高校生活2~3日
目覚めは朝の五時。
「今日も良い天気……さ、支度しないと」
本日、高校生活三日目。
昨日のうちに作っていた惣菜で、簡単に朝食を済ませ片付ける。しかし……
う~ん、明日はお粥じゃなく、パンでも食べようかしら?
帰りはスーパーに寄らなきゃね。
一日目は緊張していたからか気付かなかったけど、昨日から少し感じている小さな変化。
たぶん、身体が若くなったことで新陳代謝も変わり、それに加えて味覚などの五感も変わってしまったのかもしれない。
私の夕飯はいつも、就寝前に胃腸への負担にならないように、軽くお粥や野菜スープを食べるのだけど、昨夜はそれがなんだか物足りなくてよく眠れなかった。
「朝ごはん、足りない気がするわ」
そう思って、今朝作ったお弁当は少しだけ量を多くしてみた。おかずは朝も食べた煮物と卵焼きなのだけど…………
チラリとラップを掛けた、残りものの煮物に視線を送る。
「……今時の子のお弁当って、もっと賑やか……よね?」
たった二週間ではあるが、お弁当ひとつにしてももう少し明るくしたい。
昨日と一昨日、足立さんや篠崎さんのお弁当を見て、久しぶりに作るのもいいなぁと思って、試しに作ってみたのだ。
昔は息子や娘に作っていたものだけど、しばらくぶりなのでどんな風にすればいいか迷ってしまった。
「年寄りの煮物……メインには向かないわよねぇ?」
おかずは茶色と黄色……ご飯に梅干し……やっぱり地味だわ。
お昼までお腹が空きそうなので、残っていた煮物は食べていくことにした。味は良いのだけど。
図書館に今時のお弁当の本でもあるかしら?
満腹になったはずなのに、なんか足りないのは“若さ”なんだなとしみじみ思いながら制服に着替えた。
キーンコーン……
お昼を告げる鐘がなった。
午前中の授業が終わって、皆はランチの準備を始めている。
「ともくん! ともくーん!」
ゴトリ。…………ドサッ。
足立さんが浅井くんに可愛く呼び掛ける度に、後ろでは微居くんが石を用意し、浅井くんの足元には『未来の浅井くん(死亡済み)』が転がった。
「おーい、微居。悪いけど、シャーペンの芯分けてくれないか? こっちの切れちゃって……」
「フン……しょうがない奴だな……」
ザァアアア…………
仕舞われた石と共に、浅井くんの黒い靄と『未来の浅井くん(死亡済み)』が消えていく。
うん、今回も“死亡フラグ”とやらは消えたみたいね。
実は一昨日に初めて見てから、今見たので八回目。
浅井くんの死因はいつも微居くんで、そのフラグを折るのはいつも絵井くん。
梅先生は『気にしたら負けだ』って言っていたけど……。
普通は死体が転がるかもしれない状況を、無視はできないでしょう。それに、これに慣れてしまったらダメなのではないかと本能が訴えているのよね。
浅井くん……いつか本当になりそうで怖いわ。微居くん、心の底から本気で投げようとしてるもの。
何が彼をそこまでさせるの?
私が帰るまでに、止めるように説き伏せることは無理な気がする。
とりあえず微居くんのことは後にして、皆でお弁当にしましょう。
近くの机と椅子を借りて、いつもの四人とお弁当を囲む。
「明乃ちゃん、今日はお弁当なの?」
「うん。作ってみたのだけど……」
「え! どれどれ? 見せてー!」
「えぇっと……地味だよ?」
パカリ。
う……やっぱり色合いが地味ねぇ。
「あ、この煮物、明乃ちゃんが作ったの?」
「う、うん……全体的に茶色だけど……」
「でも美味しそう。ね、このミートボールと、この里芋と取りかえっこしよ!」
「うん、いいよ」
わぁ、このミートボールは手作りなの!?
足立さんはお料理が上手らしい。篠崎さんも教えてもらったと言っていた。
「……うんうん……うん! 美味しいよ、明乃ちゃん! この煮物、売ってるのより美味しい!」
「本当?」
「その辺の“おばあちゃんの惣菜”にも負けないよ!」
……おばあちゃんの惣菜、そのものなんだけどね。
篠崎さんや浅井くん、田島くんにも食べてもらって、味の保証はしてもらった。今の若い人も煮物の美味しさは分かってくれるみたい。
「なるほど、味は良いけど見た目なのね?」
「あと、ちょっと物足りなく感じて……」
「んー、やっぱり肉類は欲しいかもね」
「そうね、私たちもしっかり食べたい時もあるものね」
「そう……」
お肉なんて、最後にちゃんと食べたのいつぐらいだったかしら?
足立さんのミートボールが美味しい。
「私はともくんが喜びそうなのを考えるんだよ。やっぱり男の子はしっかり胃袋掴まないと!」
本人を目の前に足立さんは堂々と言い放った。でも浅井くんは嬉しそうに足立さんを見ている。
そして、いつの間にか浅井くんの横に『未来の浅井くん(死亡済み)』が倒れていた。またどこかで微居くんが狙っているみたい。
「ゆうくんも運動部だし、肉巻きとかよく食べてるよね」
「おう。でも美穂の作ったものなら何でもいいぞ!」
田島くんも篠崎さんのこと大好きなのねぇ。四人ともキラキラしてて羨ましいわ。
「よし! じゃあ、明乃ちゃんも今日はうちにおいでよ!」
「足立さんのお家に?」
「そうそう。うちのお母さんが料理の先生してるから、皆で最新のお弁当を伝授してもらおう!」
「いいね、行こう行こう!」
「あ、うん。いいわね……」
何か流れで行くことになってしまったわ。
ちょっと緊張してしまう。
教室の隅で、絵井くんが微居くんとパンを半分こしているのを見ながら、ちょっと鼓動が早くなっていくのを感じた。
明乃「……(また絵井くんが助けてくれた……やはり神ね)」
美穂「……(明乃ちゃん、あんなに熱心に絵井くんと微居くんを見詰めて……。A×Bなのかな?それともB×Aかな? あぁ!!気になる!気になるわ!!)」
勇斗「美穂、大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
智哉「……(ぶるうちいず先生が弥生さんを見て、顔を赤らめている…………はっ!!まさか、ここで百合百合しい展開がっ…………)」
茉央「ともくん、美穂は百合より薔薇の花をご所望よ?」
智哉「いや、別に……(何で心読めるの!?)」
明乃「……?(好きな花かな?)」