測定不能
いつものように目が覚める。ぬらのと組み手、夢の中だから身体は休まるけど、脳は疲れ続けるんだよな。
明力操作で少しは体が楽になるとはいえ、疲れるんだよなぁ。慣れたら大丈夫になるのかな?
「おーい、かなた!桜ちゃんが迎えにきているぞ!さっさと準備して降りてこい!」
時計を見ると7時半を超えていた。
まっず…。早く準備しないと遅刻する。
「すぐ準備するから!」
俺は瞬時に着替えて下へと降りる。
「おはよう、かなた!遅いお目覚めだね?」
「そうだぞ、かなた。女の子を待たせるなんてな。」
ダイニングには桜と父さんがいた。
うん、昔から仲がいいとはいえ、なんでこうも普通に家にいるんだ?俺としては朝から桜の顔が見れて嬉しいけど。
「桜ちゃん、ごめんね朝食の準備手伝ってもらっちゃって。」
「いえいえ。かなたには、いつも助けてもらっているのでこれぐらい当然ですよ!」
「桜ちゃんがかなたを助けているの間違いじゃないのかい?」
「二人とも、本人の前でそんな話しないでよ。」
この人たち、俺のこと忘れているでしょ。本当にもう、恥ずかしいったら。
まぁとりあえず、さっさと朝ごはん食べちゃおう。
「それじゃ、行ってきます父さん。」
「行ってきます!」
「二人とも気をつけてね。」
俺と桜はさっさと歩き出す。話すことなんて、たわいないことだけど、朝から一緒に登校できるのは普通に嬉しいんだよね。
俺としてはこれを普通にできると嬉しいんだけど…。
「そういえば、任務までもう数日後だね。現とはいえ、気を抜けないね。かなたの場合、トラブルに巻き込まれやすい体質なんだから。」
「猫には注意しておくよ。それに最近、死にかけたばかりだから、そうそうないと思いたいね。」
猫が鬼門を開くなんて、普通じゃないことは明白だし、何かありそうだね。できれば、もうないと嬉しいな。
「深刻な顔をして、どうしたでござるか?」
「うわぁぁ!」
後ろから急に声がする。
そこには桃さんが立っていた。
「そんなに驚かなくてもいいではないですか?」
「桃、おはよう!」
「心臓に悪いから気配を消さないでよぉ…。」
「申し訳ないでござる。癖みたいなものなんでござるよ。」
本当に心臓飛び出るかと思ったよ。なんでこんなに静かに背後を取れるのこの人…。
「それにしても、訓練しているとすぐに日が経つでござるな。任務まであと3日でござるな。」
「そうだね!現の任務だから戦闘もないし、安心だね!」
鬼界はどこに死があるかわからないけど、現だと、常に陰陽連が監視しているから危険になることは少ない。
とはいえ、俺と桜は半年前に現の妖怪に襲われているから少し怖いけど。
「放課後に訓練できるのもあと3日でござるし、色々と準備を終わらせておきたいでござるな。」
「そうだね!そういえば、かなたと蒼くん、茜さんは組み手ばかりで大丈夫なの?お互いの術式とか把握して準備をしておいた方が良くない?」
言われてみればそうだな。お互いの術式を一度見せ合っただけだっただけ?
もう少し詳しく聞いて、実践で互いに動きやすくなるようにしておくべきか。
「そうだな。前衛の動きが噛み合ってないなんてことが実践であったら死にかねないしね。今日にでも話してみるよ。ありがとう、桜。」
「どういたしまして!かなたの役に立てたなら嬉しいよ!」
ああ、もう可愛い。ちゃんと俺のことを考えてくれていることが嬉しすぎる。
「拙者のことを忘れているのではないでござるか?」
「い、いや!そんなことないよ、桃!ただ、かなたが忘れないようにって思っただけだから!」
「そ、そうだよ。……あ!もうそろそろ急がないと遅刻しちゃうよ!」
俺は誤魔化しとばかりに走り出した。
やっぱり、桜のことになると周りが見えなくなるよね。
そして、放課後。桜と桃さんはいつものように固有陰陽術式の練習を始める。
余った俺たちは準備運動がてらに組み手を数回行い、桜からの助言をそのまま蒼と茜さんに伝える。
「そうだね。僕たちの術式はまだ見せあっただけだし、もう少し性質を理解しあった方が戦いやすいだろうね。」
「かなたさんの術式は蒼様と相性があまり良くありませんし、考えておいた方がいいですね。」
やっぱりそうだよね。俺も考えていたけれど、蒼の術式は水を操ることだから、俺が凍らしてしまったら意味がなくなる。
茜さんの術式も血であるとはいえ、液体には変わらない。下手をすれば茜さんの攻撃すらダメにしてしまう。
あれ?俺、術式使わない方が良くね?
「かなたの戦い方って確か近接が主だったよね?凍らせる範囲は自分で決められるの?」
「そうだね。正確に測ったことはないから予想になるけれど、多分大丈夫。最大も試したことはないからわからないけど。」
俺の陰陽術式『氷結領域』は俺を中心として半径約6メートルの円ができる。
鬼人との戦闘で初めて使ったけど、感覚的にまだ伸ばせそうだったんだよね。
だから、数メートルは凍らせることができそう。
「わかった。一応、どのくらいの距離まで凍らせることができるのか知りたいし、試してみようか。演習場は数キロはあるから試すには順番な距離だ。」
「そうですね。一度、桜さんや桃さんにも来てもらいましょう。全力で行っても問題ないように。」
そう言って茜さんは二人を呼びに行く。
これ、本気でしないとダメだよね。正確に距離を測るためだし。
俺自身試したことがなかったし、ちょうどいいかな。
「かなた、集中して全力でやるのはいいけど、聞き耳は立てておいてね。制止する声はしっかりと聞くように!」
「わかってるよ。とりあえず、術式を発動するね。」
蒼から数メートル離れ、術式を発動する。
よし、うまく発動したね。やっぱり毎回テンション上がるな。男の子はこういうのに弱いからね。
「かなた!全員揃ったから、全力で向こう側の壁目掛けてやっちゃって!数キロはあるから本気でも大丈夫!」
「わかった。本気で行くよ!」
俺は明力を両腕に貯める。
集中。方向は一方向に、まっすぐ。範囲は演習場の中で収まるように。蒼たちがいる方向には冷気を向けない。
よし、いける。
俺は両手を地面につく。そして一気に明力を解放する。
俺の目の前は徐々に白銀の世界に様変わりしていく。
そして数秒後には目の前、全てが白銀に変わった。
「かなた!ストップ!両手を地面から離して!」
おっと、危ない!演習場が冷凍庫になるところだった!
うわぁ……、えっぐ。これ俺がやったの?一瞬で別世界じゃん。
「これって、距離わかったりする?」
「いや、測定できてないね。奥の壁まで完璧に凍っている。でも、方向は完璧に制御できているね。足元を見てみて。」
言われた通り、視線を下に落とすと、手のついた位置から横へ一直線に境界線が引かれていた。
俺が想像していた通りになったみたいだった。
「かなたさんの術式は威力、距離、範囲において申し分がない。かつ、指向性も完璧。それを陰陽師になって一年以内でやりきるなんて……。」
「拙者、感服致しました!流石はかなた殿!」
褒められるとなんか照れ臭いなぁ。でも、正確に距離が測れていないけどいいのかな?
「それにしても、これどうするの?演習場カチカチだよ?」
あ、そうだ。桜の言った通り演習場は約八割が銀世界。このままじゃあ紅蓮先生に怒られる⁉︎
「ああ、大丈夫だよ。入り口の隣に操作パネルがあったはずだから、少し待っててね。」
そう言って蒼は入り口の扉の方に走っていく。そして横のパネルをいじり始める。
すると、氷が徐々に消え始める。
え、なにこれ?うわぁー、すっご。現代の技術ってやばい。
なんか、蒼がすごい顔してる…。ん?なにあの顔。すごい形相でこっちに向かってきてるんだけど⁉︎
「かなた!君、僕が止めなかったらまだ距離伸ばせた?」
「え、あ、うん。多分、できると思うよ。止められていなかったらもう少し明力を注げたからね。」
実際、止められなければ、あのまま明力を全部使っていただろうし。全力ですると言っても、瞬間的に出せる量は俺の明力の三割が限界だし。
やろうとすればできるかもだけど、明力の使いすぎでぶっ倒れるしなぁー。
「はぁ〜〜〜、かなた、君は全力を使っちゃダメだ。今の術式だけで、ここだけじゃなく隣の演習場まで凍っていた。この時点で10キロは超えている。これが地上に出たら凍傷で人が死ぬ。」
うん、そうだね。見たらわかるもん。あ、これダメなやつだって。
今のところ明力の消費も大したことないし、回数は打てる。時と場所を考えて打たないとダメだなぁ。
「で、どう?何か任務に役に立ちそうなことわかったかな?」
「そうだね、規格外すぎるってことはわかったよ。あと、さっきも言ったけど指向性は完璧。でも、実戦では仲間がいない時にしか使えないかもね。」
やっぱり全力は出さない方が良さそうだね。個人戦なら自信があるんだけどなぁー。
でも、やっぱり集団戦に慣れておいた方がいいなと思う。今のところ、桜と紅蓮先生の二人としか一緒に戦っていないし、最後なんて俺一人だけだったし。
ぬらに相談してみようかな。集団戦でまともに役に立ちそうなのって、今のところ氷結領域しかないんだよな。
固有陰陽術式も籠手だけ。ガッツリ近距離型だし…。
「でもでも!指向性は完璧ってことは明力操作がほぼ完璧ってことだよね!それで力の底が見えていないのは戦力としては破格の性能ってことじゃない?」
「そうでござるな。味方同士の間を綺麗に通して凍らすことができれば完璧でござる!それにこれほど瞬時に物体を凍らすことなど、普通の陰陽師にはできないことでごさる!」
そう褒められると照れるな。でも、実戦では困りものだ。大体…
「仲間の間を綺麗に通して凍らせるとか簡単じゃないだろ、とか思っていませんか?」
「茜さん、俺の考えを読まないでくださいよ。」
「失礼、分かりやすい物ですから。でも、実際難しいですよ。私も単純な通し方でも数ヶ月かかりましたから。」
茜さんで数ヶ月って、俺だと何年かかるんだろ?
「ですから、任務で使えるように私が教えて差し上げます。3日しかありませんから、少しキツくなりますが死なないようにはしますので。」
「あーあ、あかねえさんの悪いところが出たよ。」
蒼、あーあじゃない。これ逃げた方がいいよね?俺、まだ死にたくないし。
「茜さん、流石に時間がないですし、任務が終わってからゆっくり教えてもらうということで…。」
「いえいえ、早い方がいいに決まっています。さあ、まだ時間がありますから行きましょう。」
やめて、肩を引っ張らないで!助けて!
俺は3人に目線を送る。
桜と桃さんは完全に目を逸らし、蒼は菩薩顔で合唱している。
あ、これダメなやつだ。
「いやだぁぁぁぁぁぁあ!」
俺の悲鳴は演習場に大きくに響いた。
投稿が遅くなってしまいました…。
誤字、脱字などがありましたら連絡していただけると嬉しいです。
感想も随時受け付けていますので、よろしければ書いていっていただけると嬉しいです!