高校生活6日(お約束?)
※前回、浅井くんと田島くんの一人称が、ごちゃ混ぜになっておりました。(浅井くんは“僕”だね!)
男子の扱いを雑にしていた筆者は深く反省し、御詫びと訂正をした上で、今後はこのような事態がないよう、男子の出番を若干増やしていきたいと思います。申し訳ございません。
(ちょっと浅井くんのツッコミ多め?)
私たちが立っているのは『老舗』に相応しいくらいの立派な旅館だった。
「おぉ~。えっと……『坂城旅館』かぁ。いい雰囲気だねぇ♪」
「梅先生、本当にこんな良い旅館……貸し切りなのですか?」
「うむ、金とコネは有るところには、山のように有るものだ。そういう輩が経済を回せばいいのだ」
メイドさんたちを何人呼ぶつもりだったのかしら?
咲間先生(と、椎丈先生、医院長先生)……たぶん、奥様は気付くと思いますよ? 女ってすぐに分かりますからね?
そんなことは置いておいて……明日までの小さな修学旅行。私は楽しみで仕方ない。
「ようこそ、いらっしゃいました。お客様」
旅館の入り口で、中年の男性がニコニコと立っていた。ここの経営者の方みたいね。
旅館というより、ペンションを経営していそうなにこやかな“ダンディー”に見えるわ。誠さんと雰囲気が似てて素敵。
「私はこの旅館の主の『坂城』といいます。さぁさぁ、どうぞ。お荷物はお部屋に運んでおきましたので。そちらまでご案内いたしますね」
「ん? 荷物? そういえば、僕らは変公に夜中に拉致られて、荷物なんて…………」
「フッ、安心しろ智哉。全員、親御さんたちに了承を得て、前日に用意をしていただいてある!」
「計画的!?」
「計画ならまだある。これを見るがいい!!」
ババッ! と掲げられた掛軸のような巻物。
『ミニ修学旅行。一日目。
一、旅館到着。一番風呂。
二、全員強制参加。温泉卓球。
三、汗を流す。風呂。
四、昼食も兼ねて温泉町観光。
五、夕食後、全員強制参加。肝試し大会。
六、就寝前、風呂。
七、就寝。ピロートーク有。』
「ピロートークって…………」
「主に恋愛相談だ。受け付けるが、解決はしないと思え!」
「しないのかい!?」
浅井くんの短いツッコミが、小気味良く入ってくる。彼は疑問に思うと、素直に口に出してくれるので分かりやすいわね。
それにしても、たった一泊二日の予定なのに準備を怠らないなんて……梅先生、用意がいいのですね。伊達に担任教師ではありませんね。
「……というか、お風呂が多いね」
「峯岸先生! これは混浴ですか!? ともくんと入れますか!?」
「残念だが男女は別だ。さすがにこれ以上は色々問題が出てくる。R18となる行動は控えてもらおう……」
「さ、皆さま。どうぞどうぞ、こちらに……」
完全に忘れられていたであろう坂城さんが、話の切れ目でさりげなくみんなを誘導、部屋へ案内してくれる。そこはさすが、接客のプロだと思ったわ。
…………………………
………………
「ヒャッホォォォォッ!! 貸し切りだー!!」
「わぁ、お風呂広いねぇ!」
「露天風呂、素敵ねぇ……」
「フム、なかなか良いな」
女風呂は露天の天然温泉。ちゃんと囲いもしてあり、山々の遥か向こうには海も見える。
体をキレイに洗ってから、乳白色のお湯にゆっくりと浸かった。肌に当たるお湯が滑らかで気持ちいい……。
「はぁ……午前中から温泉なんて贅沢……」
「気持ちいいねぇ……ちょっと熱めなのが堪らないわぁ……」
「風呂から上がったら珈琲牛乳だな……」
「あー、私はフルーツ牛乳がいい……」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふぅ。
やっぱり温泉はいいな。と、三分ぐらい漬かっていた時だった。
「…………隙有り!!」
「きゃあっ!? えっ……あははっ!! やめ、くすぐったい!! あはははははははっ!!」
「ほっほぉっ!! これはこれは……」
急に茉央ちゃんが私の背後から、抱きすくめるように手を前に回してくすぐってきたのよ。
「明乃ちゃん、なかなか良いモノをお持ちで。スレンダーなのに、ここはけっこう大人…………」
「あはははははははっ!!」
一通りくすぐられてやっと解放されると……すぐさま、美穂ちゃんに標的は変わる。
「油断大敵よ、美穂!! とりゃっ!!」
「やあっ……あははは!! もう!! 茉央ちゃん!!」
「よし、ニャッポリート!! 確認終了!! 大丈夫よ、美穂もちゃんと育ってるから!」
「もぅ…………」
美穂ちゃんは真っ赤になって、鼻の下までお湯に漬かっていく。何か可愛いわ。
「足立、温泉に入ってのお約束だな?」
「やっぱり、定期検診は必要ですから!」
お約束? 定期検診……なんか体に不調でもあったかしら?
「さて……では、こちらもお約束の確認作業といくか……」
「ん……?」
梅先生の方を見ると、いつの間にか目の前にビート板に乗った、タブレットが用意されている。
その画面に映っていたのは…………
「男湯だ」
「えっ!?」
あら、確かに浅井くんと田島くんがいる。
でも先生、これは犯罪では……?
ちらりと梅先生を見ると、唇に指を立ててウィンクをしている。
「フッ、安心しろ明乃くん。これは女湯の画像ではないし、録画なしのリアルタイムの映像だ。女の私が男湯には行けんから、心配して取り付けてきた『見守りカメラ』であり、生徒の行動を把握するのは教師の務めであろう」
「なるほど……」
今の教育現場は大変なのね……。
「因みに、男湯の洗い場は今朝までに、トゥルットゥルに衛生的に磨き上げてもらっておいた」
トゥルットゥル……つまりツルツルとしている……?
~~映像~~
『よう、そろそろ入ろうぜ!』
『あぁ……っ、て……へぼぉわぁぁぁっ!!』
『智哉!!』
がしぃっ!!
『大丈夫か!? ……うわっ!!』
『勇斗!? うっ!!』
ドサッ!!
~~~~~
二人とも滑って浅井くんが下敷きになっている。
大丈夫かしら……?
「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
「美穂ちゃん!? どうしたの!?」
叫んだ美穂ちゃんの顔の下、乳白色のお湯がピンクに染まっている。
「た、大変! 美穂ちゃん、のぼせたの!?」
「はぁ~はぁ~……大丈夫よ、明乃ちゃん。私はすこぶる元気よ……」
鼻血を流しながら、美穂ちゃんは心配をかけまいと気丈に振る舞ってくれる。
優しいなぁ、美穂ちゃんは。
「フフフ……篠崎には、この刺激はまだ早いか?」
「大丈夫です! いけます、コーチ!!」
美穂ちゃんの鼻血はまだ止まっていない。
「み、美穂ちゃん……鼻血が……」
「明乃ちゃん、大丈夫よ。これは美穂が決めたことなの……」
神妙な面持ちの茉央ちゃんが私を制する。
男湯の観察後、ピンクのお湯の部分はできる限りすくい、あとはぼかしておきました。
ごめんなさい。
後日。坂城旅館の男湯。
椎丈「いやいや、いい温泉ですね!」
咲間「さて、お湯にでも……(ツルンッ!)うわっ!ニャッポリートォォォ!!!!」
椎丈「んほぉおおおおっ!!咲間先生ぇ!!(がしぃっ!!)」
咲間「し……椎丈先生っ……(トゥンク……)」
※これはフィクションです。




