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異世界貴族の暗躍無双~生まれ変わった史上最強の暗殺者、スローライフを諦める~  作者: 俺2号/結城 涼
五章―七国会談―

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もやっとしたりした。

 占い師と別れてからは屋敷に戻った。

 そして、朝食をとってから、二人との約束を果たすべき屋敷を出たのだ。


 向かった先は、町外れにある静かな場所。

 このあたりは幼い頃の俺もあまり足を運んだことのない場所だ。


 透き通った清流は美しく、近くの新緑とのコントラストは見事な川で、場所は森の近くになる。

 俺はここで、川の中に落ちていた大岩に腰を下ろして二人の声を聞いていた。



「――――奥の方は泳げそうですね。ミスティもそう思いませんか?」



 アリスが水の上を歩きながら楽しそうに言う。

 真っ白なワンピースを着た彼女はスカートのすそを両手で摘まみ、川の中を歩いていた。その姿は、傍から見ていると妖精のようだった。



「ダメだからね。さすがに肌を晒すのは抵抗があるもの」



 そう言ったミスティも同じで、人間離れした可憐さを湛えている。

 帝都やフォリナーに居るとき以上にリラックスした表情からは、田舎の空気と川の冷たさを楽しんでいるのが伝わってきた。



「当たり前だけだけど、駄目だからな」


「ぶぅ……ちょっとぐらいなら平気じゃないです? グレン君しか居ませんよ?」



 昨晩の給仕たちの姿を思い返すと、二人が水着に着替えても許されそうな気がする。でもここは外だ。何があるか分からない。



「そもそも、二人は水の中に入れる服じゃないじゃん」


「言われてみれば確かに……。やははっ、さすがに服が透けたまま歩くのは恥ずかしいですね」


「そ。だからまた今度にしましょ」


「はーい。――――グレン君も、またの機会でいいです?」



 どうして俺に振るのか。これが分からない。



「なんで俺も泳ぐことになってるのさ」


「はえ? 逆にどうして泳がないんですか?」



 困った俺はミスティに目を向けて助けを求めたのだが。



「…………一緒に、泳ぐの?」



 警戒されていた。それはもう全身を強張らせて俺を見ていた。

 そんなミスティは両手でつまんでいたワンピースの裾を片手に持ち替えると、もう一方の手で上半身を隠すようにもぞつかせながら半歩後ずさる。

 視線から敵意や嫌悪は感じられないけど、どこかおっかなびっくりに羞恥しているようだった。

 一言で言うと、恥ずかしがっている。

 


 ふむ……たまには軽口でも叩いてみるか。



「泳ぐって言ったらどうするのか聞いてもいい?」



 きっとこれは、俺自身も故郷に帰って気分が高揚していただけなのだ。そう、そのせいだと言い訳させてほしい。

 誰に言い訳するわけでもないが、強いて言うなら自分の脳に。



「ッ~~ア、アリスっ!」


「ど、どどどどうしたんです!? ほっぺが真っ赤ですよ!? ってか、いきなり抱き着かれちゃうと――――ちょ、ちょっと!?」



 言葉に詰まったミスティにいきなり抱き着かれ、バランスを崩したアリスと身体が重なり水の上に向かっていく。

 慌てて立ち上がった俺が二人の身体を支えに行こうとすると、不意に冷気が漂いはじめた。



「急に変なことを言ったアリスが悪いんだからねっ!」


「冷たっ!? ミスティ! 私の背中が冷たいですよっ!?」


「水を凍らせたんだから当たり前でしょっ!」



 バランスを崩したアリスの背が人間大の氷柱に支えられていた。

 さすが、氷華の異名を持つ第三皇女(ミスティ)。このぐらいお手の物らしい。

 ――――しかし、ふと。

 ひやっと冷たい背中の感触に対し無意識に身体をくねらせたアリスが「ふぇ?」と情けない声を漏らして、氷柱に預けた背を滑らせてしまう。



 これにはミスティもきょとんとして、手を差し伸べることを忘れてしまった。



「って――――!?」



 動けたのは俺だけ。アリスの身体を支えようと慌てて距離を詰めて腕を伸ばすが、残念なことに一歩遅い。

 抱き寄せるように庇ってみたものの、結局――――。



 ばしゃん! と音を立てて水飛沫が舞う。



「……これは不可抗力だから。泳ごうと思ったわけじゃないから、忘れないように」



 言い訳を口にした俺は腰から川の水に浸っていた。

 アリスはワンピースの裾こそ大きく濡れてしまったが、他には飛び散った水で胸元が僅かに濡れたのみだった。



「グレン!? ごっ――――ごめんなさい!」


「大丈夫だけど、どうしてミスティが先に謝ったのさ」


「だって私が急にあんなことをしたから……っ! ま、待ってて! 私、お屋敷に行ってグレンの着替えを貰ってくるからっ!」


「だから大丈夫だッ――――行っちゃった」



 どうせなら一度帰ってもよかったわけだが、一目散に駆けて行ってしまったミスティを止めることは叶わなかった。

 というか、皇女なんだから一人で行動することにもう少し警戒してほしいものだ。



「…………どうします?」



 と、俺の胸板に手を付いていたアリスが言った。

 にゅふふ、こう笑うアリスを見ていると嫌な予感しかしない。



「聞くだけ聞いとこうかなって思ってる」


「せっかくですし、このまま私と泳ぎま――――」「泳がない」「――――即答ですね。何なんですか? 私と一緒に泳ぐことが出来ないって言うんですか?」


「大前提として、泳ぐ服装じゃないってのを忘れちゃだめだと思うんだ」


「あっちゃー……残念ですが、その理論は破綻してます。だってグレン君、もうびしょびしょじゃないですか。もう同じですよ、おーなじっ!」


「アリスはまだ大丈夫だろうに――――ほら、そろそろ身体を起こすから」



 体勢が体勢だがアリスが濡れてしまわないよう心掛けた。俺は無遠慮にアリスの両脇に手を差し入れると、ぐっと力を込めてそのまま立ち上がる。

 急な行動に「わわっ!?」とアリスが驚いていたけど、それは一瞬で、すぐに以外と楽しそうな顔を浮かべていた。



「うわぁ……すごいすごいっ! こんなのはじめてですっ!」


「俺もはじめて経験してるよ」


「安心です! 何度も経験してたって言われたら、グレン君をしょっぴかないといけないところでしたっ!」



 どこにだろう。

 気になるけど尋ねはしない。



(そこでいいか)



 さっきまで俺が座っていた大岩に近づき、アリスを下ろして座らせる。

 俺を見上げるアリスを川の水に反射する陽光がきらきら彩り、元から可憐な笑みが光に化粧されたように見えた。



「どうしましょう。癖になっちゃいそうです、コレ」


「お願いだからならないで」



 満足げに言ったアリスはワンピースの裾の水をしぼりだす。細くて白いふとももが悉く露出されて、時折、付け根まで見えてしまいそう。胸元だって、濡れたところの生地が肌に張り付いて煽情的だ。



 また無防備に、と俺は目を奪われていた事実を棚に置いて顔を反らす。

 けど、一瞬でも目を奪われていたことに気が付かれていたらしく。



「…………あー、ワルなんだぁ」



 くすっと小悪魔のように可憐に、だけど嫣然と、アンバランスな笑みを浮かべたアリスが蠱惑的に俺を見上げる。



「でも、ちょびっと安心しました。グレン君ってば、いっつも平然としてる気がしますし。私ってそんなに魅力ないかなーって思ってたりもしたので」


「――――濡れてないか心配しただけだって」


「ふふっ、それはそれで嬉しいですけどね」


「次から気を付けるように。お互いのためにも」


「…………あのぉ。私って今まで傍に居た異性がグレン君だけですし、油断しきっちゃうのも無理はないんです。つまり、私は悪くないって思いませんか?」



 ね? と俺を見上げたまま小首を傾げて同意を誘った。



「だいたい私だって、他の人が居たらもうちょっと気を遣いますよ?」



 逆に他の誰かが居るときに、アリスが今のような姿を晒すことを考えた。ありえないと断言できるぐらいには普段のアリスはしっかりしてる。

 だからあくまでも可能性の上なのだが、他の男に今のアリスを見られるのを想像したら、心がもやっとしてしまう。



「あのー……なーんで急にむすっとしたんです?」


「……返事は差し控えることにしたんだ」


「お、男心って難しいですね」



 俺は言葉には出さず頷いて返すと、俺は濡れて張り付いたシャツに手を伸ばし、ボタンを一つだけ外したのだった。

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