コミカライズ記念SS②はじめての観劇01
※ディアとアーノルドが結婚したあとのお話しです。王位はまだ継いでおらず、アーノルドは王太子、ディアが王太子妃になっています。
ディアは、姿見に映るワンピース姿の自分を見つめた。
「なんだか、不思議な気分だわ」
王太子になったアーノルドと婚約してからというもの、今まで目まぐるしい日々だった。
未来の王妃になるための勉強はそれなりに大変だったけど、アーノルドと一緒だったのでそれほどつらくなかった。
そして、結婚式を挙げたあと、王太子妃になったディアは、ペイフォード公爵家から住まいを王城に移している。
王城内ではきっちりとドレスを着ていることが多かったので、今日のようにワンピースを着ている自分を見ると違和感を覚えた。
「ねぇ、エイダ。この格好、おかしくない?」
ディアの専属メイドから王太子妃の侍女になったエイダが、ワンピースの腰のリボンをくくってくれる。
「おかしくありません。とてもお似合いですよ」
もしエイダの心の声がわかったら『私のお嬢様は、今日もさいっこうです!』と聞こえたかもしれない。だけど今はエイダがおしとやかに微笑んでいるだけだ。
(エイダ。王太子妃の侍女になるために、すごく頑張ってくれたのよね)
エイダは、王太子妃の侍女になるには身分が低かったので、ディアの父の計らいでペイフォード公爵家の分家と養子縁組をした。そして、より高度な礼儀作法を学び、今は公爵家から輩出した侍女としてディアに仕えている。
エイダは、そこまでして王家に嫁ぐディアについて来てくれた。
「いつもありがとう、エイダ」
「いいえ、今日の観劇、楽しんでくださいね」
上品にふるまっていてもエイダの笑顔は、メイド時代のころから少しも変わらず温かい。
「エイダも、今日の観劇、楽しんでね。ラルフも護衛で一緒に来るよね?」
そう尋ねると、エイダの頬は少し赤くなる。
「はい」
ペイフォード公爵家の副騎士団長だったラルフは、なんとエイダを追いかけて王宮騎士団試験を受け見事合格。ディアの兄ベイルの推薦もあり、今はディア付きの王宮護衛騎士になっている。
信頼できるエイダとラルフが、いつもディアの側にいてくれる。そんな二人は、とても仲が良い。
(エイダとラルフ、早く結婚すればいいのに……)
そうなったら、盛大にお祝いをしたい。
ディアがそんなことを考えていると、部屋の前で待機していたラルフが「アーノルド殿下がいらっしゃいましたよ」と教えてくれる。
部屋に入ってきたアーノルドも、ディアと同じようにいつもよりラフな格好をしていた。
カチッとした詰襟ではなく、シャツとベストに黒ズボンという姿は、とても新鮮だ。シンプルなデザインが、アーノルドの鮮やかな赤い髪に良く合っている。
こちらを見てポカンと口を開けているアーノルドに、ディアは「あれ? また身長が伸びた?」と声をかけた。
「……うん」
どれほど忙しくても、できる限り会うようにしているのに、それでもアーノルドは、会うたびに身長が伸びているような気がしてしまう。
「私も伸びているのに、ぜんぜん追いつけないわ」
「追いつきたいの?」
アーノルドは困ったように笑っている。
「ううん、そうじゃないけど、アーノルドがどんどんカッコよくなっていくから困っちゃう」
「ディアも、いつ見ても綺麗だよ。今日のワンピース姿、女神様が舞い下りたのかと思った」
アーノルド以外がそんなことを言ったら『はいはい、お世辞ね』と思うが、アーノルドなら本当にそう思ってくれていると信じられる。
いつも二人でこういう会話をしているので、王太子夫妻はとても仲が良いと国中に知れわたっていた。
アーノルドは、流れるような仕草でディアの手の甲にキスをする。
「ディアと観劇できるなんて嬉しいな」
(うっ!?)
まばゆいアーノルドの笑みに、激しくときめいてしまう。最近のアーノルドは、凛々しい王子様として振る舞いながら、ディアの前でだけこっそりと可愛さを見せてくるのでとても心臓に悪い。
「そういえば、私たちって二人きりでお出かけしたことなかったね」
王城内でお茶会やピクニックをすることはあっても、いわゆるデートというものをしたことがない。
(でもまぁ、アーノルドは、この国でたった一人の王子様になっちゃったから、気軽にフラフラとおでかけはできないか)
今日の観劇も、孤児院や病院の訪問をかねていて、王太子夫妻としての公務だった。
それでも、アーノルドと一緒におでかけできるのは嬉しい。
ディアは、アーノルドに完璧なエスコートをされながら馬車に乗り込んだ。




