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会えない事が思いを募らせる

Side ロラン


何故、あの時、引き止めなかった。

――そう後悔してばかりだった。


あの湖畔で笑っていた彼女の顔が頭から離れない。

あのような笑顔は立場上、よく見る。


特に王族に多い。


全てを隠して作られた笑顔。私は何度もそういう笑顔を見ていた。


「ロラン様、お仕事できないなら『エイダの街の魔女』のお店行って既成事実でも作ってきてください。」


「宰相……店に行くまではいいが、最後がおかしい。あと、店に行っても居ないんだ。」


「そのぐらいの覚悟で行きなさいと言う意味ですよ。それで、居ないとは?」


「店自体はやっているのだが、行くと子供たちが店番していたり、閉まっていたり……。」


「それは……避けられていますね。」


茶化すわけではなく、本気でそう言われた。

頼むからいつもみたいに軽く言ってくれ、そうでないと本気で刺さってくる。


「何が、ロラン様のどこがダメなんですかね?」


茶化した様子がない宰相からの言葉はグサッとまた刺さった。


「彼女の身体……呪われているらしい。」


ソッと目を閉じた。頭に浮かんだのはあの夜に見た彼女の身体に巻き付いたあの黒いアザ。

見せびらかすようにくるりと回った彼女。

その姿はまるでワルツを踊るかのような優雅さだった。


「呪われている?」


「私には相応しくはない(・・・・・・・)と……。」


「……馬鹿ですか?」


「は?」


急に宰相の顔から表情が無くなった。

この雰囲気の時の宰相は背筋が寒くなる。


「ロラン様、貴方は本当にポンコツですね?『相応しくはない』と言うことは、貴方は嫌われていません。」


「え?」


「『エイダの街の魔女』が呪いを理由に断ったのならその『呪い』を解くぐらいしなさい。」


そう言いながら宰相はひとまとめになっている冊子を目の前にドンと置いた。


「落ち込んでいるなら、リヴェインシュタインの管理官のところに行って書類もらってきてください。あそこは呪われていると言ってみんな行きたがらないのですよ。」


「呪いが移るわけではないのにな。――わかった、気分転換に行く。」


そう言って彼の渡してきた書類を見つめた。

『リヴェインシュタイン領ベイリー辺境伯爵家』。思い出してみるが、その姿を見たことがない。


「ベイリー辺境伯か……会ったことないな。」


「それはないでしょうね。ベイリー辺境伯家は瘴気が出ている旧リヴェインシュタイン領の中でも特に危険な場所を領地としています。まぁ、不作の地と言われているリヴェインシュタインで唯一、紅茶の作れる領地でもありますよ。

……私、前に教えましたよね?」


その言葉にウッとなる。

正直、私は記憶する事が得意ではない。

会ったことのある人間と領地を照合させるのが精一杯なのだ。


「すまん、リヴェインシュタインの紅茶のことは頭に入っているが、領地までは頭になかった。」


「まぁ、その辺りは私がフォローしますがね。

話が逸れました、ベイリー辺境伯にお会いしてきてください。あと、できましたら御自分で紅茶を買ってきなさい。」


ニコリと笑った宰相は自分の席に戻って宰相は仕事を進めだした。

他の人間たちも手を動かし続けている。

やる気がない人間が近くにいるのはあまり良くない。


「行ってくる。」


そう言って、目を瞑った。


パッと視界が変わった。


瘴気、そう呼ばれる紫とも黒とも見える空気が浮く。

これが『リヴェインシュタインの呪い』の原因であると推測はされている。

だが、住んでいても平気というのもわかっている。


「ここは何度か来ているが、ベイリー辺境伯の屋敷はここから……。」


そう言いながら宰相の渡してきた書類を読んだ。

ここから歩くなら三十分ほどか、そう思いながら地図通りに歩いていく。その先で見つけたのは紅茶畑だった。


「こ、これは、ロラン殿下!?」


紅茶畑にいたのは夫婦だった。その二人はすぐに跪いて、そして忠誠の礼を取った。この礼をするということはこの二人は貴族なのだろう。


「ベイリー辺境伯とその夫人か?」


「はい、よくいらしました。このような地にロラン殿下が来られるとは……何か不手際でも……。」


「あ、いや、すまない。書類を取りに来たのだが、転移ができるか私が立候補しただけだ。

あと、できれば紅茶を買いたくてな。」


私の言葉に二人はホッとしたようだった。


も結構な年齢ではないかと思うその夫婦は、そのまま屋敷に案内してくれた。

限界という言葉使いたくなる屋敷は、老朽化している。


ただ、屋敷自体は古いが立派なものだった。


エントランスから案内されたのは応接室。


紅茶を持ってくるといった夫婦は部屋を一度退出した。


「肖像画?」


視線を上げた先にそこまで大きくないが、絵が飾ってあった。


五人の家族。

それが(えが)かれている。


心臓が異常なまでに早く鳴っていた。


「申し訳ありません、王太子殿下。その肖像画だけはどうしても外せないのです。」


女性の声だった。

振り返った先に居たのは夫人。

夫人は紅茶を置きながら、視線を合わせずに言葉を詰まらせた。


「この、肖像画、は?」


そういいながらも、家族のものであろう肖像画を見上げた。


異常なまでに上がる脈拍。


それを気にすることなく夫人は私の隣に並んだ。


「リヴェインシュタイン大公国の最後の大公家一家の肖像画です。

大公殿下、大公妃殿下、第一大公女殿下、第二大公女殿下、それに第一大公子殿下。

これは第一公女殿下……グローリア様が一五歳の誕生日の日に公開される予定の肖像画でした。」


「……詳しいのですね。」


「グローリア様と(わたくし)は乳兄弟でございました。聡明で、素晴らしい……生きておられればもっと国を発展させておりましたでしょう。」


そう言いながら、夫人はソッとその第一公女らしき女性。

いや、少女と言うべきその人の頬を撫でるように指先でなぞった。


「……申し訳ありません。サングロウ王国のおかげで今、我々は生きているというのに、なんてことを。」


「いや、気にしていない。むしろ聞かせてほしい、その『グローリア第一公女』の話を。」


そう言いながら、肖像画から目を離せなかった。


父と母に挟まれて、前には妹と弟らしき二人。

澄ました顔で唇を歪めている第一公女。銀の髪に蒼の瞳。

着ているのは青いドレス。そして頭には蒼の宝石がはめ込まれたティアラ。


黒いドレスではない。少し幼い気もする。



けれど、私の見知った魔女殿と瓜ふたつの姿だった。


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