高校生活4日~5日
「1、2、3、4……」
「いてて……体固い~……」
「弥生さん、大丈夫?」
「うん、ごめんごめん……」
二人一組で柔軟をしている。私の体が固いので、鹿ノ上さんが気を遣って優しく押してくれた。
はぁ~。こんなに曲がらないものかしら。
完全な運動不足だわ。仕方ないけど。
背中を伸ばしたあとは脚と肩ね。
久しぶりの柔軟のストレッチを丁寧に行う。
現代の運動は特に、ストレッチをきちんとしないといけないと学んだから。
私の時代はこんなに詳しくなかったわ。
最近のはテレビで見ていたけど、何とかリズムとか、何とかブレスとか流行っていたのぐらいしか知らなかったし。
「ぐわぁっ……いててて! 勇斗、もう少し優しくやってくれ」
「あぁ、悪い悪い。じゃあ、これくらいでいいか?」
「あ、うん。そこそこ」
近くでは、浅井くんと田島くんがペアになって体操をしている。ふふ、浅井くんも体固そうね。
「いたっ! うぐぅ……勇斗~、だから、あんま強くするなって……」
「なんだよ、これくらいなら大丈夫だろ? ちょっと頑張れよ、ほら…………」
「あ、あ、あ~! やめ、らめぇっ……!」
「ダ~メだ。やめない!」
うんうん、分かる分かる。マッサージとか柔軟すると、声出るわよね。『あ~』とか『いたた~』とか、私も思わず言うわぁ。
「エクフッ、エクッ……!!!!」
「美穂、落ち着いて。頑張って!」
「あざま――――すっ!!!!」
浅井くんたちの隣では、茉央ちゃんと美穂ちゃんが柔軟をしているのだけど…………美穂ちゃんが何かを叫びながら泣いている。
大変、そんなに柔軟が辛いなんて!?
「み、美穂ちゃん! 痛いの? 大丈夫?」
「え? あ、だ……大丈夫大丈夫!! なんともないから!!」
「大丈夫だよ、明乃ちゃん。美穂は、ともくんたちを見て“萌えている”だけだから」
「そう……?」
美穂ちゃん……“燃えている”なんて、スゴくやる気満々! きっと、彼氏への愛の力というものね!!
「よし、ガンバらないと……!」
入院中も、歩くのも大変な私には『運動』というのは無縁だった。
その私が……走ろうとしている。
それも2キロ!(体育の授業なので軽めだそうです)
大変だわ。100メートルもあやしいのに。
でも…………ビリでもいい。やってみよう!!
「前回も休んでいるし、弥生さんはやれるところまででいいからね」
「はい」
体育の先生も梅先生から聞いているのだろう、それとなく無理をしないように言ってくれる。
「はい、せいれーつ!! 男子は4キロ、女子は2キロね。途中、具合の悪くなったり、怪我をしたりした人がいたらすぐに言ってください!」
スタートラインにみんなで並ぶ。
最初は学校の校庭から。後は学校の回りを走ってまた校庭に戻って来るコース。女子は一周だけ、男子は約二周。
「それでは、よ――――い…………」
ピ――――――――ッ!!
ホイッスルの音と共に、みんなが一斉に走り出す。
――――――ゴトリッ!!
「っっっ!?」
スタートした直後、後ろには浅井くん(未来のご遺体)が倒れ込む。どうやらゴールした後に、浅井くんには死ぬ運命が待っているみたい。
これは……早くゴールして、浅井くんを待たないとダメね。
目標ができたので気合いが入る。
タッタッタッ……タッタッタッ……
トラックを一周して、学校の周りのコースへと。
タッタッタッ……タッタッタッ……
「はぁ……はぁ……」
早くも息が上がってきてしまった。
情けない……もう少し、もう少しだけ頑張る!
タッタッタッ……タッタッタッ……
「ふぅ……はぁ……」
やっと……半分くらい?
タッタッタッ……
タタタタッ!
私を男子も女子も追い抜いていく。
これが本当の若さかぁ………………いいえ……
「すぅっ…………」
タッタッタッ……タッタッタッ……!
私だって今は若いもの!
懸命に腕と脚を振り、ひたすら走り続ける。
やっと一人(腰の周りに石をくくりつけた微居くん!?)をかわし、女子は一周を走りきって校庭へ向かう。
もう少し、もう少し!
タッタッタッ……タッタッタッ……!
「明乃ちゃん、頑張れー!!」
「もうちょっとだよー!!」
ゴールライン(と、未来の浅井くんのご遺体)が見えて、そこに先にゴールしている、茉央ちゃんと美穂ちゃんが待っている。
「ゴ~~~~ルっ!!」
「おかえりー!!」
「た……だい……ゴホッゴホッ!! ま……ゴホッゴホッ!」
は……走った…………!!
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
「お疲れ様~!」
「頑張った頑張った!」
あまりの息切れに、フラフラと地面にへたり込んでしまう。どうやら、私は女子の中で一番最後だったみたい。男子のトップの田島くんなんて、もっと早く着いてしまっている。
それでも……信じられない。
一週間前まで、私は車椅子の生活だったのに……!!
しばらくすると、微居くんや浅井くんもゴールしているのが見えて、慌てて立ち上がろうとする…………しかし、足が震えてへたり込む。
どうしよう……!?
「ともくん、おかえり~っ!!!!」
茉央ちゃんが浅井くんに抱き付く。
スチャッ!! 後ろで微居くんが石を手に。
「微居~、お前早すぎだよ~!」
「フン、お前が遅いだけだろ……!」
あ…………石を仕舞った。
ゴールしてきた絵井くんにより、またもや浅井くんの未来が守られる。
絵井神さま、ありがとうございます。
「明乃ちゃん、大丈夫?」
「立てるか? 無理なら、手伝うぞ?」
あまりにも立ち上がれない私を心配して、美穂ちゃんと田島くんが覗き込んできた。
「はぁはぁ……大丈夫。えへへ……疲れたけど、ゴールできて嬉しい……」
やっぱり足が震えたので、立ち上がるのだけ手伝ってもらい、大きく深呼吸をした。
風が……気持ちいい。
終わりのストレッチもほどほどに、充実感が体いっぱいになる。
その後、お昼はみんなで美味しくいただき、午後の授業は眠たくて仕方なかった。
…………………………
………………
次の日。目覚めは六時。
「……ふぁ……………………あ……?」
……………………痛い。
「痛たたたたっ!! こ、これは……!?」
完全な『筋肉痛』だわ……まさか、次の日にすぐに来るなんて……!?
キーンコーン……
「痛たたたたぁ……!」
「明乃ちゃん、大丈夫?」
「無理しないでね」
「う、うん……痛たた……」
せっかくの金曜日。
私は夕方まで久々の『筋肉痛』に襲われた。そして、運動終わりのストレッチが大事だと、この時初めて聞いたわ。
若いのも……大変ね……。
鹿ノ上「ぶるうちいず先生……ストレッチでは良いものを見てしまいましたね……」
美穂「えぇ、十年もの……いえ、十六年ものの素晴らしい香りを感じました……」
鹿ノ上「これは801エクッフの新刊も期待していいのですね?」
美穂「フフフ……期待していて。必ず貴女の手に届けるわ」
茉央「美穂からやる気が満ちているわ……」
明乃「……?(ヴォジョレー?)」
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