高校生活4日
「おはよう」
「おはよう、弥生さん」
転校生としてこのクラスへ入って早、四日目。
他のクラスメートたちとも度々する、挨拶や世話ばなしも自然と出来るようになってきた。
体が若くなっただけで、こんなに打ち解けられるものなのかな。もしかしたら、頭の中も段々若返っているのでは……?
そんな考えが過ったのだけれど、余計なことは考えないようにして席についた。
カバンとお弁当の入った手提げを机の横に掛ける。
ふふ、お弁当楽しみね。
昨日は足立さんたちが私のために『歓迎会』をしてくれた。
その時に作ったおかずをお弁当として取っておいて、今朝はご飯だけ詰めてきた。もちろん、ご飯にも賑やかに飾り切りをした海苔やハムを乗せてきたのよ。
昨日は楽しかったわ。まるで親戚が集まって新年会をしたみたいに……いえ、人数は少ないけど、それ以上の楽しさだった!
今朝もふわふわと心が軽い。
「明乃ちゃんおはよー!」
「おはよう、明乃ちゃん!」
「あ、おはよう! 足立さ…………」
「明乃ちゃん! アウト――――っ!!!!」
「きゃあああっ!」
挨拶をしようとした途端、足立さんが私の体のあちこちをくすぐりにきた。
「あはははっ……や、やめてっ、あはははっ!!」
「も~~うっ!! 明乃ちゃん、違うでしょ!? 私のことは『茉央』! 美穂のことは『美穂』って、名前で呼んでって昨日約束したじゃないの!!」
「はぁはぁ……そ、そうだったね……」
くすぐられ過ぎて呼吸が苦しい。
「ごめんっ! やり直します!」
「次間違ったら罰ゲームにするぞ! はい、もう一度! おはよー、明乃ちゃん!」
「おはよう、ま……茉央ちゃん、美穂ちゃん!」
「うふふ、おはよう。よくできました、明乃ちゃん」
「よーし、よし! これからもこの調子でいきたまえー!」
「「「あははは!」」」
顔を見合わせて笑う。
たったこれだけで、この年頃の女の子というのは笑い声が絶えないものね。この年頃に戻っている自分は、何だか不思議でとても楽しい。
キーンコーン…………
「おはよう! 朝だ! 始めるぞ!!」
梅先生も入ってきて、今日も学校生活が始まった。
…………………………
………………
数学の時間。
「みんなー!! 昨日やった小テストを返すぞ!! 間違ったところは誠心誠意復習をして、パッションを感じられるようにするんだ!」
数学の安本先生が元気にテストを返してくる。
最近の先生は面白い人が増えたのねぇ。私の若い頃の先生たちとは違って理屈っぽくないもの。
「浅井ー、まあまあパッションを感じたぞー!」
「はぁ……どうも……」
そして、どんどんテストは返されて……
「弥生ー!」
「……はい!」
はぁ……私の番だわ。とりあえず、解るところは埋めたけど…………
「転校してきてすぐの割には、なかなか上出来なパッションだったぞ!」
「え? は、はい!」
まあ……50点満点中、45点?
私、半世紀も数学なんて勉強してなかったのに?
「明乃ちゃんすごい、数学得意なの?」
「え? うん、まぁ……たぶん?」
昔は確かに得意だったわねぇ。誠さんの教え方が上手だったこともあったけれど……
これも若返りのせいなのかしら?
…………………………
………………
次は体育かぁ……。
前回の体育は一昨日だったのだけど、それは体調を理由に見学させてもらったのよねぇ。
「明乃くん」
「あ、梅先生……」
休み時間になってすぐに、教室の入り口で梅先生が手招きをしている。
「体育の先生には、無理をさせないように伝えてある。今回も見学して大丈夫だそうだ」
「すみません、先生……」
見学……その言葉を聞いた時、胸にチクッと何かが刺さった気がする。
「あ、あの……梅先生!」
「どうした?」
「やっぱり、参加してもいいでしょうか?」
「参加? まぁ、体は健康だと毎日調べてはいるから、運動は出来るとは思うが……」
そう、問題は健康な身体だからと無茶をせずに、私がちゃんとペースを保って運動できるか? に掛かっているはず。
「やってみても? 先生も、新しいデータが取れるのは嬉しいですよね?」
「フッ……なかなかニクいことを言う……いいだろう。しかし、無理はするな。いいな?」
「はいっ!」
よーし! やってやるわ!
「こんな所にいた! 明乃ちゃん、早く更衣室行かないと!」
「う、うん! 今行く!」
「明乃くん、ご武運を!」
梅先生が親指を立てて(サムズアップというのね)、いい笑顔で見送ってくれた。
更衣室へ行き、急いで着替える。
ふと、体操着のハーフパンツを見て、安堵のため息が出た。
「今はブルマーじゃないのね……良かったぁ」
「明乃ちゃん、それはだいぶ昔よ?」
いえいえ、私の時代は体育は長ズボンでしたから。
私の子供たちが履いていたから、私たちより新しいのよ。でも、それから時代はまた進んだのねぇ。
「今日の体育って何かな?」
「んー? 確か、持久走って聞いたけど……」
「持久走……!?」
これは……今も昔も大変なものでは……?
当時の私も、持久走は好きじゃなかったわ。
どうする?――――――でも……
「…………たい……」
「ん? どうかした、明乃ちゃん?」
「私、走ってみたい!」
その台詞に、自分が一番驚いた。
茉央「一緒に走ろうぜ……しかし、あいつはオレを裏切った!! 次回『伴走なんて柄じゃねぇ!! 貴様を倒すのはこのオレだ!!』を、お楽しみに!!」
美穂「あなたは最高のツンデレを目撃する……!! 見てくれなきゃ、あなたの顔に、エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
明乃「……?(二人とも、どこに向かって何を言ってるのかな?)」