高校生活11日~12日(最後の役目)①
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
終わりが近いので少しシリアスです。
「おはよう、明乃くん」
「おはようございます。梅先生」
登校して教室までの廊下を歩いていると梅先生に出会した。
「体は何ともないかね?」
「はい、順調です。最近は体力も増えた気もしますね」
「そうか、それは良いことだな」
ふふ……と笑う梅先生だったのだけど、ふと違和感のようなものを覚える。
「先生? 何かありましたか?」
「ん? いや、何もない。では教室でな……」
「は……はい……」
廊下の別れ道で颯爽と歩く先生だが何か変?
……………………………………
……………………
さて、学校生活も明日までか。
そう思うと本当に去りがたくなるわ……。
名残惜しさでいっぱいの私の心とは裏腹に、今日一日は平穏に無難に過ぎていく。
元気な茉央ちゃんと、好きなものを語る美穂ちゃん。
二人を優しく見ている、浅井くんと田島くん。
今日はあまり石を振りかぶらない微居くん。
変わらず穏やかな、絵井神様。
昼休み。
茉央ちゃんたちいつものメンバーでお弁当を食べ、昼休みいっぱい話し込んで午後の授業を受ける。
今日は美穂ちゃんと田島くんは部活動だというので、茉央ちゃんと浅井くんと校門まで行って別れた。
うん、本当に何もなかったなぁ。
きっと別れなんてあっという間に終わって、日常のものとして過ぎていくものなのかもしれない。
クラスのみんなも先生方も、きっと月曜日には私のことなんて忘れてしまうよね。
そんなことを考えて歩いていると、もう少しで自宅のマンションに着くという場所。ちょうど大きな交差点がある。
――――……ん?
信号待ちをする私の視線の先に、黒い靄が揺らめいていた。
…………………………
……………………
翌日。
今日で私の高校生活は終わりだ。
授業が終わってから、放課後は茉央ちゃんのおうちに行くことになっている。
皆がお別れパーティーを開いてくれるという、何ともありがたい予定。
本当に…………楽しかったなぁ。
私の実際の高校生活は、こんなに堂々と歩いていられるものじゃなかった。
自分の能力に怯え、言いたいことも言えずに勉強だけを淡々とこなした日々。
肘川北高での生活は、まるで自分の高校生活に穴の空いた部分を埋めてくれたような優しいもの。
――――しかし、それも終わり。
今日は『昨日視たもの』を確認しないといけないの。
昨日、私は自宅へ帰る前の交差点で『未来の事故』を視た。また『暗闇の眼』が発動したのだ。
こんな最後の日に限って……。
放課後、一度ここへ着替えに戻ってくるから、その時に“事故の詳細”を確認して回避させよう。
「落ち着くのよ。絶対失敗できないもの……」
少しだけ視えた絶望の未来。これはなんとしても私が変えないと……!
しっかり朝ごはんを食べて余裕を持って学校へ。
今日一日の成功を願って、絵井神様をこっそり拝んでおいた。微居くんは今日も何故か大人しいけど、きっと“教室では石を投げてはいけない”と分かってくれたのね。
「おはよー! 明乃ちゃん!」
「明乃ちゃんおはよう!」
「おはよう。茉央ちゃん、美穂ちゃん」
この会話を教室でするのも最後。
「今日はパーティーの料理期待しててね! ママがかなり気合い入っていたから!」
「明乃ちゃんは手ぶらで来てね!」
「うん。何もかもありがとう。私、二人のことは一生覚えてるからね」
「もう、今生の別れみたいに言わないの! また会うこともあるって!」
「うん……そうだね」
今生の別れ……か。でも、私がおばあちゃんに戻ったら、いつまで生きられるか分からないのよ?
本当に“今生の別れ”になる……いや、ダメダメ。今日は笑って終わろうって決めたんだから!
きっとまた会える。いつか街でスレ違う時もあるかもしれない。
例え、茉央ちゃんたちからは私が判らなくても……。
ついに授業が終わり、帰りのホームルームで梅先生がクラスのみんなに改めて私の“転校”を告げた。
「短い間でしたが、皆さんに良くしてもらえて楽しい二週間でした。ありがとうございます……」
出来る限りの感謝の念を込めてお辞儀をすると、クラスのみんなから温かい拍手が贈られる。
茉央ちゃんと美穂ちゃんは涙も流していた。
後でまた会うのだけど、その気持ちだけでも嬉しい。
「じゃあ、明乃ちゃん! 後でね!」
「うん! 後で!」
校門でみんなと一時のお別れ。
さて、一度帰って着替えてこないと…………
しかしその前に、私にはやらなければならないことがある。
…………昨日、この時間だった。『原因』と『被害者』を視てみないといけないわね。
『暗闇の眼』は未来の死が視える。
そして、その“死の瞬間前”まで戻って『現場』を視ることも。
「――――さぁ、回避してみせましょうか……」
交差点に向かって意識を集中させる。
昨日は時間が悪かったせいか、ほとんど視えなかった。この若い身体になってから、視てから事故が起きるまでが短いような気がする。(いつも浅井くんは直前っぽいのよね……)
“誰”か“何で死ぬ”のか――――
交差点から一瞬だけ全ての車と人々が消える。
キィィィ……と、遠くからタイヤが道路を滑る音が聞こえて、目の前に大きなトラックがふらつきながら突っ込んでくる映像が視えて…………
「…………え……?」
暴走するトラックの先には、横断歩道を歩く二人の少女たちがいた。
『『きゃああああああああっ!!』』
「…………あっっ!!」
少女たちがトラックとぶつかる瞬間に、私は思わず『能力』を解いてしまう。
「……………………うそ……何で…………?」
認めたくなくても、ソレをハッキリと認識した。
「そんな、あれは…………」
今日じゃないのは分かった。たぶん明日の光景。
事故に遭っていた少女たち。
笑顔が一瞬にして絶望に変わった。
「………………茉央ちゃん? 美穂ちゃん?」
ドキン……ドキン……
確かに、二人だった。何でうちの前の交差点を?
二人とも制服ではなく私服だった。
もしかしたら明日、最後の別れにうちを訪ねてこようとしていたの?
そうか……土曜日の夕方には、もういないって言っていたから。その前にうちに来ようとしているんだ。
…………ホッ……。
「良かった……これなら、明日は簡単に回避できるわ」
ここを横断する前に、私が出迎えれば良いことだ。
トラックがここへ着く前に二人を安全な場所へ。
「よし、そうと分かれば、今日は茉央ちゃんのうちへ………………」
ぐらり。
「ぅあ……」
急に足元が大きく揺れて、とてもじゃないけど立っていられなくなる。
めまい? ぐるぐる……す……る……。
力なく膝から地面に崩れ落ち、私の意識はそのまま遠退いていった。
ダメ……いかないと……約束したのに……。
………………………………
……………………
「――――う……」
フゥッと、体の感覚が闇から浮かび上がる。
「……明乃くん、大丈夫か?」
「梅……先生……?」
目の前には私の顔を覗き込む梅先生がいた。
どうやら、ここは自宅のマンションの部屋。
「あなたに付けていた小型心拍計に異常があったのでな……悪いが、学校からあとをつけてきた。そうしたら急に倒れてしまって……仲間を呼んで部屋まで運んだ」
「それは、ありがとうございます。でも、倒れてって……どれくらい……?」
「半日ほどだな。今は夜中の一時だな……」
そんな……長い時間も?
「大変……茉央ちゃんたちに何も…………」
「あ、無理に起き上がらない方がいい」
「っ……!? 痛た……」
体を少し起こした途端、全身がひきつるように痛んだ。
「足立の家には私から連絡をしておいた。さ、ゆっくり横になって……」
「あの……私……何が……?」
「……………………」
先生が真顔になって黙り込む。
「あの…………?」
「落ち着いて聞いてもらえるだろうか? 明乃さん」
「え?」
そう言うと、先生は私の前に鏡を置く
「あっ……!!」
「すまない……想定外のことだ」
梅先生が抱えた鏡には“七十歳のおばあちゃん”が映っていた。
なんでもない朝。平和だ。
絵井「よう微居。おはよう。朝から英語か~、かったるいなぁ」
微居「おぅ……そうだな……」
絵井「ん?どうしたんだよ?元気ないな……」
微居「別に」
絵井「???(何かおかしい……?)」
茉央「おはよー!ともく~ん♡」
智哉「おはよう、まーちゃん」
茉央「ともくん、好き~っっっ♡♡♡」
智哉「ま、まーちゃん、ここ教室っ!」
微居「………………………………………………」
絵井「び、微居……?」
微居「…………弥生さん」
絵井「え?」
微居「弥生さんが、学校……今日までだから……」
もらったホルスターのベルトを握る。
微居「彼女がいる間は、この教室に血を流すわけにはいかない……!!」
絵井「(何で教室で血が流れるんだ!?)…………そうか、お前が決めたなら頑張れ」
微居「………………すまん」
今日も平和だ。平和なんだよ、そうなんだよっ!!
((((( :゜皿゜)))))ギリギリギリギリ……
週明け見ていろよ…………!!!!
※ひたすら耐えた微居くんの一日。




