高校生活0日
これは『明らかに両想いな勇斗と篠崎さんをくっつけるために僕と足立さんがいろいろ画策する話』https://ncode.syosetu.com/n7783fl/
の、二次創作です。
拙作『暗闇の眼』シリーズのコラボにもなっております。https://ncode.syosetu.com/n1318gd/
その日、ある病院の前に不穏な影を纏った人物が降り立った。
「フッ……やっと着いたか。早速、我がモルモットに相応しい患者を探さねばならぬな!!」
背が高くスタイルも良い、かなりの美人である。
病院の前で白衣を羽織っているので医者のように見えた。
しかし如何せん、白衣の下に着ている服が女コマンドーのごとく全身迷彩柄。上はヘソ出しのビキニ、下はゴツいパンツにゴツいブーツ。腰には通称“パイナップル”のレプリカを幾つもベルトにぶら下げていた。
ここは戦場ではなく平和な日本の病院なので、いわゆるコスプレというものだろうか。
女性は顔に笑みを浮かべたまま、静かに自動ドアをくぐった所で、警備員に見事につかまった。
警備員がまともなら、これは当たり前の判断だろう。
「ぬっ!? 何をする!! 私はここの医院長に会いにきたのだぞ!?」
「あんた見るからに怪しいだろ! この令和の時代に、我々のセキュリティ舐めてんじゃないぞ!!」
「フッハハハハハ!! いいだろう、我が行く先を阻むのならば容赦はせぬわっ!!」
この後、騒ぎが医院長の耳に入るまでに小一時間、警備員と女性のアクション映画ばりの攻防が続くが、本編とは関係ないので割愛させていただこう。
………………コホン。
とりあえず、ひとりの女性が病院を訪れた。
その後、女性は“彼女”と出逢う。
それが“わたし”が知る限りの始まりである。
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なにやら病院の下の入り口の方が騒がしい。
何かあったのかしら?
ここの病室は十階にある。関係ないとは思うけれど、暇をもて余し変化に敏感な私の耳はそれをしっかりとらえていた。
「ふぅ……今日は天気が良いわねぇ……」
しかし、目の前で起きなければ、その『何か』は私とは無縁のもの。退屈なため息混じりの独り言が出てしまった。
こんな日でも、のんびりするしかないわね。
若い頃は天気の良い日は外出も考えてしまっていたけど…………歳を取ると何もかもが億劫になってしまう。
私は今年で70歳になったお婆さんだ。
胃がんを患い、その手術は上手くいったのに体調が悪化して、そこから二年も入院している。
少し前からだいぶ良くはなってきたので、見通しは明るいと思っているけど……
「………………ふぅ」
空の青さに再びため息が出た。
病室の窓から見える景色はいつも同じ。
その中で唯一、空の様子だけは一日一刻と変わっていく。
「おはようございます……弥生さん、お熱計りますね」
「はい。おはようございます。今日もお願いしますね」
いつもの検温の時間ピッタリに若い看護師さんが部屋へ入ってきた。
「お庭を見ていらしたのですか?」
「えぇ、良い季節にもなったし……先生のお許しが出たら、そこに植えられているバラの花を、もっと近くで見たいと思っていたの」
私はここに入院して、もう丸二年になる。
看護師さんたちともすっかり顔なじみになり、時々なんでもないような世話ばなしをするのが楽しみ。
「今日はお孫さん、お見舞いにいらっしゃるんですか?」
「いいえ。残念ながらテストがあるのですって。そのあとも『テスト後の強化課外授業』なんていうのがあって、しばらくは来られそうにないわね」
私の孫は今年、勉強に力を入れている進学校に入学した。
将来は医者を目指しているのだから、テストの前後ほど勉強に専念しなければならないと思う。
本当はテストだろうがなんだろうが、私に会いに来ると言っていたのだけど、私の方から丁寧にお断りしておいた。
だって『少年老いやすく、学成りがたし』って言うじゃない?
私にばかり構っていたんじゃ、せっかくの楽しい高校生活が台無しよ。勉強とおばあちゃんばかりにしちゃ駄目だわ。
「孫も高校生なんだから……おばあちゃんに掛ける時間を、恋や楽しみに使ってもらわなきゃ」
若い時に楽しめるのなら、その時間は何物にも替えられない。
年を取ってからじゃ絶対に取り戻せない時間。
私には過ごせなかった明るい時代。
そういえば誠一ったら、この間は女の子を二人も連れてきたわねぇ。私としては黒髪の子がいいけど、茶髪の子も明るくて可愛いのよ。
『誠』さんと一緒で、孫はモテるみたい。
久々に死んだ主人の顔が浮かんだ。
もう悲しみはないけれど、たまに思い出しては逢いたくなるのは仕方ないと思う。
「誠さん、きっと貴方は天国でもモテモテよね。うふふふ……」
私もまだ、あの人のことが大好きなのだから。
そんなことを考えながら午前が過ぎていく。
きっと今日も特に何もなく過ごすはずだ。
今日のお昼のお魚……美味しかったけど、なんていう魚だったかしら? 後で散歩がてら、廊下の献立表でも見てこようかな。
暑すぎる夏も終わったせいか、今日の私の体調は良く頭の中の想像も明るい。
「もしかしたら、年明けには退院もあるかもしれないわね……」
そんなことを呟いていた時、
「そこのシルバーレディ!! ちょっとよろしいかね!?」
ノックもなしに唐突に部屋の引戸が開かれ、見たことのない『女医さん』が入ってきた。
バァンッ! と勢い良く、ベッドのテーブルに手を突き顔を覗き込んできた。
「フムフム……素材は悪くない。むしろ、是非とも変化を見てみたいものだ」
「あの……?」
私が訳も分からず女性を見詰めると、女性は豊満な胸の谷間から何か茶色の小瓶を取り出す。
「レディ! 貴方はもう一度、若さを手にしたくはないか?」
不敵な笑い顔が、私の顔のすぐ近くに迫ってきた。