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やり直し転生令嬢はざまぁしたいのに溺愛される【書籍化&コミカライズ】  作者: 来須みかん
【本編/完結済み】

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21 ゆるい神様

 ディアは自室に浮かんでいる男神を見上げて思った。


(いつまでここにいるんだろう……)


 質問したいことは全部終わったし、そもそも『助けない』ときっぱり断られたのでもう原始の神に用はない。


「あの……」


 声をかけると狼のような耳がピクッと動いた。


「もしかして、あなた様を帰すための儀式とかもあるのでしょうか?」


 もしそうだったら、この男神は儀式が終わるまでずっとここにいるのかもしれない。


 --そんなものはない。我は帰りたいときに帰る。


「そ、そうですか……」


 さすがに神様に『用済みなので帰ってください』とは言えない。その時、自室の扉がノックされた。男神の姿を他の人に見られる訳にはいかない。


「わっ!? ど、どうしよう!? あなた様は姿を消せますか!?」


 --慌てるな。我には容易いことよ。お前以外には見えず、声も聞こえないようにしておこう。


(それは良かった!)


 安心して扉に向かって返事をすると、エイダが「お嬢様、お茶をお持ちしました」と笑顔で入ってきた。


「ありがとう」


 ディアが椅子に座ると、エイダがテーブルにお茶の準備を始める。男神は興味深そうに近づいてきた。


 --ふむ、良い香りだ。


(神様もお茶を飲んだり、お菓子を食べたりするのかな?)


 そんなことを考えていたら、エイダがきゃあと悲鳴を上げた。見ると、トマトの汁をぶちまけてしまった机を見ている。


「ち、血!? お嬢様お怪我を!?」

「あ、それ、トマトの汁なの……片付けるの忘れてたわ。ごめんなさい」


 エイダは安堵のため息をつくと「お嬢様に怪我がなくて良かったです」と言いながら、後片付けをしてくれた。




 結局、夜になっても男神はディアの側にいた。ふよふよと空中に浮かぶ獣耳をつけた神様に、ディアは遠慮がちに声をかけた。


「あの、いや、さすがにもうそろそろ……ね?」


 男神はニヤリと笑う。


 --嫌だ。お前のところの性悪女のせいで、信者が激減して我は暇なのだ。


(だから、あんなに雑な召喚で無理やり出てきたのかな……)


 --昔からの友は、皆、この地を去ってしまった。


 どこか寂しそうに呟く男神に、ディアは尋ねた。


「あなた様は、どうしてこの地に残っておられるのですか?」


 --我を信仰するものが一人でもこの地におるかぎり、我は信者を見捨てることはない。我は慈悲深い愛の神だからな。


 男神はまたニヤリと笑った。


 --それに、我がおるだけであの性悪女が嫌な顔をするのでな。もはや、あの女に嫌がらせをしたくてこの地にとどまっておると言ってもいい。


(慈悲深さはどこに行ったんだろう……)


 --ああ、そうだ! 愛おし子(いとおしご)に我の匂いがついていたら、あの性悪女がいったいどんな顔をするであろう? 想像するだけで楽しいぞ。


 あっはっはと男神は笑う。


(神様なのに地味な嫌がらせね)


 仕方がないのでディアはベッドに潜り込んだ。すると男神もベッドに入りディアの隣で横になる。


「あの……これはちょっと……」


 --ソウレだ。


「ソウレ?」


 --我の名だ。


「や、やめてください! よその神様の名前なんて知ったら、アルディフィア様に反抗しているのかと思われるじゃないですか!?」


 この世界では、神様の名前は、信者以外には知らされないことだった。なので、この国以外では、女神アルディフィアは「豊穣と愛の神」としか明記されない。


 ソウレの尻尾が嬉しそうにパタパタと上下する。


 --反抗ではない。我はお前に改宗を勧めておるのだ。愛おし子(いとおしご)に改宗されたら、あの性悪女がどんな顔をするであろうなぁ!


 あっはっはと楽しそうに笑うソウレを見て、ディアは『一周回ってこの神様達、実は仲が良いのかもしれない』と思った。


 ソウレは獣耳をピクピクさせながら、ディアに擦り寄ってくる。その動作がやけに動物っぽい。


 --先ほどのアーノルドとやらの話をせい。


「アーノルドですか?」


 --好きなのであろう?


 ソウレの高い体温と低く心地よい声を聞いていると、どんどんとまぶたが重くなってくる。


「……アーノルドは、ソウレ様と同じ赤い髪に黄色の瞳でとっても可愛いんです。いつも一生懸命で……でも、育った環境が悪くて、自分に自信がなくて……」


 --それで?


「大好き……幸せにしたい……」


 ディアは瞳を閉じて眠りへと落ちていった。


 --心優しい良い子だ。我はお前のことが気に入った。自分の身を守る加護くらいはつけてやろう。それくらいなら人の定めへの介入にはなるまい。


 どこか遠くで、ソウレのそんな言葉が聞こえたような気がした。


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