高校生活6日了(長い一日の終わり)
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回はおとなしく。お疲れ様の回。
「ふぃ~、疲れたぁ~……」
「本当に……まさか肝試しがこんなことになるなんて……」
「なんか……ごめんね……」
「明乃ちゃんは悪くないよ!」
「そ~そ~、ちょっとびっくりしたくらいだよ」
「いやいや、疲れた疲れた……」
「もう! 峯岸先生のせいじゃないですか~!」
「まぁまぁ、せっかくの温泉だし……」
「そうだね……」
「「「「ふぃぃぃぃ~~~……」」」」
旅館に戻って、三度目の温泉に浸かる。
あ~~、お湯が沁みる~~~。
お布団敷いてもらっていたから、あとはゆっくり眠るだけね。
でも、若い皆はまだ眠くないかな?
「あとはお布団で『女子トーク』ね!」
やっぱり……みんな元気だなぁ……。
お風呂から出て、みんなで珈琲牛乳を飲んだあと、男女に別れて部屋に入る。
「おふとーんっ!! 気持ちいい!!」
「ふわぁぁぁ……私、もう眠い……」
「美穂、寝るなぁっ!! 夜はこれからだよ!!」
「茉央ちゃんは元気だねぇ」
「ピロートーク! みんな、ピロートークだよ!!」
茉央ちゃんは布団の上に正座して瞳を輝かせていた。
ふふ、これは寝るつもりないわね。
「ふあ……じゃあ、どんな話?」
「こういう時こそ『恋バナ』じゃない。定番よ?」
「う~ん、恋バナねぇ……」
「色々あるでしょ! 初恋とか、無駄恋とか!」
「じゃあ、ここは大人の梅先生の経験談を…………」
「ぐぉおおおお~……」
いつの間にか、先生は布団に入って爆睡していた。
部屋に帰ってきてやけに静かだと思ったら……先生、疲れていたみたい。
「峯岸先生はいいわ。明乃ちゃん! 明乃ちゃんの何かイイお話はないかしら?」
「えぇ~……私の話なんて、そんなに多くないし……」
そういえば、私は誠さん以外の人なんていない。何の起伏もないし……私の話じゃつまらないわよね……?
「明乃ちゃん、前に『誠さん』っていう人いなかった? 彼氏さんだよね?」
「え、うん。うちの主人で…………」
「「えっっっ!?」」
あ、しまった…………
「主人って……明乃ちゃん、もう結婚してるの!?」
「学生結婚!? その話詳しく!!」
「え~と…………」
私の結婚は大昔だもの。…………でも、もしかしたら、茉央ちゃんたちには新鮮に聞こえるかな?
たぶん、この話で正体がバレたりはしない。
それなら、変に誤魔化さずに話してみよう。
「誠さんは近所に住むお医者さまの息子でね…………」
私の故郷は田舎だから結婚も親同士が決めて、私が四歳になる頃には、将来は誠さんのお嫁さんになることが決まっていた。
幼稚舎から中学まで何の問題もなく同じ所へ行き、中学卒業してから正式に結婚することになった。
「……じゃあ、『弥生』って名字は?」
「誠さんの名字よ。私が十六になってすぐに籍を入れたの」
「そっかぁ、明乃ちゃんは人妻だったんだ。落ち着いているもんね。じゃあ、もう一緒に住んでいるの?」
「ううん、今は住んでないわ」
確かに、当時は籍を入れたけど、誠さんはそのあと医大に進むことになったし、私の親も私がもっと勉強することを望んだ。
「一緒に住むのは二十歳になった…………なってからか、彼が医大を卒業してからになるの」
「ふ~ん……なんか昔の話みたいだけど良いなぁ」
「はぁ~素敵ぃ……私もともくんと結婚したい……」
二人とも「はぁああ~……」と、うっとりしたため息をついている。可愛いわ、二人とも。
「それで? 誠さんってどんな人なの?」
「うん、そうねぇ……」
誠さんはとても優しくて素敵な男性だった。
お医者さまを目指して勉強し、学校でも一番の成績だったけどそれを鼻に掛けない。私もよく勉強を教わって、その時にチラチラと横顔を盗み見てドキドキしていた。
それに、誠さんは私の『暗闇の眼』を怖がるどころか、大変だろうと気遣ってくれていた。私にはもったいないくらいのできた旦那さま。
「「………………」」
二人ともじっとこちらを見ながら黙って聞いてくれた。
懐かしい。あの時の、顔が近付く時の息遣いが恋しくなる。もう遥か昔のことなのに、私は今でもあの人が大好きだ。
「……誠さん、会いたいです……とても」
ふっ……と、思わず呟いてしまった。
慌てて二人を見ると、
「ぐぅ……すぅ……」
「すぅ……」
眠っている。やっぱり疲れてたのね。
「フフッ……惜しいな。『誠さん』がご存命なら、明乃くんと一緒に実験に参加してもらいたかったのだが……」
「先生……?」
梅先生がこちらを向いて笑っていた。
「起きていらしたのですか?」
「まぁ、な。若者の話に入るのは無粋だと思ってな」
「私…………」
若者…………見た目だけなら、そうだけど。
「明乃くん、実験はあと一週間しかない。次の土曜日の夜には、君は元の老人に戻る」
「…………そう、ですね」
「……で? それをどう思う?」
「どう……って、私は戻るだけですよね……?」
「そうか」
先生はじっと私の目を見たあと、軽く頷いて布団の中でごろりと横を向いた。
「せいぜい、今を楽しんでくれ。おやすみ」
「はい、おやすみなさい……」
何故か、先生が寂しそうに見えた。
どうしたのかしら……?
私も横になったが、なかなか眠れない。
「ぐぅ……すぅ……」
「すぅ……」
「………………」
私の隣で、茉央ちゃんと美穂ちゃんがぐっすり眠っている。
その二人の寝息をしばらく聞いて、私は今の梅先生とのやり取りを反芻していた。
肝試し終了後。帰り。
峯岸「フム、ダルダルマイスター。今回はなかなかいい働きだったな! 私から何か礼をせねばならぬが……何がいい?」
えっ!?お礼!? Σ(*゜Д゜*)
それはもちろん、どうて………………『マイ・グラデュエーション』ですっっっっっ!!!!
しかし、ここでがっつくのは、イイ男としてよくないな!
浅井・兄「いやいや先輩、礼には及びませんよ!(キリッ!)…………あ、でも、どうしてもなら…………」
峯岸「おぉ、そうか!お前は無欲だな! よし、さっきコンビニで買った、このプリンでもやろう! では、明日の帰りにまた車を頼むぞ!! おやすみー!!」
走り去る峯岸。
浅井・兄「なっ……ちょっ……先輩!?」
俺が欲しいプリンはこれじゃねぇっっっ!!!!
うわぁああああっ!!。・゜・(ノД`)・゜・。
※欲しいものはハッキリ伝えよう!




