第三十七話 刀での戦闘
鬼との距離をつめ、そのまま切りかかる。
6本ある足のうち、手前の2本を一太刀で斬り裂く。鬼は前足が無くなり、バランスを崩す。
す、凄い。初めて刀を握ったのに、力の入れ方、刀の角度、踏み込み方、全てがわかる。
殴った時にあんなに硬かった鬼が豆腐を切る様にすんなり切れた。
これがトレース…、これならいける。
斬り裂かれた鬼の足の断面は氷に包まれていた。氷に包まれているせいか、鬼の足はなかなか再生されない。
このまま、全ての足を切り落とす!
足に力を入れ、地面を強く蹴る。
だが、鬼も足を切られ怒号をあげる。巨大な人の手で俺を潰そうとしたのか、腕を大きく振り下ろしてきた。
俺は刀の持っていない左手で数本短剣を作り
鬼の手に投げるつける。
まともに刺さったのは2、3本。でも、これで十分。
刺さった短剣から徐々に氷が広がり始める。
俺はそれを確認すると明力操作で加速する。鬼の手が俺のさっきまでいた所をえぐる。
だが、その衝撃で氷の部分を中心に手が音を立てながら砕け散る。
よし、計算通り!初めてやったから上手くいくかわからなかったけど、これで少しは祓いやすくなった!
加速したその勢いのまま、残りの足を切り落とす。
「夜桜、桜に連絡とってくれ!」
『了解。』
数秒後、インカムから桜の声が聞こえる。
『どうしたの?今、敵の頭を集中的に狙ってるところだけど。』
「今からこいつを凍てつかせる。それを確認できたら、高火力の矢を鬼に向かって放ってくれ。」
『わかった!無理はしないでね。』
「わかってる。そっちも頼んだぞ!」
そう言って電話をきる。
よし!桜の矢が有ればいける!
俺はその場で飛び上がり、鬼の上に着地する。
すぐさま鬼の背中に刀を突き立てる。
だが鬼も攻撃に気付き、左手で攻撃を仕掛けてくる。
だけど、俺の方が攻撃が速い!
俺はそのまま、突き刺さった刀に明力を流し込む。
すると、刀を中心に氷が鬼を包む。鬼の体を氷にするまで1分も掛からなかった。
よし、すぐさまここを離れないとな。もうすぐ、桜の矢が飛んでくる。
あんな爆発に巻き込まれたら、ただじゃ済まない。
だが、俺の耳はこちらに向かってきている独特の音を捉える。
それはどこかで聞いたボオォォォ!という音だった。
やばい、やばい、やばい!
明力操作で身体強化をし、一気に鬼から離れる。
離れですぐ、凄い爆発と熱量が俺を包む。
「あぁぁぁ、死ぬかと思った!」
爆発に巻き込まれ地面に叩きつけられたが、地面と身体の間に明力で作った雪をクッションにして衝撃を抑えた。
鬼は小さい氷の結晶となってそこら中に散らばっていた。
これなら祓えきれたかな。
とりあえず、紅蓮先生と合流しよう。まだ、鬼がいるかもしれないし。
それにしても、桜の矢の威力おかしすぎない?高火力って言ったけど、ここまで?
これで開発段階って相当やばい気がするな…。
「まさか二人で倒し切るとはな。だが、最後のは危なかったぞ、かなた。」
不意に後方から声がかけられる。
「紅蓮先生!」
よかった!紅蓮先生とあえた。だけどなんでだろう?先生の方が少し震えている。
まるで、笑いを堪えている様な。
「かなた、まず、 その頭をどうにかしろ。」
「え?」
そう言われて頭を触ってみる。すぐに違和感に気づく。
頭がというより髪型が、アフロのよう髪型になっていた。
桜のもとに戻るまでに、髪を元の形に近づけた。まだところどころ跳ねてるよ…。
桜は俺たちを見つけるなり、笑顔になりこちらに駆け寄ってきた。
うん、かわいい。
「先生!かなた!無事でよかった!」
「ああ、桜も無事でよかった。それにしても、あの矢の威力は凄いな。そのおかげで面白いものも見れたしな。」
先生、俺の方を見ながら話さないでくださいよ…。
「面白いこと?」
ほら、そんなこと言うから桜が首を傾げながらこっち見てるよ!
急いで話の方向を変えないと!そうしないと、アフロのことが桜に知られる!
「そ、そんなことより、先生は大丈夫だったんですか?一人で大型と戦ってましたけど?」
「それなら、かなたが鬼の足を2本切り落とした時には終わっていたぞ。」
ちょっと待って。そんなに速いの?ってことは俺の所要時間の半分で祓い切ったってことだよね?
「半年でどこまで出来るようになっているか知りたくてな。かなたがやばくなったら助けに入ろうと思っていたが、まさか二人で祓い切るとは思ってなかった。」
つまり、俺たち二人は先生の予想を超えた結果を出せたってことだよな?
これは素直に嬉しいな。
俺たちはちゃんと成長できてる。鬼と戦える術を自分のものにできてきている。
これで鬼から桜を護ることができる。
でも、まだ固有陰陽術式は完成してないし、当面の目標は固有陰陽術式を完成させることでいいかな。
「任務も終わったことだ、帰るぞ二人とも。」
「「はい!」」
とりあえず帰って風呂に入りたいな。なんか女子みたいなこと言ってるな。
だが、報告までが任務だ。帰りも集中力を切らさず落ち着いて帰ろう。
俺たちはそのまま歩き出した。
刹那—俺の身体が、本能が警鐘を鳴らす。全身から嫌な汗が噴き出る。
理事長とも彗馬さんとも違う。
例えるなら、蛇に狙われた蛙の様な、圧倒的な強者に睨まれている感覚。
だが、紅蓮先生と桜は気がついていない。
「かなた、どうした?」
先生が俺の足取りの悪さに気がつき、話しかけてくる。
「だ、大丈夫です。」
俺が返事を返す頃には身体の重みは消えていた。
なんだったんだろう?
だけど、あれは紛れもなく本物の殺意だと思う。初めて感じたものだけど、寒気が治らない。
鬼界を出たら紅蓮先生に相談しよう。
誤字脱字等ありました連絡してくれるとありがたいです!




