エイダとラルフの恋愛(03誰にでも優しい人)
【エイダ視点】
いつものように近道を通ろうとしたエイダは足を止めた。
(……ラルフさん、またいる)
近道の入口にラルフが立っている。恋人のレジーはまだ来ていないようで、ラルフは人を探すようにキョロキョロしていた。
(もうこの道を使うの、やめようかしら……)
知り合いの逢引きを邪魔するのは申し訳ない。でもこの道を通らないと、休憩時間内に温室まで花を貰いに行けなくなってしまう。
(可憐なお嬢様のお部屋には、常に最高級の美しいお花を飾りたいから、温室のお花がいいのに……)
ペイフォード公爵家の温室では、屋敷内に飾るためにたくさんの花を育てている。徹底的に管理され、虫食い一つない花こそ、美しいクラウディアの部屋を飾るのに相応しい。
エイダは、大好きなクラウディアの笑顔と、知り合いの逢引きを見てしまう気まずさを天秤にかけた。エイダの天秤は、すぐにクラウディアに大きくかたむく。
(そうよね! お嬢様の笑顔より大切なものはないわ!)
エイダは、覚悟を決めてラルフに近づいた。ラルフは、近道の入口を塞ぐように立っているので、近づかないと近道を通れない。
ラルフはエイダを見つけると、表情を明るくして「エイダさん、こんにちは!」と挨拶した。
「……こんにちは」
エイダが硬い声で会釈をしてラルフの横を通り過ぎようとすると、ラルフに立ちふさがられて通れない。
「そこを通りたいんですけど」
「あ、そうですよね!」と言いつつラルフはどいてくれない。
(なんなの、この人……)
ラルフの感じの悪さについ眉間にシワを寄せてしまう。
ラルフは「あの、えっと、あっそうだ! エイダさんは、温室に行くんですよね!?」と聞いてきた。
「そうです。だから、どいてください」
エイダが軽く睨みつけると、ラルフはニコッと微笑んだ。
「俺が行って来ましょうか!?」
「え?」
「温室ってここからじゃ遠いですし、俺が行きますよ!」
「いえ……」
『けっこうです』という前に、ラルフは「エイダさんは、ここで待っててくださいね!」と言って走り出してしまった。
「ちょっと!?」
止めようとしたが、ラルフの姿はもう見えなくなってしまっている。今から追いかけても追いつけそうにない。
「もう、本当になんなの……」
仕方がないのでエイダは、ラルフが戻ってくるまで待つことにした。
その間、『ラルフさんの恋人のレジーが来たら気まずい』とか『変なお花を持ってきたらどうしよう』とか嫌な想像が頭の中をぐるぐると回っていた。
しばらくすると、ラルフは「戻りました!」と元気に戻ってきた。ここから温室まで走ったはずなのに、呼吸が少しも乱れていない。
(さすがは、普段から身体を鍛えている騎士様)
ラルフは「どうぞ」とピンクの小さな花束をエイダに手渡した。
「花束?」
「はい、庭師に『クラウディア様のお部屋に飾る』って言ったら、花束にしてくれましたよ」
(私が貰いに行くと、いつも慌ててお花を選んで庭師さんに数本切ってもらうので精一杯なのに。そっか、ラルフさんは足が速いから、花束にしてもらえるくらいの余裕があるのね)
ラルフから花束を受け取るとエイダは嬉しくなった。
「ありがとうございます」
エイダがお礼を言うとラルフは人懐っこい笑みを浮かべる。
(ラルフさんって誰にでも優しい人なのね。レジーが好きになる気持ち、少し分かるかも)
エイダは『やっぱり、騎士様との結婚、良いかもしれない』と思った。




