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周りは気付いていても

Side 宰相


我が国の王太子殿下、ロラン様、それは非の打ち所がない方。弱きを思いやる気持ちも、力の使いどころも知っている。そんな彼の唯一の欠点は妃がいないという点だろう。それについては近々解決しそうだと周りは判断していた。


相手がどんな方であろうと我々は受け入れるつもりでいた。


「ああ、宰相。この仕事が終わったらちょっと出かけてくる。一時間ぐらいで戻るけど。」


そう言いながらロラン様は手を止めずに書類を処理している。その表情が明るいことに気付いていない人間はこの部屋には居ないだろう。最近のロラン様は楽しそうであった。多分また、いつものように『魔女殿』に会いに行くのだろう。どんな会話をしているのかは知らないが、聞いている限り、『魔女殿』はとても博識な方で、ロラン様の興味を引いているらしい。


念の為につけさせている護衛の話では、残念ながら『魔女殿』は全く興味がないらしい。

否、正確に言うならば、ロラン様が持っていくお菓子には興味津々だが、ロラン様はついで、というような感じである。ロラン様の持っていくお菓子は最終的に子供のおやつになっており、最近はそれも見越して焼き菓子を持っていくようになった。


コンコン。リズミカルなノックの音に「どうぞ」と小さく返事をするロラン様。そして扉を開けたのは料理長だった。


「ロラン様、ご所望のクッキーと、ついでにフィナンシェ作りましたよ。ご希望通りにバター多めで、ちょっと塩足しましたけど。」


そう言いながら料理長はバスケットを手に持っていた。芳醇なバターの香りに少し口が寂しくなったが、バスケットと反対側の手に持っている皿は私たちへの差し入れだと信じて見つめた。


「料理長、ありがとう!そろそろ行くとするか。」


爽やかに笑うロラン様。昔から楽しいことがあると彼の瞳は輝くのだ。我々はその表情に安堵していた。バスケットを受け取ったロラン様は私たちに笑いかける。


「では、行ってくる。また後で。」


そう言って消えていくロラン様。行ってらっしゃいと見送ったが、転移魔法を使ってまで会いに行っているという事実を重く受け止めた。


「なあ、宰相閣下。」


料理長はもう一つの皿を差し出す。差し入れらしき皿は受け取って、私たちの執務机の真ん中に置いた。皆、それぞれに休憩にするために書類を端に寄せた。一番若い執務官はお茶を淹れに行ったらしい。


「どうかなさいましたか、料理長?」


「いや、やっぱりロラン様は『エイダの街の魔女』に……『お熱』なんですかね?」


言葉を濁したが、その場の全員が手を止めた。『お熱』というのは今の国王陛下が王妃殿下に対して言った言葉で、最近は遠巻きにそう言う人間も多くいる。我々から見れば間違いなく『お熱』だろう。


「そう、なんでしょうね。本人に自覚はないようですが……。」


そう、ロラン様は自覚が無いようなのだ。『エイダの街の魔女』の話をするときのロラン様はとても楽しそうだ。『魔女殿』の店でリヴェインシュタインの紅茶を飲んだ話や、『魔女殿』の店に転移したら客にビックリされて、倉庫に来るように言われた話。


「『エイダの街の魔女』は()から寛容だからな……。

ロラン様がいきなり店に来ても怒らないで、しかも倉庫にしなさいって、普通の御仁なら『来るな!』って叫ぶ案件だよな。」


くつくつと笑う料理長。だが、それはこの場の皆が思った。ただ、護衛の話から、『魔女殿』はおやつ時に来る子供たちに教育を施しているという。いきなり来る人々に慣れているのだろう。


「ロラン様の『運命』の人なんですかね、その『エイダの街の魔女』は。」


管理官の一人が発した言葉に誰もが悩んだ。この国の大きな問題、それは最優良物件(ロラン様)が結婚しないからその下の貴族も結婚できない、という点なのだ。令嬢たちだってギリギリ待っている。この管理官だってそう言った理由で結婚できない一人だ。


『ダナの森の魔女』(イライジャの皇后)が言う条件下ですとやはり、『エイダの街の魔女』が最有力なのでしょうね。一度たりともロラン様に『加護』が起きていませんし……。

ですが、『エイダの街の魔女』はロラン様に一切……微塵も、下手するなら勉強教わりに来ている子供以下の関心度なのです!!」


私の言葉に皆が頷いた。こうなったらエイダの街の人間を巻き込んで外堀埋めて、『エイダの街の魔女』をロラン様に落とさせるしかない。

宰相閣下をはじめとするサングロウ王国の頭脳たちは密かに燃えているのであった。

この直後に帰って来たロラン様は「子供たちが来たから帰って来た。」と少し残念そうな顔を見せるので、皆、密かに作戦を立てだしたのだった。


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