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苦手な方はご注意ください。

トイレの花子さんの力は失踪してからが本番【後編】

作者: 南雲 皋

鬼のリレー小説、着地はしたけど複雑骨折。


前編:https://ncode.syosetu.com/n6889gm/

(著/フィーカス様)

 花子は不意に香ったつぶあんの匂いに目を覚ました。ガトーショコラを偏愛する花子に和菓子の匂いは効く。

 右目に入っていた虫を引っこ抜いてピンと弾くと、その虫はどこかへ飛んで行ってしまった。飛んで行ってしまったということは、この空間に出口があるということ。

 花子は両手両足をバタつかせたが、つぶあんに加えてステーキの匂いまでしてきてゲロを吐いて終わった。

 吐いたゲロはしっかりと花子に装備され、1%の確率でしかエンカウントしないゲロまみれ花子として登録された。

 どこかから帰りのホームルームを告げるチャイムが聞こえてきたが、その音が1オクターブ高いことに花子は震えた。

 その高さでチャイムが鳴るということは、道子が目覚めたということ。

 あのロンゲ許すまじ、ハゲ散らかせ道子……!

 花子は道子をハゲ殺すための拷問に想いを馳せ、その怨念は異空間を飛び出し、道子の元へと届いていた。


「花子をお探しなのでしょう? 大体の位置なら分かりますわよ」

 道子のその頼もしい言葉を聞いて、手刀で気を失っていた男子が目を覚ました。彼は道子の姿を見て鼻血を吹き出し、出血多量及び全身に広がる蕁麻疹(彼は道子アレルギーだった)で死にかけたが、玄関前に停まっていた救急車のお陰で一命を取り留めた。

 道子は彼の鼻血に塗れたロッカーの扉を開けると、そこから生ぬるいチーズケーキを取り出して食べ始めた。西原はイチゴジャムの涙を流しながらバタフライナイフを投げたが、それは咲のお手製伝説の剣によって破壊された。

 その破壊され具合が階段から落ちた男子の複雑骨折の具合とよく似ていたので、咲は学校まで押し掛けてきていたモンスターペアレンツにモーニングスターをお見舞いされかかった。怪物たちは伝説の剣に怯んだが、最終的に掃除用具入れの中のショートケーキを独占することで折り合いがついた。冷蔵庫から出したばかりで冷えていたのが功を奏したらしい。


 道子は案内すると言ってまたロッカーの中に這いずって行こうとしたが、着ていた体操服がズボンではなくブルマだったことで西原が教育的指導を要請し、西原と揃いの青いジャージを差し出すこととなった。

 それを断固拒否した道子は西原の脇を大量のカブトムシのツノで焼肉のタレまみれにし、勝利を勝ち取ったのだった。


「え、あなたたちロッカーに入れないの? とんだ困ったさんね」

 道子は咲がロッカーに頭を突っ込んだまま動けなくなったのを見て溜息を吐いた。

「徳を積むのも大事だけれど、老婆クエストも進めないと」

 そう言う道子に、咲の拷問パワーが一気に666くらい上昇した。道子はそれに気付かず、チェーンソーで羽虫を滅多切りにしながら廊下を進む。粉々になった羽虫は風に乗って保健室へ飛んでいき、ベッドに横たわる男子生徒の口の中で第二の前歯として再誕した。


 道子がずんずんと進んで行く最中、給湯室の前を通りかかったので咲はなにかないかと中を覗いた。給湯室の中は赤い手形で埋め尽くされていたが、咲はすぐにそれが花子とは全く関係ないことに気付いていた。

 花子と咲が一時期オセロにハマっていた時期、全く盤面を黒くできない花子が気合を入れ直すために天井に打ち込んだ掌底。鳥居代わりにしようというから赤く塗ったそれは確かに花子の手形だったが、オセロ最終局面で力を出しすぎた花子は自身に眠る厨二ドラゴンの誘惑に耐え切れず掌をガムの包み紙で作った伝説の槍で傷つけたのである。

 すなわち、今ここにある手形は花子の痕跡を残そうとした何者かの偽装工作。

 コンロ上のヤカンに入っていた死ぬほど渋いアイスティーで偽物の手形を清めれば、サンバのリズムで浄化されたコーンフレークが辺りに散らばった。


 三人は気を取り直して校舎を進んだが、渡辺や西田どころか誰の姿も見当たらなかった。

「ううむ、3密を避けろと言ったのが仇になったか……これでは増援は望み薄だな」

「西原先生ジャンボタニシとアメンボがいるじゃないですか」

「い、いやしかしあいつらはまだ教育が済んでいないぞ」

「だからこそいいのでは?」

「あっ、高山峰お前いま拷問のこと考えてるだろ! だめだだめだ!」

 咲は見透かされたような気持ちになって、西原のつむじを二つに増やした。

 刈り上げ坊主だった西原の髪は見る間に伸びて、それはそれは見事なアフロになったので咲は満足した。


「たぶんこの辺よ、花子」

 道子が立ち止まったのは体育倉庫の前だった。いつの間にか雨が本降りになっていて、トタン屋根に穴を開けんばかりの勢いで降り注いでいる。

 咲は確定チケットをひらひらとさせたが、雨が降っていては虹色演出もままならない。

 どうしたもんかと途方に暮れかけたが、西原が盗んだサトウキビを天に掲げると雨脚が少し弱まった。二本掲げれば、もうほとんど止んでいる。

 あと少し、あと何か一つでも雨を止ませるアイテムがあれば……!

「西原先生!」

 そこに現れたのは金田だった。修正テープの貼られた答案用紙を握りしめ、胸ポケットからははじかみ生姜が覗いている。

「先生! 点数がおかしいです!」

「お前勝手に職員室に入ったな!」

「西原先生! 今はそんなことを気にしている場合ではありませんわ! 咲さん!」

「はいっ! 金田くん、用があるのはその胸ポケットの生姜だけよ!」

 咲は伝説の剣で金田の背中に「お前は用済み」と刻んだ。塵と化した金田から、生姜が転がり出る。その生姜を天に掲げ、咲は願った。

(きょうの夕ご飯ははじかみ天丼やめまぁぁぁす!!)

 咲の声が届いたのか、雨は上がり、虹がかかった。その瞬間、咲の確定チケットが虹色に光り輝き、ゲロまみれの花子が道子に向かって射出された。

「甘いわっ!」

 道子は体育倉庫内のロッカーから給湯室の渡辺と用具入れの西田を取り出すと花子の盾にした。

 すでにハゲ散らかしていた渡辺は胸毛が消失し、かろうじて残っていた西田の髪は毛根から消滅した。

「花子さん!」

「咲!」

 花子は感動の再会を喜ぶために咲に抱きつこうとしたが、ゲロまみれだったために寸前で拒否された。悲しみのあまり呪いの化身になりかけた花子だったが、西原から差し出されたガトーショコラでぎりぎり正気を保った。


 かくして、花守小学校の平和は守られたのである。


 咲は新しい花子確定チケットと、道子確定チケットをランドセルからぶら下げて満足げに帰宅した。

 夕ご飯は天丼のタレご飯だった。



【了】


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