高校生活1日(了)
「……でね、後でともくんも一緒に、皆で校舎を案内してあげるね。やっぱり購買部と保健室は知らないと――――」
「そ、そうね。ありがとう」
皆には見えていないので普通にしている。
変に思われてはいけない。何故なら、足立さんに腕を掴まられている『浅井くん』の足下には、本人が絶叫するであろうモノが倒れているのだから。
実感のない血溜まりが、教室の真ん中に広がっているのだ。
その主は――――倒れて血を流している『浅井くん』。正確には、これから起きる『未来の浅井くん』だ。
そして『現在の浅井くん』の背後には不気味な“黒い靄”が漂う。
あの“黒い靄”は死ぬ人に纏わり付いているものだ。死亡原因を消さない限り、あれは消えることはない。
困ったわ……皆に気付かれないように『浅井くんの死亡原因』を探らないと。言っても信じてもらえないし、気味が悪いものね。
今の浅井くんの立ち位置と変わらないため、もしかしたら事故はすぐに起きるのかもしれない。急がないと。
…………こうなったら、直接『倒れている浅井くん』に聞いてみよう。
「お昼休みは購買部に行ってみて、放課後は移動教室を回っていくのは?」
「そうね。でも、明乃ちゃん、帰りは時間ありますか?」
「えぇ、大丈夫…………あ、消しゴムが……」
机の上の消しゴムをわざと床へ落とし、拾う振りをして倒れている『浅井くん』に語り掛ける。
「浅井くん……何で倒れたの?」
『………………』
瞳孔の開いた虚ろな黒目がキョロリ……と動く。血溜まりでズルズルと片手が動いて、教室の後ろの方を指さした。
後ろ……?
ゴトリ。
「っ!?」
ゴトリ、ゴトリ、ゴトリ。
「っっっ!?」
浅井くんの背後の席、机いっぱいにゴツゴツとした黒い石を並べている男子がいる。
え!? 石!? 何で教室で石を!?
どうやら、あのおびただしい数の石が凶器みたいなんだけど……あんなに分かりやすい凶器、あっていいのかしら?
何かの間違いじゃ……
『……………………』
チラリと下を向くと、足元の『浅井くん』は“あれが死因です”と、真摯な眼差しで訴えてきている。
「ともくん、ともく~ん!」
ゴトリゴトリゴトリゴトリゴトリ。
あ、ああ……何か分からないけど石が増えていく。どうしよう。
あ!! 一つ選んで手に取った!?
「弥生さん、顔色悪いけど大丈夫? 転校初日は疲れると思うから、無理しないでね?」
「え……あ、うん。篠崎さん、ありがとう……」
これ、浅井くんを引っ張り倒せばいけるかしら?
それとも直に止めに入って…………
いわゆる『投球フォーム』に入った男子の姿に、私は慌てて立ち上がり……
キーンコーン、カーンコーン
動こうとした時、休み時間の終わりの鐘が鳴り響く。
その鐘と同時に一人の男の子が、その石を手にした男の子に近付いてきた。
「購買のパン、目当てのまだ入ってなかったよ~。……って微居、授業始まるぞ。石はしまっとけよ」
「あぁ……」
ガサガサ……
その男の子の一言で、机に並んだ石がすぐに全て仕舞われた。
ザァアアアア。
その途端、『倒れた浅井くん』と“黒い靄”が一気に消えていく。
――――消えた!? 私、何もしていないのに!?
すごい!! 死の影をあの男の子が消した!!
あの子……まさに……
「神だわ……」
「「「へ?」」」
「っ!!」
思わず声に出して言ってしまった。
足立さん、浅井くん、田島くんがキョトンとして私を見る。
「えっと、その……あの子たち見てたら、ちょっと……」
自分でも何を言って言い訳しているのか。
男の子二人を見て『神』と呟くなんて、変に思われてしまうわねぇ。
ガシィッ!!!!
「ん?」
「解るわっ!! 明乃ちゃん!!!!」
私の両手をがっしりと、包み込むように掴む篠崎さんの両手。
「転校初日で、あの二人の良さに気付くなんて……素晴らしいわ!!」
「んん?」
「エク……エクっ……!!!!」
「美穂、落ち着いて。美穂」
プルプルと震える篠崎さんを、足立さんが苦笑いしながらさすっている。
…………『エク』ってなに?
「おーい、授業始めるぞー」
先生が入ってきて、皆が自分の席へ戻っていく。
「ふふ、じゃ!」
「また後で、ね!」
「え、うん……」
足立さんと篠崎さんもにっこり笑って席についた。
…………セーフ、なの……?
どこの何がセーフだったのか分からず、私の額の汗はなかなか引かなかった。
その後、昼休みや放課後を使い、足立さんたち四人に校舎を案内された。
皆、親切にしてくれたので、私の転校初日は楽しく過ごせたと思う。
……………………
…………
「アッハハハハハッ!! それはまるで『死亡フラグのノリツッコミ』だな!!」
「笑い事では…………」
ここは研究のために借りているマンションの一室。
私の住居であり、一日を終えた私の体を調べるのが目的だ。
部屋にはたいそう難しそうな機械の数々と、そこから伸びる配線が犇めいていた。
私はベッドに横たわり、体のあちこちにその配線を付けてじっとしている。機械から出るデータを眺めている梅先生に、さっそく今日の報告をした。
「いやいや、やはり“暗闇の眼”は興味深いな。明乃くんを被験者にして間違いはなかった」
「梅先生は科学者なのに、非科学的なものも信じるのですね?」
「ふん。“非科学的”だと否定する者は二流の科学者だ。その“非科学的”なものを受け入れ、隙あらば科学で丸裸にしてやろうと常に考える者が一流なのだ」
「梅先生は一流なのですね?」
「もちろんだ! それに、かの有名な『トーマス・エジソン』も、死者の声を聴こうとオカルト研究までしている。“暗闇の眼”……初めて聞いた時は本当に面白いと思ったぞ!」
「ふふ、梅先生はすごいです」
今日みたいな事はきっとまた起きる。
それでも、今日はとても楽しかった。明日はどんな日になるのだろう?
私はふわふわした気分で初日を終えた。
美穂「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
茉央「やっと叫べたねぇ」
美穂「はぁはぁ……まさか、転校生が同志だなんて運命だわ! きゃっほぉぉぉぉいっ!!」
勇斗「美穂、なんだか楽しそうだな」
智哉「…………(弥生さん、逃げてー!!ぶるうちいず先生から、仲間にロックオンされてますよー!!)」
※腐は仲間だと思ったら、心の距離は0センチである。