③女神のお話(01処断された女神)
※このお話は、以下の三つのリクエストを混ぜました!
○女神アルディフィアのお話、ディアが神々の書に書く以前も含む
○恋に堕とされた女神のその後
○2人の神のその後
天界に住む女神だったアルディフィアは、深いため息をついた。
心から愛していた人間の子どもクラウディアに裏切られ、『神々の書』の強大な力により異なった時空に飛ばされてしまった。
(ディア、どうして……?)
見渡す限り白で覆いつくされた空間に閉じ込められて、いったいどれほどの時が経ったのだろう。
アルディフィアは、何度目か分からないため息をついた。
ここから出る方法がない訳ではない。それは、『己の命を使って閉じ込められる前まで時を巻き戻す』という方法だったが、ここがどこなのか、どういう空間なのか分からない場所で命を消滅させるのは危険すぎた。
女神であるアルディフィアには、食事も睡眠も必要ない。年もとらなければ、疲れることもないので、例え異空間に数千年ほど閉じ込められたとしても特に何も問題はなかった。
ただし、それは自分が一人で閉じ込められた時の場合だ。
アルディフィアは、少し離れた場所で胡坐をかき大きな欠伸をしている汚らわしい生き物を睨みつけた。
人の姿を模しているが、その肌は褐色であちらこちらに刺青が施されている。燃えるような赤い髪からは、狼のような耳が生えていた。上半身を恥ずかしげもなくさらし、毛皮で作られた腰巻からは尻尾が見えている。
「獣臭いわ! もっと私から離れなさい!」
アルディフィアがそう叫ぶと、獣耳をピクッと動かし獣神はこちらに視線を向けた。獣に相応しい黄色い瞳に嫌悪を覚える。
「お前が我から離れれば良いであろう?」
そうは言っても、どれほど離れたくてもこの空間では、これ以上距離を取ることができなかった。まるで二人が見えない鎖に繋がれているようだ。
お互いに睨み合っていたが、しばらくすると、アルディフィアはあきらめてため息をついた。
「まったくディアには困ったものです。次に会ったらもう少し思慮深い行動をするように諭さなければ」
その言葉を聞いて獣神はあきれたように笑う。
「次はない。我らはもう人に関わることを禁じられたのだ」
「方法ならいくらでもあります。私ならそれができる。人のように哀れで儚い生き物には、私のような高位の存在の導きが必要なのです」
「それが迷惑だと、ディアに言われたであろうに……」
獣神ごときに憐れむような視線を向けられ、アルディフィアは屈辱で歯を噛みしめた。
(ディア、どうしてなの? あれほど貴女を特別に愛してあげたのに)
哀れな末路をたどったクラウディアという美しい少女が幸せになれるように、アルディフィアは自分の命と引き換えに時を巻き戻した。そして、邪神を亡ぼすように命じて、ディアは見事成し遂げてくれた。
(今度は幸せになれたのでしょう? なら、どうして私にこんな仕打ちを?)
人の考えることはやはり分からない。そして、愚かだからこそ支えがいがあり愛おしい。
「私は早くここから出なければ」
アルディフィアは、何もない真っ白な空間を歩き出した。しばらくすると、獣神がズルズルと引きずられる。
「ええいっ性悪女め! むやみに歩きまわるな! 我が引きずられるであろうが!」
「だれが性悪女ですって!? 私にはアルディフィアという高潔な名があるのです!」
「そんな長い名を覚えられるか!」
「これだから頭の悪い獣は!」
「だれが獣だ!? 我の名はソウレだ! お前たちより先にいた原始の神だぞ!」
こうして、終わりのない言い争いをするのも何度目だろう。どちらともなくため息をつくとその場に座り込んだ。長い沈黙の後、先に口を開いたのはソウレだった。
「なぁ、フィア」
「誰がフィアですって!?」
「お前の名は覚えられぬ。そもそも覚える気もないがな。これからは、フィアと呼ぶぞ。性悪女と呼ばれるよりはマシであろう?」
アルディフィアが歯噛みをすると、ソウレがまたため息をついた。
「お前の言いたいことはよく分かった」
「獣ごときに、私の何が分かって……!?」
ソウレがうっとうしそうに小さく手を振ると、アルディフィアの口が強制的に閉じた。開こうとしても開けない。
「んーんー!」と暴れるアルディフィアにソウレは「うるさい。少し黙れ」と冷ややかに言い放った。




