天空からの来訪者。その名は【ナノ】
あの後ガッツは直ぐに行動を起こした。
とりあえず、王都内を歩き回って自分を置いてくれそうなギルドを探したが、やっぱり能力無しを受け入れてくれるギルドは一ヶ所もなかった。
“能力無し”というだけで、ここまで粗雑に扱われるものなのか──。
と絶望し、
『いっそのことゴルドが言うように、故郷に帰るか…?』
『故郷に帰らなくとも、“冒険者”とゆう職業を諦めればあるいは……』
とも一瞬考えたが頭を振り、瞬時にその考えを消す。
それは無い。その答えだけはあり得ない。
師でもあり、親同然のあの人の教えの一つ
『何があっても最後まで諦めるな。最後の最後その時まで、踠き足掻き続けろ。みっともなくても良い。思考をやめるな、動きを止めるな。そうすればいずれ必ず好機が来る』
に反してしまう。
そしてなにより、彼女との“約束”がある──。
『ごめんねガッツ君。私はここでリタイアだけど、ガッツ君はこのまま冒険者を続けてね…? 私の最後のお願いを聞いてくれてありがとう…。ガッツ君には才能があるって私はそう信じてる! そしていつか絶対凄い事を成し遂げる…。そんな気がするの! 根拠は無いんだけどね…。でも、だから───』
『えへへ…。 バイバイッ!』
溢れ出そうな涙を必死に堪え、愛嬌たっぷりの可愛らしい顔をくしゃくしゃにし、満面の笑みで送り出してくれた彼女。
本当は悔しくて悔しくて、どうしようもない怒りと悲しみと絶望で、胸が張り裂けそうな気持ちでいっぱいのハズなのに…。
彼女の性格上、いま直ぐにでも感情を爆発させて暴れ回りたかったハズなのに、それを無理矢理抑え込んで精一杯の強がりで微笑んで……。
誰よりも冒険者とゆう職業に強い憧れを抱いて想いを巡らせ、人一倍の努力をしていた。
それなのに、漸く夢が叶って冒険者としてこれからだって時に、あの手紙が届いて──。
そんな彼女との大切な約束を、これくらいの事で破る訳にはいかない。
なのでガッツは
『王都が駄目なら周辺の村や町のギルドならどうだ? 案外そっちの方が上手くいくかもしれない。別に王都に拘りはない。冒険者であり続けられるんだったら、何処だって良い』
と考え早速身支度をし、色々と準備を整えて、少しだけ後ろ髪を引かれる思いで王都を発った。
◇◆◇◆
王都を出て四日。
ガッツは王都から一番近くの町【フォルダム】に到着していた。
着いて早々にギルドを探しに行きたかったが、体力お化けと云われたガッツも流石に少々疲れたので無理はせず、大事をとって宿を探す。
宿を探しがてら町を探索してみようと思い、腹が空いたので屋台でミートベアの串焼きを買って、それを頰張りながら町を見て回る。
(なかなか住みやすそうな町だな。町全体の雰囲気も良いし、町民も人当たりが良さそうな人達ばかりだ…)
そんな感想を抱きながら暫くしてふと横道に目をやると、幼い女の子三人が会話しているのが目に留まる。
「クソー! 今日もまともに相手してもらえなかったのだあ!」
「仕方ないわよ。いくら“スキル”があるからって、私達の年齢じゃあ…」
「そうだよぉ~。それにお姉さん言ってたよね? 一見簡単そうにみえる依頼でも、絶対に安全ではないって! 悔しいけど、諦めるしかないのかも…」
「でも、それじゃあ孤児院が……」
女の子たちの会話を聞いて、
(あんな幼い子たちでもスキルを持っているのか…。それなのに俺は───)
と自分が少し情けなくなるが、気になる単語が出た事にガッツは思考し、三人に声を掛ける。
「キミ達ちょっと良いかな? 少し話を──」
「なっ、何なのだ! お前もアイツらの仲間か!?」
どうやら長身のガッツがいきなり声を掛けた事で驚いたらしい。三人はビクッとその小さい身体を跳ねらし、身を寄せ合ってこちらを睨み見る。
その中の一人。一番小柄で赤みがかった桜色の髪の子がガッツに食って掛かる。
「コウメたちに何の用なのだ! 孤児院は絶対お前たちの好きには──」
「待ってコウメ。このひとは多分、アイツらとは関係ないと思うわ」
青みがかった黒髪ロングを風に靡かせ、幼いながらもどこか知性を感じさせる猫目の子が、コウメと呼ばれた子を静止させた。
「そうなのだ? アオちゃんが言うなら…」
「そうだねぇ。アオバちゃんの言う通り、わたしもこの人は違うと思う〜。この辺りじゃあ見ない顔だしぃ〜…。旅のひとかな?」
今度は三人の中で一番身長が高く、茶髪でゆるふわウェーブのかかったセミロングな子が、黄色のワンピースをフリフリさせて、おっとりとした雰囲気漂わしながら聞いてくる。
「お兄さんは何処から来たんですか〜? 町の人じゃあないですよねぇ?」
「ああ。誰かと勘違いさせたのなら済まない。俺の名前はガッツ。冒険者で、先程王都からこの町に着いたばかりなんだ。町を探索がてら歩いてたらキミ達の話声が聞こえてね。ちょっと気になる事が耳に入ったから声を掛けさせてもらった」