高校生活6日(楽しい肝試し?)⑤
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回で肝試しはやっと終わりです。
ラストはちょっと長め。
「「「神様、お願いに参りました!!」」」
「よし!! そこで全員で決めポーズだ!!!!」
ビシィッ!!!!
『勝負服』の裾が揺れる。
茉央ちゃんを中心に横に二列くらいになって、浅井くんのお兄さんに教えてもらった格好で静止した。
「七人で、GO!ファイト!!【ユリ・キュアシスターズ】!!」
…………うん……何かしら、これは……?
服はフリル中心の可愛いドレス。
女子七人(女体化三人含む)は白や黒を差し色に、それぞれ色が違う。
「梅先生……何故この姿に?」
「フッ……目の前を見ろ。私は昼間に来ているからな、この祠が何を祭っているか分かっていた」
小さな神社の周りには、私たちの格好と同じ女の子たちのパネルが飾られ、絵馬や結ばれたおみくじにも、かわいい絵が描いてあった。
「兄貴……まさか、これは……」
「この温泉町のご当地アイドルアニメ【ユリ・キュアシスターズ】だ。先輩に言われて衣装を全て揃えてきた!」
「うそーん……」
浅井くん……ともちゃんがぐったりとしている。
「わぁ、『痛神社』ね……」
「アニメの聖地ってやつだな……」
「日曜日にテレビでやっているわね。未央が観てたわ」
こういうアニメは、私の娘も小さな頃に観ていたわね。
毎週観ていると、けっこう面白いのよ。
ちゃんと配役も決まっているらしく、
茉央ちゃん→ピンク
(ユリ・カサブランカ)
美穂ちゃん→黄色
(ユリ・ジョーゼット)
浅井くん→薄紫色
(ユリ・ロリポップ)
田島くん→水色
(ユリ・スターカザール)
梅先生→黒色
(ユリ・ブラックジャック)
浅井くん兄→橙色
(ユリ・長太郎)
え~と、私は薄い緑で、ユリ・ソルボンヌ?……とか言ってたわ。
全部、ユリの品種ね。
我が家のお隣の葉月さんのお宅で、育てていた百合の花の種類を思い出すわ。キレイよね、百合の花。
「諸君、いくぞ! 決めゼリフだ!!」
「「「今日からあなたもシスターよ!!」」」
………………………………。
ごめんなさい、梅先生。
やっぱりこれ分かりません。これも世代の違いなのかしら?
「でも、私はちょっと楽しくなってきた! ともちゃんが可愛いし!」
「私……ユリキュアより『武道具乱舞』、略して『ぶぐらぶ』の方が好きなのよね」
さすがに若い子たちは余裕があるわね。
茉央ちゃんも美穂ちゃんも、この格好にもすぐに慣れて、どことなくウキウキしている感じがする。
「僕、帰りたい……」
「いや……俺もちょっとこれは……」
女性になった二人は、スカートを押さえながらもじもじしているけど、その仕草がかえって初々しく見えてしまう。
何かしら……私も楽しい気分になるわ。
「明乃ちゃん、ちょっと! こっちきて写真撮ろう!」
「う、うん!」
「このポーズどう? やっぱりこっち?」
「ふふ、ここは楽しんだもの勝ちだな。お前たちもこっちきてもう一度、決めポーズをとるぞ!」
梅先生の呼び掛けに、浅井くんの元お兄さんは気だるげにしていた。邪魔だったのか、前髪がゴムでちょんまげのように結ばれている。
「え~、勘弁してくださいよ。俺は女の子になるんじゃなくて、女の子と付き合いたいで…………」
「うん、君いいよ! ユリ・長太郎、いいね! ダルい感じでこっちに目線ちょうだい!!」
「ふぇっ!?」
パシャパシャ!!
急に地面から強い光が発せられた。
いつの間にか私たちを下から覗くように、一人の太った男性がカメラを手に地面に転がっている。今の光はフラッシュのようだ。
「いいよ、いいよ!! ナイスだね!! ユリキュア!! みんなでポーズ決めてみようか!?」
パシャパシャパシャパシャ!!
「な、なにっ!? あの人!?」
「カメコだわ!! イベントで現れるコスプレカメラマンよ!!」
まあ……まるでバズーカのような立派なカメラね。
きっとプロのカメラマンなのでしょう。
すごいわ………………あれ?
「君たち、並んで並んで! 集合撮るよ!」
「もう! 何言って……」
「分かりました。並ぼう、みんな!」
「あ、明乃ちゃん?」
みんなを祠の前まで引っ張り、そこでポーズをとってもらう。
「明乃ちゃん、何かあったの?」
「いえ……何となく、ここは写真撮影に応じた方がいいかな……って。だって、あの人……何でここにいるのかなって……」
「そう、いえば……夜も遅いのに……」
全員、口に出しては言わないけど、この『カメコ』さんに対して薄ら怖い感情を抱いているみたい。
とりあえず、大人しく撮影会に応じた。
パシャパシャパシャパシャ!!
「いいね! カサブランカ、さすが主役!!」
「あ……ありがとー!!」
パシャパシャパシャパシャ!!
「ジョーゼットとソルボンヌ、ちょっとそこでハグして!!」
「は……はーい♡」
「どうも~……」
パシャパシャパシャパシャ!!
「スターカザール! ブラックジャック! カッコいいね、クールな表情して!!」
「フッ! いいだろう!!」
「えっ!? 笑わなくていいのか!?」
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!
「ハァハァ……い、いいね、可愛いね……ロリポップ……ハァハァ……ハァ……ちょっとスカートの裾持ってみようか……ハァハァ……」
「……にゃあああ~~~っ!!(僕だけ何か扱い違うぞぉ!!)」
浅井くんの心の声が聞こえてくる気がした。
「ちなみに大きいお友達には、ロリポップが一番人気なんだよね」
「そうなんだ……?」
「解る……ともちゃんが可愛いからギルティなんだよ! 解る、解るわぁ~!!」
茉央ちゃんがカメコさんに親指を立てると、カメコさんも良い笑顔で応えている。浅井くん( ロリポップ)を挟んで、二人が通じ合ったようだ。
――――数十分後。
「いやぁ、あなた方クオリティ高いですねぇ。おかげで良い写真が沢山撮れましたよ! はっはっはっ!!」
カメコさんは汗をふきふき、とても満足そうに笑っていた。
「ここはアニメが有名なんですか?」
「えぇ、もともと地味で小さな神社だったんですがね。若い子も沢山来てくれて、賑やかになりました。ただ、色々問題もありましてね……」
ふぅ……と息を吐きながら、カメコさんはお賽銭の横にあった籠を差し出してきた。
「これ、あなた方の忘れものですね。ダメですよ、ここで肝試しなんかしちゃ」
「す、すみません……」
受け取ると、籠には先生が置いた『賞品』が入っていた。
「じゃあ、楽しい時間をありがとう。気をつけて帰ってくださいね」
カメコさんがカメラを構えた。
――――――ピカッ
「「うわっ!!」」
「「きゃあ!?」」
とても強いフラッシュをまともに浴びて、みんな思わず目を瞑る。
…………………………
……………………………………え?
リーンリーンと虫の声が響く。
「あれ? カメコさんは?」
「…………消えた?」
みんなしばらく茫然と立ち尽くした。
「――――はっ!! そうだ、先生! 鳥居の所の映像を……!!」
「あぁ、これだ!」
予め入り口の鳥居に設置しておいたカメラのモニターをチェックしてみると…………
「何も映らない……です!」
「……と、いうことは」
「私たち帰れるっ!!」
わぁぁぁぁっ!!
ちょっとした歓声があがる。そして、そこでみんな思うことはというと……
「さっきのカメコさんは…………」
「うん、ここに住んでいらっしゃる方だね」
…………たぶん。でも、あんな神様いるのかしら?
「やっぱり肝試ししたから怒ったのかな?」
「先生…………景品、何を置いていたんですか?」
「うん? 普通のストラップだ。その辺の土産屋の」
「金一封相当とか言ってなかったっけ?」
籠の中から小さな包みを取って開ける。
「これ…………」
「『ぶぐらぶ』だ!! しかもレアキャラ!!」
カッコいい男の子のキャラクター。
どうやら女子に人気のアニメらしい。
「先輩、この神社にこれはないわ……」
「商業的に天敵じゃないか……」
「つまり今回は全部、変公のせい……」
男子( 女体化済み)はジト目で梅先生を睨んでいる。
「よーし!! 旅館に帰るぞ、諸君!!」
「変公!! 何とか言え~~~っ!!」
「先輩~~~っ!!」
とにかく、無事に? 私たちは出ることになったので、神社で拝んでから旅館に帰った。
うっかり、あの衣装のまま温泉町に入ってしまったうえ、浅井くんたちが男の子に戻ってしまったので、通行人から変な目で見られて、お巡りさんからも注意されてしまった。
……これも、良い思い出ね。
こうして、私たちのちょっと長かった肝試しは、みんな無事に終わらせることができたのでした。
一週間前。温泉町。
一郎「ヒャッハー!何処から観光にヒャれこもうか!?」
二郎「兄ちゃん、あれ!! ヒャッハーな場所が!!」
公彦「ヒャッハー!!【ユリ・キュアシスターズ】の神社じゃねぇか!?ヒャッハー!!」
二郎「まて、ここは聖地だヒャハ!!」
一郎「ヒャハ!ちょっと待ってろ!このヒャッハーな衣装を…………」
十数分後。
百派山兄弟「「「ヒャッハー!!!!」」」
カメコ神「敵!!敵(ショッ○ー的なザコ)のコスプレだ!!完成度たけーな!オイ!!」
百派山兄弟「「「ヒャハヒャハヒャハ!!!!」」」
※百派山兄弟、カメコ神に気に入られる。
…………オチ弱くてすまん。




