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08 異形の神

 ラルフと一緒にパーティ会場に戻ろうとする途中で、公爵家の騎士達に止められた。


「この先はお通しできません」


 すぐにラルフが前に出て「どういうことだ?」と聞いてくれる。聞かれた騎士はチラリとディアを見た後、ラルフに言いにくそうに伝えた。


「団長が、王子たちが来たからクラウディア様を決して会場に入れるな、と」

「ああ、なるほど」


 ラルフは呆れたように頷く。


 --王子の誰かがクラウディア様を見初めたら困るということか。さすがの公爵家でも、王族からの婚姻は無下に断れないもんな。あ、でもさっきアーノルド殿下に出会ってしまったな。そういえば、団長に『クラウディア様に男を近づけるな』と言われてたっけ。


 一瞬、ラルフはディアを見た。


 --まぁ、あれは男が近づいてきたのではなく、クラウディア様から話しかけたからギリセーフだな。


 勝手に納得したラルフは「クラウディア様、いかがなさいますか?」と聞いてきた。


(うーん、ここでわがままを言うと、またお兄様に閉じ込められそうだし……。今日は、一応アーノルドにも、赤い髪の男の子にも会えたから、言う通りにしておいたほうがいいかも)


 アーノルドのことは、また今度、他の人に聞いてみようとディアは思った。ディアが「分かりました」と伝えると、騎士達は明らかにホッと胸を撫で下ろす。わがままを言われたらどうしようと心配していたのかもしれない。


「お兄様には『疲れたのでディアはお部屋に戻ります』とお伝えください」


 騎士達に微笑みかけると、数人から『かわいい』という心の声が聞えてくる。ディアはラルフに向き直った。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ」


 ディアが「またご一緒してください」と伝えると、ラルフは「はい、喜んで」と優しい笑みを浮かる。騎士達と別れると、ラルフはディアを部屋の前まで送り届けてから、「では、失礼いたします」と頭を下げてから去っていった。


(良い人ね。今度何かあったらまた護衛を頼もうっと)


 自分の部屋に入ったとたんに、どっと疲れが押し寄せてきた。


(あーもう、疲れた)


 メイド達は、パーティの配膳にでも借り出されているのか、お付きのエイダの姿もないので、ディアは靴を脱ぎ捨てた。


(え?)


 ディアの両足首に握りしめられたような黒いアザができている。先ほどのしわがれた声と、異形の手を思い出し青ざめた。


(そういえば、パンツ事件で忘れてたけど、あれは一体何だったの?)


 おそるおそる足首の痣に触れると、頭の中に映像が流れ込んできた。それはどこかで見たことのある神殿で、結婚式の真っ最中だった。


(これは、過去に起こった16歳のディアの結婚式……?)


 階段を上る花嫁がくらりと後ろに倒れ、そのまま階段の下まで落ちた。辺りには衝撃音と共に悲鳴が響く。


「ディアぁあ!」


 純白の衣装をまとった王子様が叫んだ。金髪碧眼の見目麗しい王子様だ。階段を駆け下りた王子は、倒れた花嫁を抱き起し、止まらない血を見て叫んだ。


 その瞬間に、王子の周囲にいた人達の首が、鋭い刃物で薙ぎ払われたように飛んだ。絹を切り裂いたような悲鳴が上がり、結婚式の参加者達は逃げ惑う。


 立ち上がった王子の口から獣のように荒い息が漏れた。


「殺す」


 逃げ惑う人たちの首が、見えない何かに薙ぎ払われ、おもちゃのように飛んでいく。


「ディアを守れなかった、この場の全ての人間を殺す」


 王子の金色の髪が血のように赤く染まり、優しそうな青い瞳が狂気を宿した黄色に変わる。たった数分後には辺りは静まり返っていた。地面は赤黒く染まり、その場には、純白の衣装が血で赤く染まり切った赤い髪の王子以外、息をしている者はいなかった。


「おい」


 王子が呼ぶと、王子の陰から異形の姿のものが現れた。顔は狼のようで、身体は人、両手には鋭い爪が付いている。


「ディアを生き返らせろ」


 --無理だ。代わりに他の欲しいものを何でもやろう。


「ディア以外……何もいらない」


 血まみれの王子の瞳から涙が流れた。


「神にできぬことなど、ないのだろう!?」


 異形の神は薄く笑う。


 --この程度の血の量で死者を生き返らせることは無理だ。もっと我に血を捧げろ。


「いくらでも捧げてやる。だから、ディアを生き返らせろ!」


 そこで、ディアの頭の中に流れてきた映像は途切れた。全身の震えが止まらない。


(これは、過去に本当に起こったことなの……? だったら、過去のアーノルドは、私が『皆に愛される王子様が好き』って言ったから、神の加護で姿を変えていたんだ……)


 そうすれば、過去のディアに愛してもらえると思ったのかもしれない。


(待って、じゃあ、もしかして、アーノルドが戦争を繰り返したのも、血まみれの残虐な王になったのも、私を生き返らせるため……?)


 ディアの瞳に涙が溢れた。


(どうしてこんなことに……?)


 アーノルドともっと向き合って話せば良かった。とてつもない後悔が押し寄せてくる。


(……でも、今ならまだ間に合うかも?)


 時が巻き戻り、アーノルドと友達になったし、ディアも『皆に愛される王子様が好き』と言わなかった。でも、もうすでにアーノルドは異形の神と繋がっている。なんとかして、二人を引き離さないと。


(おかしいわ……私、アーノルドにざまぁしたかっただけなのに)


 今はただ、『どうしたら、初めてできた友達を救えるか』ディアはもうそれしか考えられなかった。


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