+エピローグ
お読みいただき、ありがとうございます。
季節はあっという間に過ぎていった。
高校生活を無事に終えた明乃は入院先へ戻ったが、その後の体調は良好で、春には一時退院ができるまでになっている。
…………ふむ、確かここが肘川だったか。
【肘川北高校】
今日も何でもない生活をおくる子供たちで溢れていた。
私は気持ち一つで目的の場所へ飛んでいける身……というか、実体のない“霊魂”だ。
『私』は『明乃の夫』として感謝の気持ちもあり、今日はここへきたのだ。
肘川の彼女たちも気になったので、明乃に内緒で様子も見ていこうと思う。
彼女にバレたら『ずるい!』と怒られそう。
…………バレれば、だけど。
「おはよー! ともくぅーんっ!!」
「おはよう。まーちゃん」
「勇斗くんもおはよう」
「おぅ、おはよう。美穂」
「ち……! 朝から目障りな……!!」
「よう! 微居、一緒にパン買いにいこう!」
「ごきげんよう、諸君!! 今日もさっさと始めるとしよう!!」
明乃がいなくなったクラスは、特に何かが変わったということはないようだ。
それはそうだ。あの子は一時期の通過した季節の風と同じ。
いつかは忘れられていく存在だ。
きっと、学校というのは今も昔も変わらない。世代が代わり続けても、普遍的にその場所は受け継がれていく。
私にもこんな時代があったのだと、彼らを眺めながら思う。
たった二週間ではあったが、明乃はこの学校で色々なことをしていた。
私は各教室を巡り、体育館や校庭を歩いて回る。
そして校庭の端にあった、大きな桜の木ノ下で足を止めた。
ほぅ……これは見事な。
きっと春の卒入学シーズンには、溢れるほどの満開の花が咲くのだろう。
満開の光景をぼぉっと眺めていた時、後ろに人の気配を感じる。見ると、数人の男女がこちらに歩いてくるようだ。
「茉央ちゃん、どうして今日はここでお昼にするの?」
「う~ん……何となく、かな……?」
あぁ、この子たちは…………
その場に来たのは、明乃が世話になったクラスの子供たちだった。彼女たちは木の近くのベンチに座り、各々のお弁当を広げている。
「ここ、春が一番綺麗なんだと思うよ。温かくなったら、みんなでお花見しながらお昼にしようよ」
「うん、ともくん。でも、どうせなら明乃ちゃんにも見せたかったなぁ」
「そうだね……」
「そうだな」
彼女たちはおもむろに明乃の話を始めた。
それはたった二週間の友達の、様々な場面を切り取った思い出。
お弁当を作った話。
持久走を頑張った話。
温泉に行った話。
肝試しで大変だった話。
買い物に行った話。
…………彼女たちは次々に話す。
まるで『私』がここに居るのが見えているかのように、明乃がどんな生活をしたのかを一つ一つ。
今日は来て良かった……。
普段、私は明乃が入院している病室から、彼女が心配で動かないでいる。
彼女が肘川へ行った時も、彼女が帰ってくる部屋でじっと待っているだけで、学校へ足を運ぶことはほぼなかった。
しかし今日は明乃の体調も良く、彼女が携帯を眺めて楽しそうにしている姿を見て、思いきってここに来ようと決めたのだ。
以前は『誠さん』と、寂しげに花瓶の花に呼び掛けていた明乃が、最近は『茉央ちゃん、美穂ちゃん』とウキウキと思い出している。
この良い感情に私も前向きにならなくては。
私が側で心配ばかりしていたら、せっかく伸びた『明乃の寿命』を縮めてしまいかねないのだ。
キーンコーン……
昼休みの終わりを告げる予鈴がなる。
彼女たちは慌てて片付けをして立ち上がった。
…………さて、私も病院へ戻るか。
子供たちが戻ろうとしているのに併せて、私もその場を立ち去ろうとしたが、一人だけがこちらに振り返った。
「………………」
………………?
黙って立つ彼女から目を離せずにいると、なんとその子はこちらに一礼をした。
そして、パンッと手を合わせ…………
「明乃ちゃんに写メを送りたいので、来シーズンはうんとキレイな花をお願いします!」
真剣に私に…………いや、後ろの桜の木に祈っている。
「茉央ちゃん、早くしないと授業始まるよー?」
「あ、うん! 今行くー!」
「何してたの?」
「うん、お願い事をね」
どうやら、この桜の木を見た明乃が「こんな木の下で卒業写真を撮ったら、きっとすごくキレイね」と、言っていたことがあったそうだ。
「明乃ちゃん……二週間なんて短いよ。卒業までいられたら良かったのに……」
「仕方ないよ、美穂。この桜じゃなくても、春になったら明乃もお花見とかしてるだろうから、そのことでも色々教えてもらおう!」
「そうだね。また連絡しよう」
「うん、ずっと元気でいてもらいたいもんね!」
にっこりと笑い合う二人の少女に、私は温かい気持ちになった。
「二人ともー! 行くよー?」
「はーい!」
「あ、待ってー」
……………………ふむ。今の台詞は明乃には秘密だな。
そっと、歩いていく子供たちに祈りを捧げる。
どうか、あの子たちがこれから良いことに恵まれますように…………
その時、目の前に“幻”のような光景が浮かぶ。
春。
大きな桜の木。
卒業を喜び合う友人たち。
それは一瞬で、白く光って消える。
これは……もしかしたら、あったかもしれない“未来”なのだろう。
再び桜の木を見上げると、ざわざわと木も何やら嬉しそうである。幹を撫でて頷く。
『あぁ、良いものを見せてくれた。どうもありがとう……』
明乃の友人たちに、私も元気をもらった。
さぁ、私も帰ろう。
この気持ちを明乃へのみやげにして。
イラスト:サカキショーゴ 様
Special Thanks
『明らかに両想いな勇斗と篠崎さんをくっつけるために僕と足立さんがいろいろ画策する話』著:間咲正樹 様
https://ncode.syosetu.com/n7783fl/
collaboration
『暗闇の眼』シリーズ 著:きしかわせひろ
https://ncode.syosetu.com/n1318gd/
お読みいただき、ありがとうございました!
【肘川叙事詩】完結でございます!
最後までお読みいただいた皆様!
活動報告や感想などにコメントをくださいました皆様!
そして、
大元『あきぼく』の作者、間咲正樹さま!
『あきぼく』という、素晴らしい作品をありがとうございます!
肘川の使徒(!?)、サカキショーゴ様!
サカキさんのイラストを載せたいから、書いたエピローグだと言ってもいいでしょう。
たくさんの皆様、ありがとうございました!
これにて終了です!
………………え?
一応作者のきしかわが密かにイラスト描いてたけど、挿し込むタイミングが掴めずにいる?
コホン。
本編はこれにて終了です!!
お疲れ様でした!!!!
ガラガラガラガラガラガラ!(閉店)
???「仕方ない人ですね。話は一旦終わりにしますが、giftの用意をしておきましょう……」
※まだオマケがあるよ。(しつこい)




