高校生活1日
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大昔、私が本当に若かった頃。
青春を謳歌する……という言葉はなかった。
時代も時代だったのかもしれないけれど、例え現代に生まれても……私に『普通の青春』をおくるのは無理だと、若い私ならば思ったでしょうね。
だって私には…………
…………………………
………………
そして、現在。
私はどこをどう見ても、16歳に若返っていた。
しかも、外見だけじゃない。
身体のあちこちが全く痛みも重みも感じず、歩けば羽が生えたように軽やかだ。
『この薬は私が開発した“ロリニナール”の改良強化版でな。是非ともご年配の方……特に身体の不自由な方に試してみたかった』
これは確かに表に出たら色々問題になる。私じゃなかったら、梅先生はきっと『マッドサイエンティスト』とか言われちゃう人種だと思う。
科学の進歩というのはここまできたのねぇ。
姿の激変に最初は軽く眩暈がしたもの。
だって、70歳のおばあちゃんが五十年以上も若くなるなんて……この薬が世に出回ったら、戦争にでもなるんじゃないかしら?
梅先生としては、ゆくゆくは気軽に若返りができるように、じゃがいもとかに効果を付与させたいとか。
フライドポテトやポテトサラダを食べて若くなる……なんか、すごい発想だわ。
……そんなことを考えながら、私はお世話になるクラスメートたちを見ていた。
ふふ……みんな孫と同じくらいなのよねぇ。
でも、話を合わせられるか心配だわ。孫の誠一はほとんど学校の話なんてしないから……。
「えー、明乃くんは私の知り合いの娘さんでな。これから二週間だけだが、諸君らのクラスメートになる! よろしく頼むぞ!」
梅先生が打ち合わせ通りの説明をした。
最初から二週間という期限を決めていたのは、限りある学校生活にすることで身体への負担軽減と、終了時にこの場を去り易くするため。
「えーと……そうだな、足立と篠崎! 休み時間になったら、この娘に色々教えてやってくれ!」
「はいさー!!」
「はい! コーチ!!」
元気の良い返事のすぐ後、
「はーい! はいはい! 明乃ちゃんは彼氏いますか――!?」
「もう、茉央ちゃんったら……」
無邪気な質問が飛んでくるのが、実に若い娘の言動らしくて眩しい。
返事をした二人の女の子たちはとても可愛いわ。こちらを見て、ニッコリと笑う顔がとても素敵。
「足立、その質問は後で答えてもらえ。順に質問タイムを設けたいところだが、今は来たばかりの明乃くんが困惑する」
「はーい」
梅先生がチラリとこちらを見て頷く。
『フォローはまかせてもらおう!』と言っているようだ。
最初は変わった人だと思っていたけど、なかなか良い先生だなと感心する。
一先ず、授業を終えてからゆっくり話すことにしよう。今から楽しみね。
…………………………
………………
「私は『足立 茉央』だよ! よろしくね、明乃ちゃん!」
足立さんは明るくて活発そうな子ね。
「『篠崎 美穂』です。分からないことがあったら、なんでも聞いてね」
篠崎さんは大人しくて優しそう。
……と、それぞれ自己紹介をされたのだけど…………
「こっちがマイダーリンの『ともくん』と、あっちが美穂の彼氏の『田島くん』です! テストに出るから覚えておくように!!」
「えっ! 高校生なのに……!」
私の時代じゃ、堂々と交際しているなんて言えなかったわ。これが今の高校生なの!
思わず四人を見回してしまうと『ともくん』(浅井くんというらしい)と呼ばれた彼が、足立さんに優しい視線を向けながら彼女の肩を叩く。
「まーちゃん、弥生さんビックリしてるよ?」
うん、本当にビックリしたわ。
「…………そんなプライベートなことがテストに出るの? 最近の子達は大変ねぇ……」
「「「え!?」」」
「あはは! 明乃ちゃん、面白いっ!!」
「え…………?」
…………しまった。なにか、おかしなことを言ってしまったかしら?
こ、こんな時は梅先生からの『魔法の言葉』を!!
「ごめんなさい……私、田舎にいたからよく知らなくて……」
田舎の人達に失礼かもしれないけど。
「ふふふ、大丈夫、すぐに慣れるよ。ね? ともくん!」
「ま、まーちゃん! 」
足立さんが浅井くんにぎゅ~~っと抱き付く。
あらあら、大胆……これが今の当たり前なのね。
その時、
――――――ドサッ!
浅井くんが倒れた――――いや、正確には足立さんと腕を組んでいる浅井くんとは、別の浅井くんが重なって倒れたのだ。
「――――っ!?」
ひゅっと、息を飲んで床を見つめる。
倒れた『浅井くん』の頭からは、どくどくと赤い血が流れて床に広がっていく。
あっという間に液体は足元まで到達した。
「………………う……」
「ん? 弥生さん?」
「明乃ちゃん、どうしたの?」
「え、あ……いえ……ちょっと床に虫が……」
「え! 虫!? どこどこ!?」
「大丈夫だよ、美穂」
完全に固まった私を皆が見ていたので、誤魔化しつつ私は必死で平静を保つ。
ここで倒れている『浅井くん』は皆には見えていない。
何故なら、この光景はまだ起こっていないからだ。
どうしましょう。
こんな時に『暗闇の眼』が働いてしまった。
これが、私が『普通の青春』を謳歌できなかった理由の一つ。
私が持つ『暗闇の眼』は、近い未来の“死”を視る眼だから。
つまり……もう少しで浅井くんが死んじゃうということになる。
若返り初日。久しぶりのピンチだ。