高校生活3日(女子力向上特訓の会?)
お読みいただき、ありがとうございます!
今回ちょっと長め。
わぁ……立派なお家だわ。
足立さんのうちはとても近代的で立派なお宅だった。
「さ、入って入って! ただいまー!」
足立さんに続いて、私と篠崎さんもドアをくぐる。広い玄関から上がり、そのままリビングと台所まで通され、買ってきた食材を台所のカウンターに置く。
「うちのお母さん、六時までは教室の方にいるから、それまでは台所を好きに使っていいって! まずは、私たちでやってみよう!」
ふんふーん♪と鼻歌を歌いながら、足立さんが出してくれたエプロンを三人で着る。
ちなみに、ここにいるのは足立さん、篠崎さん、そして私の三人…………
「あさいくんあさいくーん!」
あれ? 奥から小さな子が……?
「あ、私の妹の『未央』だよ」
「妹さんいたんだね」
わぁ、可愛い! 足立さんを小さくした感じ!
思わず抱っこしたくなるわね!
未央ちゃんがキョロキョロと部屋を探している。
「ん? あれぇ? おねえちゃん、あさいくんは?」
「残念ね、未央。ともくんは来ていませーん!」
「え~~? やだやだ! なんであさいくんいないの~?」
「今日はね、『女子力向上特訓の会』なのよ!」
そう、今は女子だけ。
浅井くんと田島くんは、ちょっと用事と部活があるからと先に別れていった。
篠崎さんは今日はわざわざ部活を休んで来てくれた。大丈夫かと心配したけれど、『ちゃんと先生に確認してから来たから』と、気にしないように言ってくれた。
足立さんも篠崎さんも優しい。
買ってきた食材を広げて、
“お弁当は女子の必須スキル!! 定番かつ飽きないもので男の子を永遠につかんでおくのよ!!”
……と、足立さんが言うので、すぐにお弁当のおかずになるものを作ることにした。
「まずは定番、後から変わり種を作ってみようか? 最初は王道の鶏の唐揚げだね!」
唐揚げ……よく子供たちに作ったわねぇ。いつものお弁当はもちろん、遠足や誕生日会、クリスマスなんかでも……なんか、一年中作っていた気がするわ。
鶏肉を切って、下味付け、粉をまぶして揚げて……
他にも、アスパラのベーコン巻き、ミニハンバーグ、卵焼き、ポテトサラダ…………あと、色のバランスでブロッコリーとミニトマトが添えられる。
これが、だいたいの定番らしい。
やっぱり若い子は肉類がいいのね。
おしゃべりしながら楽しく作業。
他の付け合わせやなんかを、みんなでキャーキャー言いながら作っていく。
ふふ、若い頃、同級生たちと家庭科の授業をしたことを思い出すわ。できたお弁当を、みんなで憧れの先輩や先生に渡しに行ったりして……
二段弁当のおかずの段が唐揚げをはじめ、賑やかなおかずで隙間なく埋まっていくのを見ながら、私はふと死んだ主人のことを考えた。
誠さんは本を読みながら食べてたわね。
彼は高校の先輩で、医者になるためにいつも勉強ばかりしている人だった。
初めて渡したお弁当も、唐揚げやおにぎりなど簡単に食べれるものばかりで、それを喜んで受け取ってくれたのだ。
「できた。可愛いお弁当……」
赤い楕円形の入れ物に、可愛い紙のカップや、クマさんのピックでおかずが飾られている。
最近のお弁当用品は凝っているわね。
こんなに賑やかなのに、今も昔も、定番のおかずはあんまり変わらないところがなんだか面白い。
「……誠さんに、食べてもらいたいなぁ」
「『誠さん』って誰? もしかして、彼氏!?」
「きゃっ!! え!? いや、そのっ……」
足立さんが顔の前にニュッ! と、急に現れた。
「やっぱり彼氏いたんだね! 初めて見た時、そんな気がしたんだ!」
「え? なんで?」
「だって、明乃ちゃん落ち着いているもの。女として余裕があるというか……同じ彼氏持ちの勘よ。ね、美穂!」
すごいわ……今の子はそんなことも?
でも、私の場合は年を取った未亡人なのだけど……
「あはは……それは、茉央ちゃんだけだよ。私はゆうくんと離れてると心配で余裕ないもん」
「えー? だったら私も、ともくんいないとやだ!」
「みおも! みおもあさいくんにいてほしいー!!」
可愛いフリフリのエプロンを着た未央ちゃんが、ミニトマトを洗ってお手伝いをしてくれる。
台所は女子だけの喋り場になっていた。
「明乃ちゃん、そのお弁当は明日のお昼に取っておきなよ。保冷剤入れておけば大丈夫だから」
「うん、ありがとう」
「よし、じゃあ残りはこっちに置こうか!」
「うん………………え? えぇっ!?」
リビングのテーブルには一緒に作った、お弁当の定番おかずが大皿にうず高く積まれていた。
「何人分!? 唐揚げだけで、食べ放題に置いてある皿みたいになっているよ!?」
「うーん、何人分かな? 鶏肉で3キロ分使ったから……」
「3キロ!?」
お弁当の分を取ってもこの量。
おしゃべりに夢中で、こんなに量産されていたのに気付かなかったわ!
「た……食べきれないんじゃ……」
「大丈夫だよ。男の子二人もいるから!」
「へ?」
ピンポーン!
チャイムがなって足立さんが玄関まで走っていった。
ガヤガヤと賑やかな声が聞こえて、リビングに次々に人が入ってくる。
「ちょうど出来たんだ! タイミング良かったよ、ともくん!」
「そう。あ、これは美味しそうだね。まーちゃん、はいこれ、頼まれてた飲み物だよ」
「あさいくんあさいくーん!」
「ゆうくん、お疲れ様!」
「あぁ、部活終わりは腹減るから、ここまで我慢するの大変だったな」
「浅井くんに田島くん……?」
「フッハハハハハ! タダ飯が食えると聞いたのでな!! 私も数に入れてもらおう!!」
「梅先生!?」
あっという間にリビングは埋め尽くされた。
「ただいまー、茉央ー、ちょっと手伝って~!」
「ママ、お帰りー!」
再び玄関へいく足立さん。
…………次の瞬間、ワゴンに乗せたウェディングケーキが現れて、私は口を開けたまま固まってしまった。
「驚いた? 昼にママに電話して作っててもらったのよ」
「もう、急に言うのだもん。簡単にしか出来なかったわよ。うふふ……」
簡単に? この見事な三段ケーキが!?
「さーて、じゃあ飲み物配って! うん……始めようか?」
「あの……足立さん?」
「今日は『明乃ちゃんの歓迎会』だよ! 二週間だけだって言ってたからさ。想い出もたくさん作っておこうよ。ね!」
「………………私の?」
「「「ようこそ、肘川へ!! カンパイ!!」」」
気付けば部屋中、輪飾りや紙の花で飾られていた。
どうやら今日、おかず作りにかこつけて、歓迎会をしようと決めて用意したらしいのだけど…………
こ……この子たちの行動力が怖い!
すごいわ、現代の子が無気力なんて誰が言ったのかしら!?
「さ、明乃ちゃん。楽しんで楽しんで!」
「うん……ありがとう」
びっくりした。でも…………かなり、嬉しいかも。
この際、『いつ鶏肉3キロも買ったの?』とか、『ウェディングケーキってそんなに早く造れるの?』とか、細かいことは考えないでおきましょう。
唐揚げやその他の大量のおかずやケーキが、見る間になくなっていくのが面白くって、私はずっと笑っていたと思う。
二週間……こんな楽しい日が続けばいいな。
へとへとになって帰ってきたはずなのに、私の興奮はなかなか冷めてくれなかった。
茉央「はー、食べた食べた!」
智哉「美味しかったねー(ケーキはほとんど、まーちゃんが食べたなぁ。相変わらずの別腹……)」
未央「あさいくん……あさい……くん……むにゃむにゃー」
茉央「寝ちゃったね。ともくん……私たちも部屋に行こうか?」
智哉「そ、そうだね(ごめん、みんな!)」(サムズアップ!)
美穂・勇斗「「おやすみ~」」(サムズアップ!)
梅「貴様ら、教師のいる前でいい度胸だ……」
明乃「? 先生、早寝早起きですよ?」
梅「あいつらは寝には行っても、寝るが寝ない!」
明乃「??? とんちですか?」
※半世紀の時代の違いです。