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やり直し転生令嬢はざまぁしたいのに溺愛される【書籍化&コミカライズ】  作者: 来須みかん
【リクエスト番外編】

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 女神のお話(04天地創造)

 ソウレにあきれた顔で「悪夢を見て泣くなど、お前は赤子あかごか?」と言われ、子どもをなぐさめるように、背中をトントンと優しく叩かれた。


 相変わらずソウレは獣臭かったが、大きく温かい手はなぜかアルディフィアの気持ちを落ち着かせた。


「……初めて眠ったのです。仕方がないでしょう!」


 羞恥に耐えながら頬を伝う涙を自身の手の甲でぬぐうと、隣から忍び笑いが聞こえてくる。


「何が言いたいのです!?」


 ソウレを睨みつけると、ソウレは「お、面白い」と言いながら肩を震わせていた。ソウレの尻尾は、これでもかとパタパタと動いている。


「フィアのように気位が高い女が動揺する姿を見るのは、最高に楽しいなっ!」


 満面の笑みを浮かべながら、そんなことを言われたので、アルディフィアは背中に添えられていたソウレの手を思いっきり叩き落とした。


「もう我慢なりません! どうして私がこのような屈辱を受けるのですか!?」


 押さえきれない怒りや悲しみは、この境遇へと追い詰めた愛しいディアに向かう。


「ディア、そんなにも私のことが憎かったの? それならば、いっそのこと『神々の書』に私の消滅を願ってくれれば良かったのに!」


 ソウレはあきれたようにため息をついた。


「ディアは、初めから神への処罰を望んでいたのか? 我には、そうは見えなかったが?」


 ソウレの言葉で、ディアの言葉がよみがえった。


 アルディフィアがディアに『あなたの願いは?』と尋ねると、ディアはこう答えた。


 ――アーノルドとずっと一緒にいたいです。


 嬉しそうにディアはそう言った。


(そうだわ。ディアの願いは……ディアの本当の願いは……)


 愛する人と共にいたい。


 それが無欲な美しいディアのたった一つの願いだったのに、アルディフィアはそれを叶えることを拒んだ。そして、ディアが愛しているものを殺すと伝えたのだ。


「あ、ああ……私は……」


 力の強いものによって、一方的に狩られる恐怖をどうして今まで忘れていたのか。神が人をあやめるのは、アルディフィアが過去に味わった絶望と同じことだと今なら分かる。


 あのときにディアにかけた言葉が、どれほど酷いものだったのか、どれほどディアを軽蔑させたのか、ようやくアルディフィアは理解した。


(もし、あのとき、私がディアの願いを叶えていたら、こんな結末にはならなかったのね)


 激しい後悔に襲われると、またディアの声が聞こえてきた。


 ――これは、アルディフィア様が、今、私とお兄様にやろうとしたことですよ? どうしてそんなに嫌がるのですか?


(これが……今のこの屈辱的な状況こそが、私が今まで人の子にいてきたことなの?)


 絶望と共に涙が溢れた。


「私は……ただ、愛おしい人の子を守りたかっただけなのに……。私はやり方を間違えてしまったのですね……」


 それから、どれほど時間がたったのか、アルディフィアが泣き止んだ頃に、ソウレが口を開いた。


「それが理解できたのなら、もう一度、やってみるか?」

「もう一度……? もしかして、元の世界に戻れるのですか?」


 ソウレほど神力の強い神なら可能かもしれないと思ったが、ソウレは「いや、そうではない」と答えた。


「フィアよ。我と共に、元居た世界より豊かな土地を創造してみないか?」

「創造?」


「男神と女神がいるのだ。我らがつがえば、天地創造は容易たやすい」

つがう? 天地創造が容易たやすくなる?」


 ソウレの言葉をただ繰り返すことしかできない。理解はできなかったが、アルディフィアはおそるおそる尋ねた。


「それをすれば、もう一度、人の子に会えますか?」

「会えるだろうな。我らが人の子のような存在を作れば良い」


「でしたら、やります! 私は何をすれば良いのですか?」

「そうだな……」


 ソウレの腕が伸びてきたかと思うと、アルディフィアはソウレに抱きしめられていた。


 驚きすぎて「い、いぎゃああぁ!?」とアルディフィアの口から無様な声が出た。


 ソウレは必死に笑いをこらえているのか小刻みに震えている。


「ブッ、フフッ、と、とりあえず、我らは、仲の良い夫婦めおとになれるようにお互い努力しよう」

「めおと……? 夫婦!? 私と貴方が!?」


 アルディフィアの視界の隅で、パタパタとソウレの尻尾が揺れている。


「仕方あるまい。男神と女神が夫婦になったときしか天地創造ができないのだからな」


 「う、うそでしょう!?」とアルディフィアが叫び、ソウレが「本当だ。神はウソがつけないではないか」と笑った、その数百年後。


 二人は、閉じ込められた白い空間で、仲良く手をつないでいた。


 ソウレが空に手を掲げる。その動きに合わせて透き通るような青空が広がり、ソウレが白い地面にふれると、青々とした草が生えてきた。


 アルディフィアは、その草原にふれ泉を湧かせた。


「ようやく成功したな」


 ソウレが無邪気に笑う。口元から少し見える犬歯が『愛らしい』と思えるようになったのは、いつからだろうか。


「そうですね。これからは、人の子のように愛らしい生き物をたくさん作りましょう」


 アルディフィアとソウレは、視線を合わせて微笑み合った。




 この場所に、仲の良い夫婦神に祝福された、神々の血を引く人の一族が住むようになるのは、もう数百年先のお話。





【リクエスト番外編③】END




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