きで嫌になる。
彼女に狂わされた俺は、駄目な皇帝になるかも知れないな。
レティは、他国へ行きたいと言って外国語を習っている。
早く世継ぎを作って、皇位を譲り、二人で世界を旅するのも良いかも知れない。
そんな風に考えるアルベルト皇太子殿下であった。
この時の
軍事規約を無視した弓矢の開発が、後にアルベルト皇太子殿下の最大の功績になる事は、まだまだ先の事である。
「 レティ、こら!起きないとチューするぞ 」
「 寝てましぇん 」
「 寝てた 」
「 寝てません 」
「 嘘をつく口はこの口か! 」
アルベルトはレティの両頬っぺをムニムニした。
コホンと咳払いが聞こえた。
「 皇太子殿下、ご令嬢、こちらへ 」
後ろに案内の人が立っていた。
ひぇ~見られていたじゃないの………
レティが赤くなり小さく叫ぶ………
「 明かりが点いた、直ぐに出るぞ 」
皇族は、一般客とかち合わない様に先に出るのである。
ロビーでは支配人達がズラリと並んでいた。
アルベルトは軽く手を上げ、レティの手を取り劇場を後にした………
殿下の馬車に乗り込む。
「 殿下、オペラは私には合いません 」
「 だろうね 」
アルベルトがクスクスと笑う。
「 この後は、レストランで一緒に食事をしょう 」
タイミングよく、レティのお腹がぐ~っと鳴った。
レティは顔を赤らめ慌ててお腹を押さえた。
「 良い返事だね、お腹が張り切ってるよ 」
アルベルトがケラケラ笑った。
夕暮れの中
馬に乗った護衛騎士達に守られ、皇太子殿下専用馬車がカラカラと進む。
春はそこまで来ていた。
この話で、レティの1年生、アルベルトの3年生の話が終わります。
書き足りなかった事や、気になる話を閑話で書いて行こうと思います。
次は、レティは2年生、アルベルトは最高学年の4年生になります。
続けて読んで頂けたら嬉しいです。
何時も読んで頂き有り難うございます。




