出張版お絵描きの館 『gift』
オマケのお話。
これにて本当の最終回。
それはある日の放課後。
校門を出てしばらく路なりに進んだある一角で、唐突に気になったものを発見して足を止めた。
「ん? どーしたの、ことは?」
「……うん、こんな所に画廊なんてあったかな?」
私の言葉に、隣を歩いていたゆかりも止まって見上げる。
「アートギャラリー…………じふ……?」
「『gift』」
「なに? ここ……こんな住宅街にあったっけ?」
「そうだよねぇ……?」
首を傾げていると、後ろから誰か近付いてきた。
「柏木も平安さんも、何やってるの?」
「あ、弥生くん……」
「いやぁ、こんな所にアートギャラリーなんてあったかなーって……」
「…………さぁ?」
どうやら、弥生くんも知らなかったみたい。
「ねぇねぇ、ちょっと入ってみない?」
「え?」
「だって、ここに“入場無料”ってあるし、画廊? なんてあんまり見たことないんだもん!」
「確かに……あまり入らないけど……弥生くんも行く?」
「ん? まぁ、試しに見てみたい気持ちはある、かな……」
「じゃあ決まり! 何事も経験よねー!」
私の手を引っ張り、ゆかりはズンズンと中へ入っていく。その後ろを弥生くんが静かについてきた。
建物の中は明るくて、思ったよりも広い。
雰囲気も落ち着いていて、とても小洒落ている。
「わぁ、思ったより広くてキレイ」
「もっと、ごちゃごちゃしてるかと思った」
弥生くんと二人でキョロキョロしていると…………
「画廊だああああああヒャッホー!!!」
「っ!? ゆかり!?」
「な、何!? 平安さん!!」
「はっ!? アタシは一体何を!?」
いきなり叫んだゆかりは、これまたいきなり我に返って狼狽している。
「平安さん、何で急にそんなテンションに?」
「だ……大丈夫、ゆかり? 急に何かに取り憑かれたみたいになったけど……?」
「何だろう……なぜかここで『叫べ!』って言われた気がして……」
「とりあえず……画廊では静かにね?」
「う、うん……!」
何とか落ち着いたゆかりと共に、画廊の奥へと進んでみた。
入り口から小さな風景画や静物画などの無難な絵画が並んでいたけど、奥は何やら特別な展示をしているみたい。
「……ここまで、誰もいなかったけど……?」
「この展示って何かな?」
「え~と……“肘川叙事詩”だって。作者は『岸川 瀬広』って人ね」
肘川……何処かで聞いたような?
「あー、おばあちゃんがリハビリに行ってた所だ」
「そうだったね。それなら少し気になるかも」
どれどれ…………
まずは一枚目。
題名【転校生の明乃ちゃん】
「――――おばあちゃんっっっ!?」
「あ、本当。明乃さんがいる」
「え? でもこの若い子は誰?」
説明書きによると、
『【肘川北高校】の転校生。明乃さんの若い時のデザイン』
「デザインってことは想像画ってことなのかな? もしかしたら、仲良くなった高校生が描いてくれたのかもしれないよ」
「そ……そうだね。何故かおばあちゃんが若返ったのかと焦ったよ……」
『挿し絵にしようと描いたものですが、時間が経ってしまったのでこちらに掲載。早く描けば良かったのに……作者よ』
「自分に軽くノリツッコミしてるわね」
「言い訳とも取れるね」
そして、そのとなりの練習画。
『デザインで一番困ったのが髪型。髪型がなんとも決まらず。特徴は黒髪と真ん中分けストレート……これを取り入れるも、他のキャラに被らないようにしようとするのが大変だった。ちょっと試しに描いてみたら、昭和の絵に古臭さが拍車をかけることになり、明乃ちゃんのデザインが決まった時には話も半分過ぎていました』
「①なんて、FF7のセフィ○スみたいになったね」
「②は昭和の少女マンガにいそうだよね」
「柏木も平安さんも厳しい意見だよね。あんまり言うと、作者泣くよ?」
そして集大成へ……
題名【ユリ・キュアシスターズ!】
「……いきなり多人数できたか」
「魔女っ娘を頑張って描いたみたいだね」
『これは作中で出てきたアニメのコスプレをしているキャラたち。明乃ちゃんは、茉央ちゃん美穂ちゃん、そして梅先生の髪型に被らず、目立ち過ぎずを目指した結果がこれ。作者は頑張った。誉めて♡』
「『誉めて♡』とか言うなぁぁぁっ!!」
「落ち着いて、ゆかり。今日はなんか変だよ?」
「ネタの元には了解を得ております……だって。『意外に男性キャラが人気』? 男って後ろのオタク風な人?」
「『後ろのカメコは神様』……何? え~と、男性キャラは紫、水色、橙色???」
「みんな女の子だよね?」
そして、説明書きの最後にこんな一言が載っている。
『喜んでくれる人がいる。それが作者の原動力』
「良いこと言って〆ようとしてるね」
「でも、その通りかもしれないよ? 私だって、下手でも喜んでもらえると嬉しいもの」
「僕もかな。やっぱりその方がやりがいもあるよね……」
「二人とも、認められなくても頑張ってるもんね」
ちょっとだけ、しんみりしてしまう。
誰だって本音を言うと、頑張った分は誰かに認めてもらいたいものだから。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「そうだね。帰って予習しないと、次のテストもあるし」
「ちょっ……! 期末終わったばかりなのに!」
「次の中間があるね」
「あるねぇ」
私と弥生くんのセリフに、ゆかりは思い切り顔を歪ませた。
「あー、がり勉どもめ! よし、チーズケーキ食べに行こう! 今から!!」
「え? 今から?」
「明乃さんも食べたいって言ってたでしょ? リサーチしに行くの!!」
先に『gift』から出たゆかりを追い掛ける。
「もう、ゆかりったら! ごめんね、弥生くん」
「いいよ。おばあちゃんのことだし、付き合うよ」
こうなったら、明乃さんのおみやげを真剣に考えよう。
「あ、そうだ。今の『gift』って画廊のこと、明乃さんにも教えて………………あれ?」
「どうしたの?」
「え? あれ? 画廊は……?」
パンフレットでももらっていこうかと、振り向いた視線の先には普通の住宅街が広がっていた。
『gift』があった場所には何事もなく家が並び、さっきまであった看板なども見当たらない。
そんな……?
「二人ともー!! 行くってばー!!」
ゆかりの声に、私も弥生くんも現実に戻される。
「ゆかり! 『gift』がない!」
「は? 何、それ?」
それはこっちのセリフ。
驚いたことに、ゆかりはたった今『gift』に入ったことを覚えてないという。
「もう! 二人とも、ぼーっとしてどうしたの?」
「いや、僕ら入ったよね……」
「まさか……夢?」
そんなことはないのに、何故かそう思ってしまう。
白昼夢と言うには、あまりにもリアルだった。
そういえば、『gift』に入ろうと言ったのはゆかりだ。その後も少しおかしかったし……
「一体、何が…………」
「……もう、いいんじゃない?」
「へ?」
「消えちゃったし。たぶん、もう今日は出てこないと思う」
「………………」
あぁ、私もそう思う。
「……じゃあ、行こっか」
「うん」
遠くでゆかりが「早くー!」と急き立てていた。
「うん分かった、今行くよ」
「急だけど、チーズケーキ楽しみだな」
これは秘密だけど、不思議な体験をした後はちょっとお腹減る。
「…………また来るね」
そう呟いて、私たちはその場をあとにした。
一陣の風が吹く。
「はい……またのお越しを、お待ちしております」
見えない弓が空気をかき鳴らして過ぎていった。
了
ありがとうございました!
本当に皆様の嬉しいが、作者の糧でございます!




