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05 お兄様の誕生日パーティ

 ベイルの誕生日パーティの当日は、ディアも朝から大変だった。早朝からエイダを含む四人のメイドに囲まれ念入りに身支度をされた。メイド達は、みんな、黙々と手を動かしていたが心の中はお祭り状態だった。


 --きゃあ、クラウディア様のお肌スベスベー!

 --磨きがいがある! 美少女のドレスアップ、すんごく楽しい!!

 --ふふ、熾烈なじゃんけん勝負を勝ち残ったかいがあったわ!


 エイダはエイダで、ディアの髪をときながら『ああ、普段から可愛い私のお嬢様が、今日は一段と可憐なお姿に』と感動している。


 一時間後、鏡の前には、銀色の髪をハーフアップにし、水色のドレスをまとったディアの姿があった。メイド達はその出来栄えにそれぞれが心の中で『良い仕事したわ』と満足げに頷いている。


(まぁ、私はパーティにさえ参加できたら、何でも良いけどね)


 と思ったものの、メイド達には「素敵。ありがとう」と満面の笑みでお礼を言っておく。そのとたんに『きゃあ』と黄色い悲鳴が上がったが騒がしいのはディアの脳内だけで、部屋の中では静かにメイド達が頭を下げていた。


(さてと)


 今日は父も朝から忙しいので一緒に朝食は摂らないことになっている。


(まだパーティは始まっていないけど、あの子でも探しに行こうかな?)


 あの子というのは、兄の誕生日パーティの後、夕暮れ時の庭で出会った、ディアと同じくらいの年頃の赤い髪の男の子だ。過去のディアはパーティが終わった後、ようやく部屋から出してもらい、メイドのエイダと一緒に庭を散歩していた。その時に、本が好きな男の子に出会った。男の子の顔にはアザがあり、「兄に殴られて、置いて行かれた」と言っていた。


 その男の子に、「君は? パーティに来ていたの?」と聞かれたので、あの時のディアは「私はお外に出ないように、お兄様に閉じ込められていたの」と素直に答えた。「そう」と答えた男の子は、手に持っていた本を開いた。


 「一緒に読む?」と聞かれたので、ディアは頷いて男の子の隣に座った。そして、一緒に本を読んだ。お互いに好きな本の話を色々したような気がする。そのうちに男の子のお付きの人が迎えに来て、男の子は帰っていった。帰り際に男の子は、「またね」と言ったので、ディアはコクリと頷いた。それきり、その男の子とは会うことがなかった。


 ただそれだけのことだったが、今思えば、ディアの人生で出会った、たった一人のディアの友達だったように思う。


(あの子と仲良くなれていたら、ディアの人生はもっと楽しかったかもしれない)


 だから、今度は早く出会って「友達になって」と言おうと決めていた。エイダに「外に行くわ」と伝えると、エイダが扉を開けてくれた。そこにはなぜかベイルが立っている。


「お兄様!?」


 ディアが驚くと、ベイルに睨みつけられた。


 --け


(け?)


 --けしからん! こんなにディアの可愛さを引き立てるとは、一体何を考えているんだ!? ディアが誘拐されたらどう責任を取るつもりだ!? ディアの身支度に関わったメイドは全てクビにしなければ!


(そっちこそ、何を考えてるの!?)


 ディアは慌ててベイルに微笑みかけた。


「今日は、お兄様のために、たくさんおめかししました。どうですか?」


 無邪気さをアピールするために、その場でくるりと回ってみせる。


 --ぐわはぁ!?


 ベイルがディアの可愛さにやられているうちに、その横を通り過ぎようとしたら、ガシッと左腕を掴まれた。


 --ディアをエスコートしたい! エスコートぉお!!


 何も言わずに睨みつけてくるので、過去のディアだったら恐怖で泣いていたと思う。エスコートを断って不機嫌になったベイルに、メイド達をクビにされても困るので、ディアはにこりと微笑んだ。


「お兄様、パーティ会場までご一緒してもいいですか?」


 ベイルは無言で右手を差し出した。その手にそっと左手を添える。そして、念のために「お強いお兄様と一緒だと、ディアは安心です」とベイルを持ち上げておく。


 --そうだな。ディアがどれほど可愛かろうが、俺が守ればいいことだ。


 ディアはなんとかメイドのクビを回避出来たようでホッとした。


(でもこれじゃあ、あの子は探しにいけないわね。まぁお兄様が主役のパーティだから、そのうちお兄様も忙しくなって、どっか行くでしょ)


 予想通りパーティが始まると、ベイルはたくさんの人に囲まれて身動きが取れなくなっていた。ベイルの代わりに公爵家のお抱え騎士が一人、ディアの護衛についている。


(あ、この人……)


 初めてベイルに会いに行ったときに、鍛錬場でベイルの側にいてディアのことを『可哀想』と言っていた優しい人だった。聞けば、騎士団の副団長だそうだ。


「ラルフと申します」


 そう名乗った優しそうな副団長に、ディアは「よろしくお願いします」と微笑みかけた。とたんに、ラルフの心の声が聞こえてくる。


 --ほんと、クラウディア様は良い子だなぁ。俺の妹もこれくらい素直だったらいいのに。


(妹さんがいるのね)


 ラルフがディアに好意的なのは、妹とディアを重ねて見ているからかもしれない。


(この人と一緒だったら動きやすいかも)


 始まったばかりのパーティ会場を見回しても、ディアのお目当ての人はいない。


(アーノルドの外見は、金髪碧眼の典型的な王子様だし、赤い髪の男の子もまだいないわね)


 ラルフは辺りをキョロキョロと見回していた。


 --団長に『クラウディア様に男を近づけるな』と言われてるけど、みんな、クラウディア様を見てるぞ。こりゃ、話しかけられるのも時間の問題だな。俺、殺されるかも……。


 困った様子のラルフに、ディアは「ここは人が多くて緊張するので、庭園に行ってもいいですか?」と聞くと、すぐに「はい、もちろん!」と嬉しそうな返事が返ってきた。

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