もう一人の魔女
Side ロラン
城に帰ってからの行動は早かった。
大国であるイライジャ帝国の皇后殿へ謁見の申し出の手紙を書いた。
イライジャ帝国とは同盟関係だ。
今の皇帝に代替わりした際に、同盟を結ぶことが出来た。
この同盟に関しては我が国が魔女を敬う国であったことが功を奏した。
元々、イライジャ帝国では魔女は忌むべき者だったそうだ。
しかし、現皇帝が即位し、その価値観を大きく変えた。
皇后が魔女であるからでもあるだろうが、その改革はまさに瞠目すべき出来事だった。
イライジャ帝国の皇帝は私よりも年下だが、その王としての在り方は学ばねばならない存在だとも思っている。
手紙を書いて、皇后である『ダナの森の魔女』への謁見を求めた。
今日言われたことを包み隠さず全て書いておいた。
あとは返事を待つだけだった。
「そう、ではロランのソレは加護だったのね……精霊様にそんな見方をしていたなんて申し訳ないわ。」
母は悲しそうな声でそう言った。
母が見合いを持ってくるたびに私が気を失うように眠るのだ。
――心配だっただろう。
「と、いうことはもしかすると、私が選んだ相手はロランにとっては良くなかったのかもしれないわね」
「魔女殿の話だとそう言うことになるな。あとはイライジャ帝国の皇帝陛下が皇后陛下に会わせてくれるかだな」
「ええそうね。皇帝陛下は皇后陛下の顔すら見せたくなくてヴェールを被せて居るらしいのよ。謁見できるかしらね……。」
母の心配は現実とはならなかった。
帝国から届いた返信には
『王子が一人で来るならば、謁見する』
という回答だった。
その手紙に父も母も果ては宰相に、乳母にと城中で喜ばれた。
まだ治ると分かったわけではないが、みんなお祭り騒ぎだ。
もうすぐ建国祭が始まる。
皆が待っているのは私の相手となる王妃となるべき令嬢だと、心の隅で感じていた。
三日かけて向かった帝国では国賓の対応で招かれた。
謁見は皇帝陛下と皇后陛下の二人が帝座の間で行うとのことだった。
「よく来たな、サングロウの王太子。」
不敵に帝座に腰掛けている男。
私から見ればまだ少年のようなあどけなさが残る皇帝。
その隣には深草色のドレスに、同じ色で合わせたヴェールをまとった女性が、隣の席に腰かけていた。
「お久しぶりですね、ツェル陛下。皇后陛下は初めまして、ロラン・ゾル・サングロウと申します。」
二人の目の前でボウ・アンド・スクレイプにて挨拶をすれば、静まり返った部屋で小さな声が響いた。
「……変わった御仁だね」
ジッと見つめられているのは分かった。
皇后はそっと言葉を続けていく。
「貴方の『加護』は強い物のようだが……精霊はそれ以上言うなと言っている。貴方に加護を与えているのは『サングロウ王国の精霊王』であるから、貴方にとってではなく、国にとっても悪くなる時に『加護』が発動しているようだから気にしなくていいと思うよ?」
「つまり、国の有事に置いては発動しないと考えていいですか?」
「そうだね、そう言っている」
そう答えた皇后は小さくため息を吐いた。
「精霊王が伝言しろと五月蠅い。
『ロラン、君の運命が見つかれば、私は何もしなくなるよ?』
だ、そうだ。それ以上は言えないらしい。」
「『運命』?」
「そう表現しているだけで、精霊王が言いたいのは嫁ということだろう。精霊王が気に入っている君の嫁さん候補がいるということだよ。誰だか知らないが、最近、気に入った女性がいたようだが――ッ!?」
その瞬間、皇后の目の前に炎が出た。
驚いた様子の衛兵たちが動き出そうとしたが、皇后はソレを手で制した。
チラリと視線を皇帝陛下に向ければ厳しい目で私を見ていた。
「気にしなくていい。もうこれ以上は言わない。そう言うわけだ、サングロウ王国の王太子殿下。君は早急に妃を見つけることだな。もう出会っているみたいだが……」
そう言い残した皇后はそっと立ち上がった。
皇帝も立ち上がり、そして二人は去っていった。
皇后に言われた言葉を頭に反芻する。
だが、答えは見つかる気はしなかった。




