高校生活6日(お風呂と卓球、ただそれだけ)
「良いお湯だったね~」
「そうだねぇ……」
「フルーツ牛乳が美味しいね……」
お風呂あがり。
ホールの近くの休憩室で、瓶の牛乳を飲みながら三人でまったりとしている。
瓶の牛乳ってやっぱり美味しいなぁ。
懐かしいし、パック牛乳より口当たりが良い。
「そういえば、梅先生は?」
「あ、あそこ」
「あ゛あ゛あ゛~……あ゛~……」
大きなマッサージチェアでくつろいでいた。
いいなぁ、私も後でやろうかな?
「ゆうくんと浅井くんは?」
「二人はあっちね」
見れば、ホールの一角がゲームセンターになっていて、浅井くんと田島くんは何かの対戦ゲーム? をして楽しんでいた。
ああゆうの、近所のスーパーにあったわね。娘がじゃんけんのゲームに夢中になっていたのを思い出すわ。
「よ゛~し゛、そ゛ろ゛そ゛ろ゛始゛め゛る゛ぞ~」
梅先生、声がぶれて聞き取りにくいです。
「……ふぅ、体がだいぶほぐれたな。よし、そろそろ始めるとするか!」
「何をですか?」
「フン、予定を教えただろ? ほら、これだ!」
巻物の予定表、次は…………『温泉卓球』ね。
ゲームセンターの向こう、ちょっと広い場所に卓球台が二つ置いてあった。
「では、対戦はクジだな。これを引け」
爪楊枝が六本、それを一斉に取る。楊枝の先に色がついていて、同じ色の人が対戦ね。
私は…………赤だ。
「ふふふ、明乃ちゃん。この私と当たるなんて運の尽きね!」
「お手柔らかにねー」
茉央ちゃんとだわ。
この結果は……火を見るより明らか。
これはただただ、楽しむのに徹するのが良さそう。茉央ちゃん運動神経良いもの。
「ほぅ。私と智哉。篠崎と田島か……。ちなみに、優勝者はこの後の観光とランチで、みんなに奢ってもらう権利を得ることにしよう!」
「ヒャッフーッ!! 温泉地グルメ!!」
「よし! やるわよ!」
ピピ~! 100円ショップのホイッスルの音が響く。
卓球台が二台なので、二試合ずつ行った。
「フッ! いくぞ、智哉!!」
「ただじゃ負けないからな、変公!!」
おぉ~、浅井くんも負けてないけど、梅先生がものすごい身のこなし…………デスクワークだけじゃないのね。
「じゃあ美穂、いくぞ~! それ~!」
「負けないよ~! えいっ!」
「はははっ。とりゃっ!」
「きゃっ! やったな~!」
素直に必死な浅井くんの隣では、美穂ちゃんと田島くんが実に楽しそうにピンポン中。
こちらは背景にお花畑が見えるくらい、ほのぼのとしていて微笑ましい。
ピピ、ピピピ~ッ!!
「峯岸先生の勝利~!!」
「フッハハハ!! 見たか、智哉!!」
「くっそ……もうちょっとだったのに……」
『梅先生 対 浅井くん』
こちらは、梅先生の勝利で終わる。
「ゆうく~ん、それ~!」(お花、点描)
「やったな~。はははっ」(白鳩、キラキラ)
『美穂ちゃん 対 田島くん』
こちらは、まったく勝負つかず。
さっきから点が交互に入り、しかもラリーが一度に百回くらい続くので終わる気配がない。
「まぁ、あいつらは忖度が入るだろうし、まだ勝負は付かんな。ほら、次は足立と明乃くんだろう、やってしまえ」
「明乃ちゃん! ともくんの仇を討つため、私はこんなところでは負けないよ!!」
「私もがんばります!」
…………………………。
結果。
「弥生さん、ごめんね。まーちゃんは何事も全力だから……」
「ううん、絶対負けるだろうなぁとは思っていたから……」
「足立、貴様の力はこんなものかぁぁぁっ!! フッハハハ!!」
「ともくんの仇ぃぃぃっ!!!!」
目の前では、梅先生と茉央ちゃんの血で血を洗う死闘(※あくまでイメージです。)が繰り広げられている。
つまり、全力の茉央ちゃんに私はあっさり負けたのです。
「うぉりゃあああああっ!!!!」
「どぉりゃあああああっ!!!!」
ビシュッ!! ドシュッ!! スバンッ!!
ピンポン玉が飛び交う度に、私と浅井くんの髪の毛が風でゆれている。
あのスマッシュを打ち返すのは無理だわ……茉央ちゃん、世界を狙えるんじゃないかしら?
――――――数十分後。
「明乃ちゃん、生チョコ食べる? ゆうくんと浅井くんも」
「食べる。ありがとう」
「お、ありがとう」
「ありがとう。美味しい」
「うぉりゃあああああっ!!!!」
「どぉりゃあああああっ!!!!」
ビシュッ!! ドシュッ!! スバンッ!!
ラリーが続く続く…………目が回りそうね……。
試合は一進一退、ほとんど点も変わらず互角の攻防が続いている。
さすがに、美穂ちゃんと田島くんも勝負 (?)を終えて四人で座って、試合の行く末を見守っていた。とりあえず美穂ちゃんの勝ちみたいだけど、次の試合は辞退を申し出てきた。
なので、これが梅先生と茉央ちゃんの事実上の決勝。
「二人とも、そろそろお昼になるんだけど……」
「もう一度温泉入るなら、もうやめないとお昼たべられませんよ?」
「先生、もう引き分けにしましょう」
「まーちゃん、温泉町で饅頭食べに行こう」
「ぬぅ……はぁはぁ……仕方なし。止めるか、足立……」
「はぁはぁ……引き分けね。でも、この決着は別の日に……」
二人は渋々、ラケットを置いてその場にへたり込んだ。
満身創痍だわ。現代の若者が無気力なんて、誰が言ったのかしら? ものすごく全力だったわね。素晴らしいわ。
「もう一度、ひとっ風呂浴びていくか!」
「「「はーい!」」」
この後、再び温泉に浸かり、みんなで温泉町を堪能した。
「良いお湯だったね~」
「そうだねぇ……」
「コーヒー牛乳が美味しいね……」
「みんな! 出掛けるよー!」
「「「はーい!」」」
その後、みんなで浴衣を着て町のお店を回った。
ふふ、温泉地ってみんなで歩くだけで楽しい。
こういう所は昔とそんなに変わらない……誠さんと行った新婚旅行を思い出して、ほんのり懐かしい気持ちになった。
※おまけ 現代の温泉?
「…………昔はこんなの無かったわね」
「私も初めて見たわ……」
「これも美味しいよ! 美穂も明乃ちゃんも食べてみなって!」
「まーちゃん……これ、そんなに食べられるもの……?」
「うわぁ……俺はもういいかも……口の中、甘いやらモサモサやらで……」
「おぉ、種類が多いな! これだけで昼飯になりそうだ」
【温泉まんじゅう&温泉玉子! 食べ放題!!】
最近の温泉地は色々あるのね……。
黒や白の他にも、ピンクや黄色もある。
若い人の好きな、スイーツバイキングってこんな感じかしら?
ここで残りの一生分の饅頭を食べることになりそうだわ。
茉央ちゃんは満足そうにしているので、その姿はちょっと和んでしまう。
サービスの緑茶を濃いめに入れている時、落語の『まんじゅうこわい』という噺が頭の中を反芻した。
後日。温泉町にて。
『まんじゅう食べ放題!最高記録は500個!』
店主「まさかここまでとは……売上が伸びないから、自棄になってやってみたんだが……」
店主・妻「若い人って柔軟よねぇ……」
この温泉町では『食べ放題のまんじゅう』が人気です。
椎丈「お! 咲間先生、ここ最近流行りのまんじゅう食べ放題ですよ!」
咲間「そ、そうですね……(もじもじ)」




