コミカライズ記念SS②はじめての観劇02
馬車に乗り込んだディアにつづき、アーノルドも馬車に乗り込んだ。
いつもはディアの正面に座るアーノルドが、今日はなぜかディアの隣に座る。
「?」
不思議に思ったディアがアーノルドを見ると、ぎゅっと手をつながれた。
「アーノルド、どうしたの?」
「今日は、ディアと初めてのおでかけだから、ずっと手を繋いでいたいんだけど……ダメかな?」
ほんのりと頬を赤く染めたアーノルドが、そんなお願いをしてくるのでディアの意識は一瞬で吹き飛んだ。
(はぐわっ!? な、な、なんなの!? このカッコ良くて可愛い生き物は?)
胸のときめきが止まらない。ディアは握られた手をぎゅっと握り返した。
「もちろん、いいよ!」
そう伝えると、アーノルドは幸せそうにふわっと微笑む。
この笑みを見るたびに、ディアは嬉しくなってしまう。
(出会ったころのアーノルドは、捨てられて傷ついた子猫みたいだったのに……)
子猫をお手入れしたら、キラッキラに輝く誠実な王子様になった。しかも、デロデロに甘やかしたせいか、ディア大好きっこに成長してしまった。
(いいんだけど、嬉しいんだけど!)
自分の夫にドキドキしすぎて、毎日とても心臓に悪い。
アーノルドは『今日はずっと手をつなぐ』と宣言したとおり、劇場についても手を離さなかった。
劇場では、館長と主演男優、主演女優がにこやかに出迎えてくれた。
劇場はとても煌びやかだったが、王族や貴族だけでなく多くの市民にも愛されているそうで、客の服装は軽装が多かった。
厳重に警備されていたけど、一目、王太子夫妻を見ようと人だかりができていた。
ディアとアーノルドがずっと手をつないでいるせいか、なんだかほっこりとするような生暖かい視線を人々から向けられているような気がする。
(は、恥ずかしい……けど、アーノルドが嬉しそうだからいっか)
館長は、この劇場の歴史を軽く説明しながら、最高級の観劇席へと案内された。
扉を開くとそこは個室になっていて、舞台を高い位置から真正面で観ることができる。
「私、舞台って初めて観るの」
ディアは、幼いころはずっと部屋に籠っていた。人生をやり直すために、外に出たらいろいろあったあとに、アーノルドの婚約者になり、すぐに王妃教育が始まったのでゆっくりする時間はなかった。
「僕も」
アーノルドが周囲を見渡したあとに「警備はしっかりされているね」と呟く。
「そうなの?」
「うん、ディアが危ない目にあったら嫌だから、そういうことはしっかりと指示している」
凛々しいアーノルドの横顔に見とれてしまう。
席に座ってもアーノルドは手をつないだままだった。しばらくすると辺りが暗くなり、舞台の幕が上がる。
舞台の内容は、運命により引き裂かれた男女が困難を乗り越えて愛をつらぬき幸せになるというものだった。ハラハラドキドキの展開で見入ってしまう。
ディアは、ふと『アーノルドも楽しんでいるかな?』と思い横を見ると、アーノルドは舞台ではなくこちらを見ていた。
そっとアーノルドに顔を近づける。
「どうしたの? アーノルドは、この舞台、面白くない?」
アーノルドは首を左右にふると、ディアの耳元に口を寄せた。
「舞台に集中するディアがかわいくて、舞台よりこっちを見たい」
優しい眼差しを向けられて、ディアは自分の顔が赤くなるのがわかった。そういうことを恥ずかしげもなくサラリと言ってしまうアーノルドが恐ろしい。
(出会ったころはアーノルドが照れていたのに、最近は私ばっかり照れているような気がするわ……)
それからは、アーノルドの視線が気になって、ディアは舞台に集中できなくなってしまった。




