高校生活6日(いきなりの……!?)
『地獄の筋肉痛』が明けて次の日。
つまり土曜日のこと。
「フッハハハハハッ!! お前たち、準備はいいか!?」
「「「「「ふぁ~~い……」」」」」
「なんだ、情けない奴らめ!! 若者らしい元気はどこへいった!! 私も十分若いがな!!」
「梅先生……今、朝というか、未明の三時前です……ふぁああ~……」
「コーチ……眠いです……ぐぅ……」
「美穂はさっきまで原稿描いてたものね……」
「無駄に元気だな……」
「俺、今日部活の練習あったのに……」
今、私たちは自宅で寝ていたところを、何故か梅先生に白いワゴン車に押し込められ、どこかへ向かっているところだった。
運転席は布が被せられ、周りの窓もカーテンが引かれている。
走っている雰囲気から、何処かの高速道路だというのは分かった。
こんな真っ暗じゃ、よくわからないわね……。
「僕たちどこに行くの?」
「ともくん、私はともくんがいればどこでもいい! たとえ地獄の果てまでも!!」
「まーちゃん!」
ひしっ! と、まるで映画の一幕のように抱き合った、茉央ちゃんと浅井くんを梅先生がベリベリと引き離す。
「ハイハイ、ストップだ。狭い車内で暑苦しい。まぁ、今から行く場所は……足立、お望み通りの場所だぞ?」
「え?」
「目的地は………………『地獄』だ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
…………………………
………………
「ぐぅ~……」
「すぴー……」
「むにゃむにゃ……」
車で揺られること五時間。
夜中に起こされたせいもあってか、車の中で全員ぐっすりと眠ってしまった。
「もう着くぞ! お前たち! 足立、起きないなら、智哉を私の好きなようにするからな!!」
「うぁ……だ、ダぁぁぁメぇぇぇ――――――っっっ!!!!」
「「「うわぁっ!!!!」」」
びっくりした~。茉央ちゃん発声良いわねぇ。
それよりも、梅先生……生徒に何かしちゃダメですよ?
「ふわぁ~……着くって、どこにですか?」
「ん? やだ、何か臭う…………」
「この臭いは……」
浅井くんが窓のカーテンをめくると、外は岩だらけの景色が流れていく。岩の間から所々、煙のような白いものが立ち上っていた。
「これって、まさか……」
「まさか、だね」
地獄。
……ではなく、この世の『天国』!
「温泉!!」
「温泉だあああああっヒャッホー!!!!」
茉央ちゃんほどではないけれど、私も温泉と聞いたら気分は『アゲアゲ』というものだわ!
「感謝しろ! 私の知り合いに旅館を貸し切らせたのだ。今日から明日まで一泊二日の小旅行だ!」
おぉ~!! パチパチパチパチ!!
割れんばかりの拍手。
みんなが嬉しそうに外を眺めているのを見ながら、梅先生がこっそり私に耳打ちをしてきた。
「明乃くんは修学旅行には行けんからな。私からのプレゼントだ」
「温泉なんてすごいですね」
「あぁ、君の主治医の咲間先生と椎丈先生、それと医院長が、メイドカフェの店員に貢ごうとしていたのを、奥様たちにバレる寸前で私が阻止してな。キャンセルも勿体ないから脅し…………穏便に丸々こちらに譲ってもらった」
「……………………」
病院に帰ったら、咲間先生にお礼を言った方がいいのかしら?
それとも、そっとしておく方が親切かしら?
経緯はどうあれ、熱いお湯にゆっくり浸かりたい。本当に温泉っていいわよね……。
「温泉なんて久し振り……」
「……? 明乃ちゃんは小さい頃にでも行ったの?」
「え? あ、うん。家族で……」
「渋いねぇ。温泉って子供には熱くて大変だって、おばあちゃんが言ってたけど、明乃ちゃんは大人だね♪」
「あはは……」
危ない……家族で行ったのは本当だけど、三十年以上前だったかも。
やがて車は温泉町の道路に入った。
「あ! あれ、温泉玉子売ってるー!! あっちには温泉饅頭の店が! あぁ!! こっちに温泉ソフトクリームが!!」
温泉ソフトクリームって何かしら……?
観光地ってどこへ行ってもソフトクリームがあるわね。
私もついつい買って食べちゃうのよ。バニラ味ばっかりなんだけどね。
「後でみんなで行こうね!」
「うんうん、行こう♪」
温泉に美味しい食べ物……あと、定番なのが……
「梅先輩、目的地の旅館に着きましたよ」
「うむ、ご苦労だったな浅井!」
「え? 浅井って……」
「兄貴!?」
車が止まり、前の席と後ろを仕切っていたカーテンが引かれて、運転席の男性が顔を出した途端、浅井くんが悲鳴のような声をあげる。
「何で兄貴が運転してんの!?」
「はっはっはっ! 感謝しろよ、五時間ぶっ通しで運転してやったんだぜ!!」
「免許持ってたっけ!? いつ教習所通ってたんだよ!!」
あらあら、浅井くんのお兄様ですか。
「俺は梅先輩に頼まれたんだよ。あ、安心しろ、俺や父さんと母さんは別の宿だから」
「父さんたちもいるの!?」
「俺はここから独自に温泉を楽しんでくるから、智哉たちも楽しんでくるがいいさ!! じゃ、また帰りに!!」
ある建物の前で、ポイポイと車から降ろされた。
浅井くんはわなわなと震えながら、走り去るワゴン車を見送っている。
浅井くん、保護者同伴なのが嫌だったのかな。高校生の男の子だもんね。
「ここが今日の宿だ!! 存分に楽しめ、若者たち!!」
はい! 楽しみます!
私の『修学旅行』が始まった。
浅井・父「智哉は今頃みんなと一緒にいるのか」
浅井・母「あらあらあらまあまあまあ! じゃあ私たち、今日は二人っきり? あらあらあらまあまあまあ……」
浅井・父「母さんは緊張するとその口癖が出るなぁ。もしかして……二人っきりで緊張してるのかい?」
浅井・母「あらあらあらまあまあまあ……お、お父さんったら……(照れ)」
浅井・父「たまには良いじゃないか。後で露天風呂にでも行こうか……」
浅井・母「あなた……(照れ)」
浅井・兄「……俺もいるけど」
マン喫に行こうかな…………( ´_ゝ`)