第六十四話 禁足地の湖
「かなた、もうそろそろ起きる時間だぞ。」
え、もうそんな時間?領域の訓練の方が集中しているからか、時間が経つのが早いな。
「初任務なんだ、しっかり頑張ってこい。俺にもすぐに連絡できるようにしておけよ。」
「わかっているよ。何もないと思うから連絡することはないと思うよ。」
そういって俺は目を閉じる。そして目を開ければ、部屋の天井がみえる。
今日は7時には裏門集合だっよね。ならさっさと準備しないと。
さて、今は何時かな?
電子生徒手帳の画面を触り、時間を見る。そこには6:24と示されていた。
6時にはアラームが鳴るように設定しておいたのに!やっば!すぐに準備しないと!
俺はベッドから跳ね起き、素早く準備を始めた。
「かなた、遅い。任務には5分前行動って言っておいたでしょ。」
「まあまあ、そうかなただけを怒らないで。それなら、私も遅刻したから同罪だよ?」
「いえ、かなた様が遅れたのが主な原因です。桜様もかなた様をおいていけば良かったのでは?」
「桜がかなた殿をおいていけるわけないのでござるよ。」
「それもそうですね、桜様ですしね。」
「そうだね、桜さんだもんね。」
「三人して納得しないでよ!」
俺は裏門に着くやいなや、蒼に説教されてしまった。
着いたのは7時12分、12分の遅刻である。しかも、待ってもらっていた桜も巻き込んでしまった。
「まあ、それぐらいにしてやれ。早めに集まってもらったのは任務の再確認のためだからな。車で移動しながら確認して行こう。」
説教を止めてくれたのは今回の任務の引率を務めてくれる紅蓮先生だった。
「紅蓮先生がそういうなら。」と蒼は説教を止めた。次から気をつけよう。少なからず、桜は巻き込まないようにしないと。
そして俺たちは紅蓮先生の運転で任務地に向かう。
今回の任務先は車で数時間のところにある山の中。なんでも、近くにあった村の神がいる禁足地として、信仰の対象になっていたらしい。
前にも聞いていたが、その山の中心に湖があり、そこにある祠の結界の修復が俺たちのメイン任務。ついでに周りに異変がないかも調査することになっている。
「紅蓮先生、そこって禁足地なのでござるよね?我々《陰陽師》が入ってもいいのでござるか?」
「ああ、そこを管理していた神社が廃村と同時に潰れてしまってな。泣く泣く神主が陰陽師に祠の管理を任せた。だから大丈夫だ。」
管理するものがいなくなれば、綻ぶのも当たり前か。
禁足地で信仰の対象になるって、どんな神様が祀られていたんだろう?
「そういえば、祠に封印されている妖怪ってどういった妖怪なんですか?」
ナイス、桃さん!封印されている妖怪っことは人に対して悪事を働いたってことかな?
妖怪が封印されているってことは大体、悪事を働いたからって理由だからなぁー。
「そうだな、何もないと思うが事前に教えておいてもいいな。」
先生、バックミラー越しにこっちを見ないでください。俺だってないと信じたいですよ。
「まず、湖関係の妖怪といえば何が有名だ、初瀬?」
「はい!河童や沼御前、あと大蛇などが有名です!」
「ああ、その通りだ。初瀬、よく学べているな。そして今回の封印されているのはその大蛇だ。」
大蛇か。漢字の通り、大きな蛇だ。大蛇というのは固有名称ではなく多くな蛇の妖怪の総称のようなものだそうだ。
有名な八岐大蛇も大蛇に分類されている。
日本には多くの大蛇の伝説があったはず。今日の任務はその中の一つということだろう。
「封印される前は近隣の村に洪水を起こしたり、家畜を食らうなどのことをしていたそうだ。さらに、詳細はわからないが水を使った攻撃手段を持っていたと言い伝えられている。」
水を使って攻撃してくる妖怪を湖に封印するのはどうなのだろうか?
「さて、もう少しで目的地に着く。準備をしておいてくれ。俺は車内で待機しているから、各自で状況に応じた対応をすること。もう一度言っておくが、術式を使うときは必ず現乖離結界の中で使用するように。」
「「「「「了解。」」」」」
そして数分後、俺たちは目的地の禁足地の山についた。湖はここから20分程度のところにあるらしい。
前衛は蒼、中衛は俺と茜さん、桜と桃さんで後衛といった陣形。
今回は俺と桜、桃さんが初めての任務ということもあり、簡単な任務を選んでくれている。
俺たちは湖を向い、歩き出す。
やはり、禁足地の山なだけあって獣道。ほとんど人が入った形跡がなく、自然そのものだった。
木漏れ日が降り注ぐこの感じ、なんかいいな。
人の手が加えられていない自然って、最近じゃ少なくなってきているし、珍しいか感じてしまうな。
「かなた、任務中なんだからもう少し集中しようね。まあ、禁足地ってテンション上がるのはわかるけど。」
「蒼様、そこはわからなくていいです。もしかしたら、周りの地形を把握しているのかもしれないですよ。限りなく低いですが。」
地形の把握なんてしてない。違うけどさ、もう少し優しくいってくれないかな…。
「茜さん、かなたをあまりいじめないであげてくださいよ。」
「そうでござるよ。限りなく低くても言わぬが花でござるよ。」
桜、ありがとう。そして、桃さんは傷口に塩を塗らないでほしいな。
そして歩いて数分、湖に着いた。
うわぁ……、すごい綺麗だ。
綺麗な青が視界全体に広がる。太陽の日差しが水面に反射して鮮やかに輝く。
透明度も高く、泳いでいる魚影すらはっきりと見える。
中心にはぽつりとした島があった。島というにはあまりにも小さいけれど。
「さて、さっさと任務を終わらせよう。初瀬さん、結界をお願いしてもいいかな。あそこの島まで渡りたいからさ。」
「了解でござる。『分かて、現ならざるものを。現乖離結界符 救急如律令』」
札がなくなった瞬間、桃を中心に透明な球体が広がる。
これが現乖離結界符か…。また自体は変わってないからすごい違和感があるけど、これで一般人が結界内に入ることができなくなった。
「ありがとう。次は僕の番だね。」
そういうと蒼は軽く地面に手をつく。あれ、何しているんだろう?術式を使っていないはずだけど…。
「かなた様、桜様、桃様、目に明力を集中させ、『視』を行ってください。そうすれば、蒼様の行っていることがわかりますよ。」
そう言われて俺たちは『視』を行う。すると蒼の明力が目に見える。
すごい。蒼の明力が無駄なく地面を伝って湖へと流れていく。術式なしにここまで綺麗に無機物に明力を流すなんて。
「これでよし。みんな、僕についてきて。」
明力を流し終わったのか、蒼は湖に向かって歩き出す。
「蒼殿、危ないでござるよ!」
「桃様、大丈夫ですよ。ほら。」
蒼を見ると水面に立っていた。足元は全く濡れていない。
「さっき明力を流していただろう?一部分だけ、水を操作できるようにしたんだ。僕の明力が流れた液体はある程度操れるから。」
なるほど、さっき明力を流していたのは水を操って小島までの橋を作るためだったんだ。
「その代わり、僕から離れたすぎないでね。着衣水泳をしたいなら別だけど。」
俺たちはそそくさと蒼に近づいた。
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