う そ つ き
僕は嘘をついた。親友である君に。
僕と同じ分野で、君は活動を始めた。
長年、僕はそこで懸命に戦っていた。経験値はそれなりにあると自負している。
君がここにやってきて、僕は嬉しかった。
負けるなよ、なんて言って、先輩風を吹かせてた。
──最初だけは。
君はどんどん僕を追い越して、瞬く間に高みを駆け上がっていった。
その瞬間、何かが変わってしまったんだ。
僕がこれまで丁寧に積み上げてきたもの。
それが、音を立てて、足元から崩れていく感覚がした。
嫉妬。恐怖。憧憬。劣情。焦燥。絶望。
苛烈な想いが胸をえぐり、悲鳴を上げそうなくらいの痛みが襲ってくる。
敵わない、と一人震えた。
圧倒的な才能を見せつけられ、僕はただその現実に膝をついたのだ。
君は評価されたと僕に知らせ、無邪気に笑っている。
僕に生まれたおぞましい激情など、知るよしもない。
もし君が、この醜い部分を知れば、どう思うだろう?
優しい君は、傷付くだろうか。
それとも、こんな僕を、腹の底から軽蔑するだろうか。
「良かったな。この調子で頑張れよ」
虚構の笑顔で、罪悪感と劣等感をひた隠す。
今日も僕は君に嘘をつく。