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エイダの街の魔女

Sideロラン


会えないかもしれない。そう思っても休み時間は彼女の店に来てみる。カタンと音がして、そして見えた先に居たのは少年二人と、少女が一人。三人の視線がこちらに向いてきた。


「あれ、王子の兄ちゃん、また来たんだ。エイダの魔女、だからさっき出かけたんだね。」


本を読みながらそう言った少年。大人になったら騎士になりたいと勉強をしているらしい。騎士にも最低限の学は必要だと、魔女殿に言われて読んでいると言っていた。


「エイダの魔女は兄ちゃんに会いたくないみたいだよ。」


ハッキリと言ってくる子供の言葉が刺さった。最近、周りの言葉が無数に刺さってくる気がするは気のせいではない気がする。


「でもね、悲しそうなの、エイダの魔女。」


一人、少女がそう言ってくれた。最近は魔女殿ではなく、この子供たちとの交流の時間に変わりつつあった。この子たちは素直だ。だから、魔女殿のことも教えてくれる。


「ねー、王子の兄ちゃん。来たならココ教えて。良く分かんないんだ。」


そう言って少年二人が見せてきたのは歴史の教本だった。サングロウの歴史。


「サングロウの歴史かい?」


「おう、なんでサングロウ王国はリヴェインシュタインを併合したの?」


「リヴェインシュタインがなんで滅びたか知っている?」


「うん、水害で、食べ物食べられなくなって、暴動が起きて、王様が死んじゃったから。」


簡潔であるが、核心を突いた答えでもあった。少年の教本をパラパラと呼んでみるが、事実は書かれているが、理由は分からない本になっていた。


「そう、リヴェインシュタインはまとめる人がいなくなっちゃったんだ。だけどね、サングロウと隣のイライジャ帝国はリヴェインシュタインを助けるための準備をしていたんだ。でも誰と話せばいいのか分からなくなってしまってね、そんなときにリヴェインシュタインの一部の貴族が、サングロウに吸収を望んで、リヴェインシュタインはサングロウ王国の一部になったのだよ。」


「うーん、分かったような、分からないような……。」


「そうだろうね、私でも難しい話だ。」


そう言いながらもしばらく考えた。サングロウ王国の貴族のうち、旧リヴェインシュタイン大公国出身の貴族は二割ほど。ほとんどはサングロウ王国に忠誠を誓えないと、市民に降りる道を選んだ。亡くなった祖母が言っていた『仕える主を変えるというのは大変なことなのですよ。』という言葉が耳に残り続けている。


「でもなんで、暴動が起きたのかな?」


「ああ、それは飢饉で……。」


「そうじゃなくてさ!だって王子の兄ちゃんの話だとサングロウもあとイライジャ帝国も助けようとしてたんだろ?ってことは王様たち頑張って何とかしようとしてたんだろ?なのになんで暴動が起きたんだ?待ってればサングロウだったり、イライジャ帝国だったり、助けてくれる予定だったんだろ?暴動起こしたら余計に食べ物来るの遅くなるじゃん!!」


「確かに、おかしいね。」


子供たちはそうやって自分たちの意見を語り合う。一番物静かな少女ですらその話はおかしいと思い、自分の頭を整理する。確かに待っていれば食料は最短で来た。前に宰相が呟いていたが、リヴェインシュタイン大公国で暴動が起きたがゆえに餓死した子供や老人は多い。それがなければ、ギリギリながらも耐え凌いだかもしれない、と。


「……ちょっと、私は帰るね。もし魔女殿が帰ってきたら、伝えてくれない?

『明日の夕方、何としても時間を作るから会ってくれないか?』って。」


「伝えるけど、決めるのはエイダの魔女だよ?」


「ああ、それでも伝えてくれ。」


そう言って私は城に戻ることにした。戻った瞬間、目の前にいたのは宰相だった。


「おや、お早いお戻りでしたね?」


「宰相、ちょっと教えてくれ。」


私の声に彼は驚いたようだった。そしていつもの笑顔ではなく、臣下としての顔に変わる。


「リヴェインシュタインの事を教えてくれ。なぜあの暴動が起こったのか。」


「リヴェインシュタインの暴動……あれは私の推測の域を出ないのですが、不可解なのです。」


そう言いながら彼は近くの地図を取り出して、そして魔法で旧リヴェインシュタイン大公国の領地を表した。


「暴動が起こったのは首都でしたが、始まった可能性がある場所はここだったのです。」


そう言って指さしたのは当時辺境と呼ばれる領地だった。今でも個々の一部と、サングロウの一部をまとめて治める公爵家がある。


「……人為的と考えられるか?」


「昔は思いましたが、調べても証拠はありませんでした。まあ、50年前ですからね、事件が……。」


「今日、魔女殿のところの子供たちの言葉が引っ掛かってな。

『暴動起こしたら余計に食べ物来るのが遅くなる』と言っていたのだが、何故暴動になったかと……。」


「ああ、それにつきましては調べました。どうも、『大公家に食料が備蓄されている』とデマが流れたそうです。実際には大公家には食料も、宝石も、何もなかったらしいですが。」


「何も、なかった?」


「そうですね、イライジャ帝国や我が国との食糧支援の代わりに目ぼしい宝石などを全て売り払ったそうです。今、王妃様が使用されているティアラの宝石は、ほぼ、リヴェインシュタインの王冠に使われていた宝石ですし、イライジャ帝国の王冠につけられている宝石もそうらしいですね。」


宰相の知っている知識が頭の中で組み合わさっていく。どうしてだか分からないが、気持ち悪さが増さっていく。


「……暴動の始まりがグレムウェル公爵領。」


私の好けなかった男の顔が浮かび続けていた。


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