8-③
結局、井原から連絡するよりも先に、白波瀬から連絡が来た。
電話ではなかった。ただの文章。
それも、短い一文。
『大学どこ行くの?』
とんでもない時間に送られてきていた。午前三時。朝方七時くらいに起きて、メッセージが携帯に来ているのを確認して、井原は呆れた。どんな生活をしてるんだろう、この人。そりゃあ大学だって今は夏休みなんだろうけど、人間、だらけ方にも限度というものがある。
しかも、答えにくい質問。どっか志望考えてるの、とかじゃなくてどこ行くの。ひょっとすると白波瀬は高二のこの時期には自分がどこに行って何を勉強する、なんてことをすっかり決めてしまっていたのだろうか。ありえない話でもない。
なんだって、ありえない話なんかではないのだ。
結局、たっぷり二日は返信の内容に悩んだ挙句、寝起きの朝に、特に深いことは何も考えないで答えた。
こんな風に。
『行けるとこ行きます』
『どこ』
『偏差値がそれっぽいところに』
電話がかかってきた。
びっくりして一回切った。そうしたらもう一回かかってきて、さすがに取った。
なんで切った、なんて話は白波瀬は口にもせずに、
『どこ行くの』
と、
『うち来ないの』
と聞いてきた。
どうしたんすか、と井原が聞いても、それに答えることはない。ただひたすらどこ行くのどこ行くのうちの大学受けないのなんなの答えたくないの受けないのということだけを繰り返す。そういう妖怪みたいでちょっと怖くなって、行けたら行きますとだけ言うと、ふん、と言って電話が切られる。
あとで向こうからの弁明でわかったが、どうも最初にメッセージを送ってきたのが誕生日の次の日の朝(というか深夜)だったらしいだったらしい。大学の友達に祝ってもらって、解散して、家に帰って、そうしたら急に寂しくなって、発作的にメッセージを送ったのだそうだ。
ムカついたのだそうだ。
何か対応が素っ気なくて。
ごめんね、と謝られた。
でもちゃんとうちも受けてね、と念押しされた。
ちょっとうれしくて、それだけ。
がんばってみます。
あと誕生日おめでとうございます。
うむ。
それだけ。