コミカライズ記念SS②はじめての観劇03
舞台上の物語は終盤にさしかかった。
この舞台の幕が下りると観劇デートも終わってしまう。
観劇のあとの予定は、昼食をはさんで病院と孤児院への訪問だった。
ちなみに、どちらの施設も王太子夫妻の訪問が決まったと同時に、『王族に失礼があってはいけない』という理由で徹底的に監査が入った。
今回は、匿名での密告があった病院と、お金の動きが怪しい孤児院を訪問する。『王太子夫妻の訪問』を理由にすれば、こういうグレイゾーンな経営にまで切り込むことができる。
それを思いついたのがディアで、その仕組みをつくって整え実行したのがアーノルドだった。
これまでに多くの成果を上げていて、いろんな施設を正常な運営に正すことに成功している。
ディアがアーノルドを見ると、アーノルドはまだディアを見ていた。
「アーノルド。劇、もうすぐ終わっちゃうね」
「うん」
「おでかけ、終わっちゃうね」
「うん」
観劇のあとは、おでかけではなく、王太子夫妻の仕事になる。さすがに、このままずっと手を繋いでおくわけにはいかない。
アーノルドは、ぎゅっとディアの手をにぎった。
「ディア。また、観劇にこようね」
「うん、そのときは、私じゃなくて舞台を観てね」
アーノルドは『うん』とは言わず、代わりにディアの頬にキスをした。
「その約束はできないかも」
いたずらっぽい笑みを浮かべるアーノルドを見て、ディアは両手で熱くなった顔をおおう。
「お、おかしいわ……傷ついた子猫を拾ったはずなのに……?」
「うん?」
いつの間にか子猫は、ディアだけに甘々の王子様になっている。
「アーノルドって結婚してから、急に積極的になったよね?」
「うん。これからは、ディアとずっと一緒にいれるんだと思うと嬉しくって。嫌?」
「嫌じゃないけど……」
慣れなくて恥ずかしい。
そんなことを伝えると、アーノルドはクスッと笑った。
「じゃあ、慣れて恥ずかしくなくなるまで、続けるしかないね」
(わ、私の王子様が、甘すぎる!)
心がムズムズするような恥ずかしさを感じつつ、ディアは愛する人から愛される幸せを嚙みしめた。
おわり




