26 ベイルは瀕死のダメージを受けた
ディアが部屋に戻ると、部屋の扉の前でベイルが仁王立ちしていた。
(お兄様? 私に何か用かしら?)
笑顔で「おはようございます」と声をかけると、ベイルはこちらを睨みつけながら頷いた。すぐに心の声が聞こえてくる。
--俺の妹は今日も最高にかわいいな。前回は一緒に神殿に行けず泣かせてしまったからな。今日は絶対に泣かせはしない。
(しまった! ベイルお兄様と一緒に行く約束をしていたの忘れてた)
すっかり忘れてエイダとラルフに「一緒に来て欲しい」と声をかけてしまった。
(どうしよう、お兄様がいたらアーノルドに会えないし……)
かと言って、ベイルに「着いて来ないで」と言うと、また神殿に何かあるのでは?と疑われてしまう。
「お兄様、とりあえず、お部屋の中に……」
時間稼ぎにベイルを部屋の中へと案内すると、ディアのベッドの上でソウレが丸くなって寝ていた。
(カオスな空間ね……)
ソウレはベイルに見えていないはずなので、今は触れないでおく。
(どうしよう、何か良い方法は……)
部屋の中を見渡すと、ベイルに買ったプレゼントが目に入った。
(そうだ、お父様とお兄様はよく似ているから、もしかしたらお兄様も「使わない」って言うかも?)
ディアは、プレゼントを手に取るとベイルに微笑みかけた。
「お兄様。これディアからのプレゼントです。もらっていただけますか?」
とたんにベイルが静かになった。いつものように頭が真っ白になっているようだ。ベイルが我に返る前に、「開けてみてください」とディアは言った。
言われるがままに包みを開けたベイルの目元が赤くなる。
「鞘飾りか」
「はい、大切な人に贈るものだとラルフに教えてもらいました」
--大切な人。俺がディアの大切な人か。くっ、俺の妹は天使だ。
ベイルは表情を変えずに、心の中で感動している。そして、予想通り鞘飾りに触れず、大切そうに包みを元に戻した。
(今よ!!)
「お兄様、気に入っていただけませんでしたか?」
「いや、気に入った」
「では、どうしてつけてくださらないのですか?」
悲しそうにベイルを見つめると、珍しくベイルがたじろいだ。
--いや、これは国宝級の宝だ。俺の鞘なんかにつけたら傷がついてしまう! ディアからもらったものを傷つけるなど絶対に嫌だ!
(予想通りね)
ディアは悲しそうに俯いた。
「私からのプレゼントなんて、つけたくないですよね……」
--いや、違う!
ベイルが『違う』と口で言う前に、ディアは顔を横にそむけた。
「お兄様なんて……嫌いです」
そっとベイルを見ると、こちらを睨みつけていた瞳が僅かに見開かれていた。ベイルの心の声は静まり返っている。そこに、エイダがやってきた。
「お嬢様、もうそろそろお支度をして神殿へって、ベイル様!?」
ディアはアーノルドに渡すプレゼントを抱えると、エイダの手を引いて部屋の外に出た。
「エイダ、今のうちに行きましょう!」
「あ、えっと、はい?」
部屋の中で固まってしまったベイルに『ごめんなさい、お兄様! 帰ってきたら、たくさん大好きって言いますから!』とディアは心の中で謝った。




