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常連客ではないはずだが

Side エイダの街の魔女


いつもと変わらない生活。町の人間からの相談だったり、魔法薬の調合だったりいつもと変わらぬ生活を繰り返す。時々遊んで欲しい子供たちが来たり、時には熱を出した子供を連れて飛び込んでくる母親が来たり。それが私の日常だった。


その日常は、最近、壊れてきている気がした。


「魔女殿、今日はクッキー焼いて貰ったのだ、一緒に休憩しよう!」


「……王太子殿下、お暇なのですか?」


呆れるようにそう言えば、彼は笑う。持ってきた籠から香るのはバターの香り。最近、彼が持ってくるお菓子は私が好きな焼き菓子が多い。最初の内は生クリームを使った生菓子から始まって、最近は焼き菓子。私はがっついたつもりはなかったが、好みを知られてしまった気がした。


「暇ではないのだが、魔女殿とお茶をするのが楽しくてな!一時間だけ出かけると言ってきたのだ。」


最近の王太子は着替えもせず、店の中に転移してくる。初めは着替えて街の人に紛れて来ていた。ところが最近は店の中に突然現れる。他の客が来ないとは限らないので、来るなら倉庫代わりにしている部屋を指定して来るように言った。


が、その所為で私が『若い燕を飼っている』との噂が立った。それを払拭した、と思ったら今度は『貴族に囲われた』と変化した。来るなと言ってしまえば済むことだろうが、それは言えなかった。


お菓子に釣られたとは口が裂けても言えない。

仕方ない、美味しいものには罪はない。


「貴方が毎日くる所為で、紅茶が終わりそうですわ。そろそろ買い出しに行かないと……。」


そう言いながらも紅茶の用意を始める。今日はジャスミンが入った紅茶にしようと手に取った。『カルヴェン』と名付けられたその紅茶はかつての『レディ・グレイ』と呼ばれた紅茶によく似ていた。


「カルヴェンか?リヴェインシュタインは終わったの?」


「あと少しで終わります。今日の焼き菓子はバターが多そうな香りでしたのでカルヴェンにしました。」


そう答えてみれば少しだけ残念そうだった。彼は籠からクッキーとフィナンシェを取り出して、いつも談笑する席にその焼き菓子を広げる。どう見ても王室の菓子職人が作った一級品のお菓子に、最近舌が肥えすぎてしまって困っている。

紅茶を出しながら彼の目の前の席に腰を掛けた。


「いただきますね。」


昔の癖を誤魔化すために始めた習慣。出してくれた人にその言葉を掛けてからクッキーを一枚口に含んだ。想像以上にバターが効いて美味しい。少し塩も入っているらしく、甘じょっぱい。


「美味しい?」



「ええ、美味しいですわ。流石王室の作るものですね。」


そう言いながらも今日の茶菓子を食べていく。毎日のように来る彼が持って来てくれるお菓子は、最終的に近所の子供たちのおやつになる。分かっていて彼はいつも多めに持ってくる。そんなことを思っていれば、バタバタとした音が聞こえてきた。


「エイダの魔女!今日も文字教えて!」


「えー、俺の計算が先だよ!」


「本、読んで。」


来たのは活発な二人の少年と物静かな少女が一人。この国では12歳から強制的に三年間学校に行く。この子たちはまだ学校に行く年ではないが、勉強したいと私の所に来るのだ。


「今日は早いのね。ロラン様(・・・)、申し訳ないですが、今日はこれにて終わりにしましょう?」


そう言って笑う。彼は籠を持ってまた消えていく。子供たちは『お菓子の兄ちゃんバイバイ』と元気に手を振るのだった。その姿を少しだけ寂しいと思ったのは気のせい。そう思いながら子供たちの相手をするのだった。




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